ドリトル先生と二本尻尾の猫
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第十二幕その六
「じゃあ私はこれでね」
「お家に帰るんだね」
「ええ、お嬢様を密かにお祝いするわ」
「あの娘と一緒に?」
「一緒にじゃないわ、私だけでよ」
あくまでお静さん自身で、というのだ。
「そうするわ」
「そうするんだね」
「じゃあまたね」
お静さんは先生ににこりと笑って告げました。
「何時でもうちに来てね」
「それでお酒をだね」
「サービスさせてもらうから」
最後にこう言ってでした、お静さんはどろんと消えました、先生はそのお静さんに帽子を取って一礼しました。
そのうえで日笠さんとの待ち合わせ場所に向かいました、すると。
そこにはもう日笠さんがいました、見ればいつもよりも奇麗な整った服を着ていてお化粧も気合が入っている感じです。
その日笠さんを見てです、先生は少し驚いてご本人に言いました。
「ええと、確か」
「はい、待ち合わせ時間はですね」
「五分前ですが」
「実は十分前に来てしまいまして」
「それはどうしてですか?」
「あっ、少し」
日笠さんは先生のお言葉に戸惑いながら返しました。
「早く来てしまいまして」
「それで、ですか」
「そうです」
こう返す日笠さんでした。
「失敗してしまいました」
「そうなのですか」
「はい、それで先生」
日笠さんは先生に急ぐ様な口調で言いました。
「これからですが」
「はい、レストランにですね」
「行きましょう」
是非にという感じでのお言葉でした。
「これから」
「それでは」
「あのお店はとにかく美味しいです」
「パスタやピザがですね」
「ワインもよくて」
日笠さんはかなり必死な感じです。
「きっと満足して頂けます」
「そうですか、それは楽しみですね」
「ご期待下さい、では」
「はい、それでは」
先生は日笠さんにも帽子を脱いで一礼してでした、そうして。
お二人でレストランに向かいました、そのレストランで。
先生はあるパスタを見て目を細くさせて言いました。
「この黒いパスタは」
「はい、イカ墨のスパゲティです」
日笠さんは先生ににこりと笑って答えました、勿論日笠さんもそのイカ墨の黒いスパゲティを食べています。
「先生はもう」
「はい、食べていますが」
「美味しいですね」
「そうですね、烏賊を食べること自体も」
先生のお国であるイギリスでは、というのです。
「ないので」
「イギリスではですね」
「そうです、ましてやイカ墨ともなると」
「食べないですね」
「ですが日本に来て食べてみて」
それでイカ墨の味を知りましたがそれが、というのです。
「これは美味しいとです」
「おわかりになられたのですね」
「そうです、美味しいですね」
「少し見ただけではびっくりしますよね」
日笠さんは先生ににこりと笑ってこうも言いました。
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