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静御前

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3部分:第三章


第三章

 そうしてだ。彼は言ったのである。
「あの者を連れて来い」
「あの者とは」
「まさかとは思いますが」
「あの、ですか」
「そうじゃ。静御前じゃ」
 彼女の名をだ。ここで出したのである。
「あの者を連れて来るのじゃ」
「そうしてですか」
「そのうえで白拍子の舞をさせよと」
「そう仰るのですか」
「ではすぐに呼ぶのだ」
 頼朝の剣呑さはさらに増していた。
「わかったな」
「ですがあの女はです」
「その、奥方様がです」
「仰っていましたが」
「舞位ならよいであろう」
 頼朝は言われても聞かなかった。そうしてだ。
 御前を呼ばせた。こうして御前は頼朝の前に出て一礼した。その彼女に対してだ。
 頼朝は硬い声でだ。こう告げたのである。
「ではわかるな」
「舞をですね」
「そうだ。白拍子の舞を踊るのだ」
 こう命じてだ。そうしてだった。
 御前に舞を舞わせる。それを酒を飲みながら見つつだ。
 御家人達は満足した。御前の舞は見事なものだった。
 だがその中でもだ。頼朝はだ。
 にこりとせずにだ。全く喋ろうとしない。その頼朝を見てだった。
 御家人達はだ。こう囁き合うのだった。
「頼朝様はどうされたのだ」
「折角の舞だというのに」
「にこりともせずに御覧になられている」
「普段から笑わない方だが」
 無愛想な顔のままでいる。それが頼朝なのだ。
 その彼を見て言う彼等だった。そしてだ。
 その頼朝がだ。ここでだった。舞が終わったところでだ。
 こうだ。御前に言ったのである。
「今最も踊りたい舞を舞うのだ」
「えっ、今何と」
「言った。そなたが最も想っていることを舞うのだ」
 これが御前への頼朝の言葉だった。
「それをわしに見せるのだ」
「私が今想っていることを」
「そうだ。嘘偽りは許さぬ」
 絶対にだ。そうしろというのだ。
「これは将軍の命だ。わかるな」
「静殿、ここはです」
「頼朝様にです」
「御従い下さい」
「どうか」
 頼朝を恐れてだ。御家人達もだった。
 御前に対してだ。口々に言うのだった。
「そうして頂きたいです」
「お願いできるでしょうか」
「・・・・・・はい」
 そしてだ。御前もだった。静かにだ。
 彼等の言葉に頷きだ。こう答えたのだった。
「それでは今から」
「一つ言っておく」
 頼朝は剣呑な目になり御前に告げてきた。彼女が己の言葉を受けたのを見てから。
「若し本心を隠してもだ」
「それでもなのですね」
「余にはわかる」 
 頼朝の目は誤魔化せないというのだ。
「このことを言っておく」
「だからなのですね」
「本心を舞え」
 半ば言い掛かりだがこう御前に言うのだった。
「そして余に見せよ。わかったな」
「畏まりました」
 こうしてだった。御前はだ。
 再び立ち上がりそのうえでだ。舞をはじめた。その舞はというと。
 
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