戦国異伝
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第二百十三話 徳川の宴その十三
「昌幸殿とです」
「幸村はじゃな」
「まさに天下の才」
そこまでの人物だというのだ。
「その幸村だからこそ」
「わしも生き存えたのう」
信玄は長篠の激戦のこともここで思い出した。
「そうじゃったな」
「他の方々も」
「二十四将もじゃな」
「あの戦、下手をせずともです」
「多くの者が死んでおったな」
「はい、織田家は強かったです」
これは兵の強さではない。
「あれだけの鉄砲を揃えていましたので」
「それこそじゃったな」
「多くの方を失っていたやも知れませぬ」
「それが幸村がおってな」
「どの方も助かりました」
まさに幸村の獅子奮迅の働きによってというのだ、とかく長篠における幸村の働きは見事なものであった。
それでだ、山本も言うのだ。
「まさぬ天下の才」
「上杉における直江兼続と共にじゃな」
「あの二人がおればです」
「天下が多いに助かるか」
「そうなります」
間違いなく、というのだ。
「二人は政も見事ですから」
「その二人も今やな」
「上様のお傍に」
「全く、上様もよく見ておられる」
信玄はこのことについては苦笑いで言った。
「あの二人を召抱えられるとはな」
「左様ですな」
「天下の才二人をか」
「共にお傍に置かれています」
「それだけで全く違うのう」
「しかも幸村の下にはです」
山本はさらに言った。
「十勇士達がいます」
「あの者達もおるしのう」
「若し上様に何かあろうとも」
「それでもじゃな」
「あの二人と十勇士がいれば」
それだけで、というのだ。
「上様はご無事です」
「そうなるな」
「天下はあの者達に救われます」
例え信長に何があろうともというのだ。
「そのことも確かかと」
「そういうことじゃな、それでじゃが」
「はい」
「わしは甲斐の国をそのまま預けられたが」
政のことをだ、信玄は山本に言うのだった。
「御主も万石の大名となった」
「勿体ないことに」
「御主はこれから政に励むな」
「そのつもりであります」
「なら愛せよ」
「民と領地をですな」
「そうじゃ、その二つをじゃ」
何があろうともというのだ。
「そして良民を育てていくのじゃ」
「それが最もよいですな」
「そういうことじゃ」
「ですな、甲斐の国も」
この国もと言う山本だった。
「豊かになりましたし」
「これまで以上に豊かにする」
これが信玄の考えだった。
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