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鎧虫戦記-バグレイダース-

作者:
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第35話 剣は振り下ろす派?それとも薙ぎ払う派?

 
前書き
どうも、蛹です。
剣には背中に背負うタイプと腰に携えるタイプがありますよね。

例えば、私は腰に携える方がいいです。
アスラの日本刀や、迅の長剣は
どちらも彼らの腰に携えられています。
アスラの場合は日本刀なので
居合をするために腰に携えさせました。

ですが、最近に見た漫画の中で腰ではなく背中に
日本刀を背負っていて、相手が防具を着けていようがお構いなく
頭から縦に真っ二つにしているシーンがとても心に残っています。
アスラにもいつか、背負わせるのはダメでも
流麗に振り下ろす場面は書いてみたいものです。

ハエトリグモに変身した葉隠の樹の上からの隠密攻撃。
投げられた“苦無(クナイ)”はホークアイへと向かう。
果たして、この戦いの行方はいかに!

それでは第35話、始まります!! 

 
俺の振り抜いた腕から“苦無(クナイ)”が投擲され
それは風を切るようにして音もなく
ホークアイの背中へと向かって行った。

『完全に油断している。当たったな‥‥‥』

 ガキィィィィンッ!!

『!?』

しかし、俺の予想はアスラの日本刀による
居合でものの見事に外されてしまった。
しかも、今の居合には焦りなどの
余計な感情が全く混ざっていなかった。
それが表す意味とは――――――――

『気付いていたのか‥‥‥俺の存在に』

こうなることをすでに読んでいたのか。
それとも、来る前から姿を見られていたのか。
どちらにしても、今の俺の位置がすでに
二人にバレてしまっていたのは事実である。

『だが、愚かな奴らだ』

こんなところに丁度良く人質を置いて行ったのだから。
俺の立つ木の下にはジェーンが横たわっていた。
彼女を人質に使えば、子供二人など簡単に押さえられる。

 ズザッ!

俺は木から降りて葉の散らばった地面に
力なく横たわっている少女の上体を起こし
首筋に“苦無(クナイ)”を突き付けた。
ナイフを使わないのは万が一の為である。

「これ以上こっちに来ない方がいい。
 仲間の首から血が吹き出るのは
 お前らも見たくはないだろ?」

二人は俺の方に歩いて来ていた足を止めた。
しかし、不思議と顔には焦りがないように見える。
‥‥‥‥‥気のせいだろうか。

「これで全員が抵抗すること無く捕まってくれれば
 俺もお前らを殺さずに済むからな」

出来れば、俺だって誰も殺したくない。
だが、抵抗されたなら俺もそれ相応の
措置を取らなければならなくなる。
場合によっては、不本意に相手の命を
奪ってしまうかもしれない。

 スッ‥‥‥‥

「動くなよ‥‥‥‥」

俺は懐から麻酔針を二本取り出した。
複数本の同時投げは今までに何度もしているから
今ではかなり正確に数か所を狙うことが出来る。
だが、もし何かの要因で間違って片方でも首に当ててしまったら
その場合はいかに"侵略虫"でも、死ぬ可能性が無いわけではない。
そんな事を考えながら、俺は針を持つ手を振りかぶった。

 ヒュヒュッ!!

鋭い二本の麻酔針が一直線に
二人の身体へと向かって行った。
変身している片方は腕の関節に。
変身していない方はとりあえず胴体に。
それぞれ適切な位置だろう。

 ガキキンッ!

アスラは俺の投げた麻酔針を二本とも
日本刀を使って弾き落とした。

「‥‥‥‥‥‥‥は?」

目の前の彼の行為に俺は焦った。
俺は今この女を人質を取っている。
俺はあの二人にだから動くなと言った。
なのに、あの少年は何でもないかのように動いた。
それ故に俺は焦ったのだ。

 ダダダダダダダダッ!! 

二人は一目散に俺の方向へと走って来た。
コイツら本当に俺の話を聞いていたのか?
今、俺はこの少女を人質を取っているんだぞ?

「どうした!!ジェーンを殺さなくていいのか!!?」

ホークアイは俺に向かって叫んだ。
敵である俺に仲間を殺すように促すなんて
あの少年は人の命を何だと思っているのだ。

「‥‥‥‥‥‥チッ!」

 ヒュンッ!

俺はジェーンの首に当てていた“苦無(クナイ)”を
腕の力だけで二人の方向に投げた。
アスラは日本刀を持つ両腕を上にあげた。

 スッ

そして、真一文字に振り抜いた。
恐ろしきは日本刀の切れ味である。
まるで果物を断つかのように全く抵抗なく
苦無(クナイ)”を真っ二つに切り裂いて見せたのだ。
いや、切れ味だけではない。
その使い手の“技量(うで)”が良いのだ。
切れ味だけでは越えられない壁だってある。

『やっぱり、あの独特の投擲法(フォーム)じゃなければ
 重さも速度もそんなに恐ろしい物じゃない』

あの投擲法での“苦無(クナイ)”のスピードは
亜音速に至るほどで、弾丸と同等である。
しかし、推進力+遠心力+腕力+全体重を
苦無(クナイ)”乗せてようやく弾速に達するので
今のような腕力だけでの投擲など
弾丸を見切る程の動体視力と
それに対応できる運動能力を備えた
"鎧人"アスラに捌き切れないはずがないのだ。

アスラは走り寄る勢いを殺さずに
どんどん葉隠に詰め寄って行った。

『コイツら、俺が仲間を殺さないと腹をくくっていたのか?』

俺はこの状況に焦りながら心の中で叫んだが
二人の眼を見るに、それは違うことが分かった。

『‥‥‥‥フッ‥‥‥そうか、逆だったのか』

俺はジェーンから手を離した。
アスラは両腕を上に振りかぶり
日本刀を振り下ろそうとしていた。
それを回避するために俺は
バックステップで後ろに下がった。

『‥‥‥‥‥‥アイツ等は信頼していたんだ』

 ヒュオッ!!

振り下ろされた日本刀の太刀筋は
先程まで人質として捕らえていた
ジェーンから完全に逸れたものだった。
俺が避ける事を読んだうえで振り抜いたのである。

 ザンッッ!!

『‥‥‥俺が彼女を‥‥‥‥殺さないと‥‥‥‥』

バックステップによる回避のおかげで
頭から真っ二つにはならずに済んだが
左の肩から腹までに線が走り、そこから
鮮血が勢いよく噴き出していた。

 ザッ! ザザザッ‥‥‥!

地面に降りたが、身体を支える力も出なかったので
そのまま倒れないように反射的に足が後ろに出るだけだった。
体勢を持ち直すことさえ出来そうにない。

 ドッ! ズリリ‥‥‥

俺はそのままの勢いで後ろの樹に背中から当たった。
しかし、足に力が入らないのでそのまま
ズリズリと背中を擦りながら地面に腰をついた。

「ハァ‥‥‥ハァ‥‥‥‥」

俺は気を落ち着かせようとゆっくりと呼吸をした。
普段通りとまではいかないがそれなりに安定している。
内臓の損傷もそんなに酷くはないようだ。
これならしばらく動かなければ
そんなに再生に時間を労さないだろう。

 メキメキメキメキ‥‥‥‥‥

「‥‥‥‥ハァ‥‥‥やられたな‥‥‥‥‥」

俺は変身を解きながらつぶやいた。
さっきまでの戦闘で俺の真意に気付いていたとは。
あの時の閃光弾の際に“苦無(クナイ)”を投げなかったことに
疑問を持たれたのだろうか。あるいはその時に気付いたのか。
どちらにしても、確信もなく仲間を人質に取らせるなんて
俺なら絶対にそんな不安要素のある作戦は取らない。

『‥‥‥‥‥‥だが、そんな事をすることが出来る‥‥‥‥』

コイツ等の勇気に負けたのかもしれないな。
俺はそう思いながら、目の前に立つ少年を見上げた。

「‥‥‥ハァ‥‥‥大した奴だよ‥‥‥お前ら‥‥‥‥」

太陽の陰になって見えないアスラの顔を
両目を細めて見ながらつぶやいた。

「‥‥‥‥あんた、良い人だな」

アスラが俺を見下ろしながらつぶやいた。
やはり、すでに気付いていたようだ。

「オレ以外には全員、麻酔針とナイフで攻めて来た。
 しかも、最初のジェーンへの攻撃の時に
 あんたは一瞬、ナイフの動きを止めた。
 そのおかげで対応が間にあったんだ」

なんだ、その時から気付いていたのか。
それは敵ながら驚きしか出てこない。
さすがは才能溢れる若き剣士だ。

「あんたは‥‥‥‥本当に優しい人だよ」

最後にアスラは独り言のようにつぶやいた。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥フッ」

俺は思わず鼻で笑った。
それを見たアスラは不快な顔をした。

「何だよ、まだ何かする気か?」

彼には、俺の顔がそのように見えたらしい。
俺の視線の先には、横たわっているジェーンと
それを抱えるホークアイの姿があった。
二人の距離は俺ともアスラとも離れている。
また、眠っている三人とも離れていた。

「いいや‥‥‥‥‥もう何もしないさ」


弱々しく両手で降参のポーズをして
俺は薄笑いを浮かべながら言った。

「‥‥‥‥‥‥俺はな」

付け加えられたその一言の意味を理解するのに
アスラはそれ程時間はかからなかった。なぜなら――――――

 ドカアアアアァァアアァァァァァアァァァアアァァァアアアアンッッ!!!!

―――――目の前で起こったからである。
周りに何個か爆発物を置いていたらしい。
それが先程の爆音の正体である。
しかし、どう見ても俺がそれを起動させた様には見えない。
俺は両腕を上げておまけに掌を見せていたからだ。
そして、事実“俺は何もしていない”。

「一体どうやって‥‥‥‥‥‥ハッ!!」

アスラは少しの間の後に声を上げた。
気付いたか。やはり察しが良い。
本当なら当然の事で頭が回らないはずだが
なかなかの思考の瞬発力を持っているようだ。

「‥‥‥‥‥‥仲間がいたのか」

正解だ。俺自身何も出来ないのだから
他の誰かがやるしかない。普通に考えればわかる。
だが、焦りの中で冷静に頭を回すのが
どれだけ大変な事か俺たちは良く知っている。

 ビキキッ! ビキィッ!!

地面に音を大きな亀裂が走った。
数か所から走って来た大きな亀裂は、まるで意志があるかのように
ジェーンとホークアイのいる場所に向かって行った。
二人がいる場所を中心に地面が崩れる。
ここは、そうなるように仕掛けられた罠だったのだ。

 ガラガラガラガラッ!!

ついに亀裂が地面を完全に砕ききり
底が抜けるかのように二人は落下を始めた。
ジェーンは未だ気絶したままでいる。
ホークアイの身体能力では彼女を抱えて
落下している中を移動することは出来ない。
つまり、彼らはこの落下から逃げられないのだ。

「ホークアイッ!!ジェーンッ!!」

アスラは助けたい気持ちでいっぱいだったが
地面の陥落が意外と早く、反応が遅れた今では
もはや助けに行っても間に合いそうにはなかった。
故に、彼には叫ぶことしか出来なかった。

「‥‥‥‥死ぬなよッ!!!」

仲間の生を祈ることしか出来なかったのだ。
落下の中、ジェーンを抱えたままホークアイが
僅かに笑みを浮かべたように見えた。
そして、そのまま地面の崩落の轟音と共に
底の見えない闇の中へと消えていった。



    **********



「‥‥‥‥うっ、ゲホ‥‥‥ゲホッ」

砂埃だらけの酷い空気に
俺は数回、咳をして目を開けた。
感触的にしかわからないが、俺は座り込んでいるようだ。
目の前には暗闇が続いていた。
つまり、ほとんど何も見えなかった。
体中が痛かったが腹部の激痛に比べれば
そこまで大したダメージではなかった。
今のこの状況から判断するに
俺は地割れか何かに呑まれて
地面より下の位置にいるようだ。
背中にある硬い感触は岩のものだから
結構すぐに察しがついた。

「‥‥‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥‥」

異常に胸が苦しい。呼吸がしにくかった。
何かがつっかえ棒みたいになって
俺の胸に食い込んでいるようだった。
とりあえず腕でそれに触ってみた。

 ワシャ‥‥‥

完全にそれは岩の感触ではなかった。
例えるなら人の頭。髪の毛と同じ感触だった。

「す‥‥‥すまねぇな、ジェーン。
 お前の胸ちょっと借りてるぜ?」

声を聞いて、俺はすぐに理解した。
ホークアイが俺の胸にうずまっていた。

「な、何してんだお前は!!」

俺の頭には最初に恥ずかしさが大半を占めていたが
よく考えてみると、ホークアイが命懸けの状況でも
ふざけるような男ではない事に気が付いた。

「お前、もしかして‥‥‥‥‥」

俺はホークアイの背に手を伸ばした。
そこには、ゴツゴツとした背中にあるものと
同じ感触の物が彼の背中に乗っていた。

「俺を‥‥‥‥守ってくれたのか?」

ホークアイは俺の腹のケガに岩が当たらないように
俺を覆うようにして守ってくれていたのだ。

「お、おぉ‥‥‥‥すまねぇが今は怒んないでくれ。
 ずっと支えたままだから、そろそろヤベェから」

しかし、人間であるホークアイにとって
かなりの重量の岩を長時間支え続けるのは
体力的に無理があるだろう。

「‥‥‥‥‥しかたない、俺がどけてやるよ」

ホークアイが支えられるぐらいの重量の物なら
おそらく大丈夫なはずだ。俺の"超技術"が使える。
俺は大きく息を吸って、呼吸を整えた。

「いや、今お前オレが邪魔で動けないだろ?
 それに腹の傷もまだ治ってないのに
 どうやってどか――――――――――」

安心しろ、もう使った。
ただの岩ならもう慣れてる。
俺は心の中でそうつぶやいた。

 サラサラサラサラ‥‥‥‥‥ 

「ん?」

砂埃が落ちた音をホークアイが
認識した次の瞬間だった。

 ザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!

「うわあッ!?」

ホークアイの背中の上に乗っていた大きな岩は
大量の砂埃になって二人に降り注いだ。

「ゲホゲホッ!な、何が起こったんだ!?」

砂ぼこりが混ざった酷い空気に
ホークアイは咳をしながら叫んだ。
俺も粉がまともにかかったので
咳を数回した後に答えた。

「俺の"超技術"さ」
「え、でもお前の"超技術"って‥‥‥‥」

両腕のブレードが高速で振動することで
触れた物体の分子構造を分解する能力。
確か、中国ではそう説明しておいたはずだ。
しかし、今起きた現象はその説明では納得できない。
そう言いたそうな顔をしてホークアイは座っていた。

「外でも、『俺ならアイツを見つけられる』
 としか教えてくれなかったしよ。
 実際、お前の"超技術"って何なんだ?」

俺は口を閉じて答えなかった。 
 

 
後書き
またもや生き残ったホークアイ。
彼には幸運の神が付いているのでしょうか。
いいえ、今回は違います。
彼が葉隠の真意に気付いたからこそ
二人はこの戦いで生き残ることが出来たのです。

と思ったら、今度はジェーンと一緒に穴の中へ。
やはり、ホークアイにはやたら不幸が続きます。
ですが不幸ばかりではありません。
ジェーンの胸に不本意ながらうずまることが出来ました。
ちなみに、彼女の胸は真っ平らではなく
多少ながらふくらみはあります。
あと、女の子なのでいい匂いがします。
総合的には、これは幸運と言ってよいでしょう。
(コイツもリア充の仲間入りか‥‥‥‥)

葉隠(もしくはその仲間?)による策略によって
地面に開けられた暗い穴の中に呑み込まれた二人。
彼らは脱出することが出来るのか!
というか、そもそもソコは安全な場所なのか?

次回 第36話 全ての奇跡には必ず理由がある お楽しみに! 
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