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エターナルトラベラー

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第四十三話

その日は朝から慌ただしかった。

なにやら本来ならば機動六課の担当はロストロギア関連の事件である為に関わるはずの無い事件だったのだが、その特異性により出動が要請される事となったようだ。

今日はユーノさんとの待ち合わせの日だったのだけれど、同席するはずのなのはさんとフェイトさんは任務優先で現場入り。

かく言うユーノさんもなかなか現れないもので、その日一日は待ちぼうけを食らいました。

そんなこんなで時間はすでに夜。

ようやく時間の取れたなのはさんとユーノさんの登場で、ユーノさんが調べた無限書庫での時空間移動なりパラレルワールドなりの報告を聞く。

六課内の個室に案内された俺達は、神妙な面持ちで報告を聞く。

「まず最初に謝らせてくれ」

そう言ってそうそうに頭を下げるユーノさん。

どうやら指定の時間に来れなったことに対するには大げさな態度だ。

「時間に遅れた事も謝らねばならないことだけど、簡潔に言うと、時空間移動の書物に信憑性のあるものは発見できなかった」

そう、すまなそうに再度頭を下げた。

まあ、それはそうだ。

時空間移動なんかが自在に出来れば、それはとてつもない混乱を招く。

良識ある人ならば発見したとしても隠すだろうし、残すにしても見つからない所や、記した書物を暗号化するなどの対策を取るだろう。

「だけど君達が追加で調べてくれと言われた魔王アイオリアの方の本に彼自身が記したと思われる蔵書を発見したよ」

これがそれだ、と厳重に保管されているケースをテーブルの前で開いた。

現れたのはハードカバーの装丁の古めかしい一冊の本。

その表紙を飾る模様は一目でそうと解る。

この本の著者は…

「竜王アイオリア。古代ベルカ時代の列強の王。その名も高き善王だが、今の聖王教会が台頭している現代ではその存在は聖王に敵対していた国の王である彼の評価は辛らつだね。それゆえに魔王と言われることが現代では多い。
そして竜王アイオリアで検索魔法を掛けると手元に現れたのがコレ。最初はぜんぜん違う装丁だったのだけど、どうやら誰かが魔法を掛けていたみたい。それで、その解除方法がアイオリアでの検索魔法の使用」

本来そこにあった本とは表紙も中身も一瞬で変わったと言う。

本来ならば持ち出す事すら禁止されているであろうソレを、無理を通して俺たちのために持ち出してくれたそうだ。

「とは言っても、中身は当時、彼の王が記した日記だけれどね」

すでにユーノは中身は一通り読んだのだろう。

内容は他愛も無い日常の出来事が綴られている。

「まあ、それでも当時を知る貴重な資料には変わりない」

そう言ってユーノさんは俺達に中身を取り出して見せてた。

表紙を開くと表紙の裏には一言、

『目を凝らして読むこと』

とだけ書いてあった。

目を凝らすね。

表紙を飾るあの模様と相まって推察される事は一つ。

「この本は貸してもらう事は出来ますか?」

「ごめん、残念だけどね。今ここまで持ち出すのにも結構苦労しているんだ」

ある意味歴史的財産といった所か。

ならば今ここで確認しなければならない。

【なのは、なのはー】

直ぐに俺は俺たちのグループへの念話を繋げる。

【ふぇ?なに?】

俺の念話に少々驚きながらも応えるなのは。

【悪いんだけど、この表紙の裏を『凝』で見てくれる?】

【目を凝らすってそういう事?そんなの自分ですればいいじゃない】

【俺とソラはほら、凝をするとどうしても、ね】

俺が凝をやると弊害で写輪眼が強制発動してしまうのだ。

余り知られたくないのでユーノさんやなのはさんの前では使いたくない。

【ああ、なるほどね】

納得するとなのははその目にオーラを集めて本を覗き込む。

恐らく念による文字が刻んである事だろう。

【えと…どういう事?】

どうやら書いてあった内容が理解できていないようだ。

【なのは、何て書いてあったの?】

俺の質問にもう一度本をじっくりと眺めてから答えた。

【万華鏡を通して見よって日本語で書いてある】

この本に使われている言語は古代ベルカ時代に多くの諸国で使われていたもの。

勿論古代ベルカ諸国の中で日本語が使われている国などはあるはずが無い。

【にしても何で万華鏡?しかもあのおもちゃってミッドに有るのかな?】

なのはが思案するが、思い当たるはずも無い。

【万華鏡…って事は…】

そう念話で呟いたのはソラだ。

【ソラちゃん何か知っているの?】

【………】

それには沈黙で応えるソラ。

まあ、そういう訳なんだろう。

俺は本から視線をユーノさんとなのはさんに向き直る。

「悪いんですが、二人には退出してもらえませんか?」

「え?なんで?」

「暗号の解き方でも発見したのかな?それは僕たちが居ると都合が悪いって事?」

俺の突然の物言いになのはさんはただ混乱するだけだったが、流石に学者先生は誤魔化せなかったようだ。

「はい」

「……なのは、退出するよ」

「え?いいの?」

本を置いていっても、と。

「勿論本を傷つけるような事はしないんだよね?」

「恐らくは」

多分としか言いようが無い。

「じゃあ、30分ほどロビーの方で待っているよ」

終わったら呼んでくれと言い置いてユーノさんはなのはさんを連れて退出した。


二人が居なくなると質問をしてくるのはフェイト。

「えと、結局どうすればいいの?」

「どうやら特定の条件にのみ開示するようにオーラを変質させているんじゃないかな?」

それを聞いたなのはが問いかける。

「その特定の条件って?」

「念で万華鏡を通して見よって書いてあるよね」

「うん」

ユーノさんたちが退出してから俺も凝をして確かめたから間違いない。

「この眼、写輪眼って言うんだけど、内緒にしていたんだけど、もう一段階上がある、それが」

「万華鏡写輪眼」

俺の言葉を継いでソラが答えた。

「万華鏡…写輪眼…」

「そ。つまりはそれで見ろって言っているんだと思う」

俺は視線を本に戻す。

『万華鏡写輪眼』

クワッっと瞳に力を入れる。

「その目…」

「表紙の模様と同じ…」

そう。表紙の模様はどう見ても俺の万華鏡写輪眼。

そして、アイオリアの名前が意味する所は…

フェイトとなのはの呟きに答えを返さず、本へと視線を向ける。

そこに書かれていたのは殆ど要件だけ。

世界に孔を開ける魔法。

これは本当に孔を開けるだけなのだろう。

難易度は高いが精々が人一人潜れるくらいの孔を十数秒開けるのがやっとのようだ。

そして、元の世界に戻るために必要な物。

「『リスキーダイス』に『漂流(ドリフト)』それと『同行(アカンパニー)』ね」

呟いた俺に不思議そうな顔をして聞き返すフェイト。

「それって一体どういった物なの?」

ビーっ

その時、部屋のブザーが鳴り、来客を告げる。

『そろそろ30分経つけれど、入っても良いかな?』

備え付けのインターホンから聞こえてくる声はユーノさんのもの。

「あ、はい」

どうやら時間切れのようである。

プシュッっと音がすると、扉が左右に割れ、なのはさんを連れたユーノさんが戻ってきた。

対面のソファに座ると、そのやさしそうな表情をいたずらっぽく変えてユーノさんが問いかけてきた。

「それで?なにか進展はあった?」

その質問はきっと確信しているのだろう。

「……降参です」

俺はお手上げと、両手を肩のラインまで上げて降参のポーズ。

「帰る方法が書いてありましたよ」

「え?それじゃあ」

帰れるんだね、と喜びそうになるなのはさんを押しとどめるように言葉を被せた。

「ただ、必要なものが入手できればですが……」

「必要なもの?それは何だい?僕たちで力になれるなら協力するよ」

強力はありがたいけれど、この世界にあるのだろうか。

「……すごく、難しいと思います。『グリードアイランド』って言うゲームの景品ですから」

「「景品なの!?」」

あ、なのはとフェイトが驚いている。

「グリードアイランド…」

なにやら衝撃を受けたような表情で呟くユーノさん。

隣のなのはさんも同様だ。

「でもでも!グリードアイランドって言うゲームがどういったゲームかは分らないけれど、ゲームの景品だったら何とかなるんじゃないの?」

なのはよ、何とかって何だ?

ゲームの景品だからこそ、プレミアが付いたりして付加価値が高かったりするんだぞ?

それに問題はそこじゃない。

「景品と言ってもUFOキャッチャーみたいな感じじゃ無いの!クリア報酬」

「そんなに難しいゲームなんだ?」

今度はフェイトからの質問。

「ゲームも難しいけれど、それ以前にそのゲームを手に入れないといけないの!それにこの世界にあるかも分らない」

それに時代も。

あのゲームは中の人間がリアルに年を重ねるゲームだ。

確かに魔女の若返り薬とかあるから寿命は延びるだろうが…

それでも100年続くゲームだとは思わない。

「あ、そっか…その本を書いた人って何百年も前の人だものね…あれ?じゃあ何でお兄ちゃんはそれがゲームの景品だって知っているの?」

なのはが問いかけてきた。

「…うーん。まあ、ぶっちゃけ、やった事があるからかな。……何故だろう、今更ながらジンに殺意が湧いてきたよ、ソラ」

「アオ…まあでも、なのはやフェイト、母さんに久遠に会えたのもジンのおかげでもあるし……でも確かに少しムッっとするけれど」

数々の無理難題。テストプレイ中は何度死に掛けた事か。

まあ、あの経験があるからこそ、その後の世界でも戦えているのだから感謝すべきなのかもしれないけれど…

「ジンって誰?…っていうかお兄ちゃん達はやった事があるんだ」

「まあ、ね」

どんなゲームか応えようとした俺の言葉をさえぎる様になのはさんが叫んだ。

「っあの!」

その声にビクッとなりながらも皆がなのはさんに向き直る。

俺たちの視線が全て自分に向いた事に少し動揺しながらも言葉を続ける。

「あなた達はそのグリードアイランドって言うゲームを知っているの!?」

「は?」

なのはの表情は真剣だった。

「……ええ、まあ。知ってますよ」

「どんなゲームか教えてくれない?」

「…その前になんでそんなに険しい顔をしてまで知りたいんですか?」

「……それは…」

一瞬答えるのをためらった後答えた。

「今日の任務、本来ならばウチの担当じゃ無かったはずなんだけど、内容がちょっと特殊で…憑依型のロストロギアの疑いがあると言われてわたしたちが回収と、事件解決を命じられたんだけど…」

そう前置きをしてなのはさんは語る。

「事件が起きたのは二日前。その内容は最初転送事故と判断された。被害者はリオ・ウェズリー、年齢は六歳。家族の証言から彼らの目の前で消えた事は確認された。
当然管理局の人たちもそれらの専門の人たちを向かわせたわ。魔法の残滓を探し、そこから何処に飛ばされたのか辺りをつける、そう言ったプロのチーム。
しかし、結果は芳しくなかった。魔法の残滓は見つけられず、何処に飛ばされたのか検討も着かない。さらに言えば家族は転送魔法陣を見て無いと証言している。
事ここに来てようやく管理局もロストロギアの疑いを検討し始めて、わたしたちが派遣されたんだけど…
被害者は家族の目の前で、物置にあった異世界産のゲーム機に吸い込まれるように消えたらしい。
そのゲーム機を調べると何故か稼動している状態だったそうよ。
そしてそのプレイされているゲームの名前が」

「グリード・アイランドって訳か」

頷くなのはさん。

「電力の供給も無く稼動して、技術班による干渉も出来ないそうよ。それでわたしたちはユーノ君に無理を言って似たような事件が過去に無かったか、歴史的観点から調べてもらうために無限書庫で調べてもらったんだけど…」

その言葉を引き継いだのはユーノ。

「…結局ほとんど分らなかったよ」

と、少し表情を曇らせる。

なるほど。遅れた理由はそう言った訳ね。

まあ、人命が掛かっているから遅れてきたのもしょうがないかな。

それでもこの会談を設置してくれた二人に好意も覚える。

本来なら抜け出せない所を無理をして抜けてきた事であろう。

「それで、貴方たちはグリード・アイランドを知っているみたいだけど…教えて貰えないかな?行方不明の女の子が出ているの。わたしたちは彼女を助けてあげたい」

どうしたものか。

しかし、ここは交渉だろう。

「条件があります」

「条件?」

「その前に、この件の現段階の責任者と会わせてくれませんか?」

「何で?」

「そっちは情報が欲しい、その少女を助けたい。だけど、俺達はそのゲームをプレイしたいんですよ」

「つまり君達は交換条件つきでこの件に協力してくれると?」

冷静に俺の言葉を分析したユーノさんがそう推察してそうたずね返した。

「なので、現段階の責任者を交えた話し合いがしたいのですが」

そう俺が纏めるとようやく納得がいったのか、なのはさんははやてさんに通信を繋げて事情を簡潔に述べ、俺たちははやてさんの待つ他の会議室へと移動した。 
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