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過去、現在、そして未来

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8部分:第八章


第八章

 その顔は沈痛なものである。その顔でまた言ったのである。
「その通りです」
「そうですか。そう仰るのですか」
「その様に」
「私は今は」
 ここでだ。また言うウォーレンだった。
「この様に考えていますので」
「左様ですか」
「それが今の貴方ですか」
 記者達もだ。ウォーレンのその言葉を聞きだ。彼への糾弾を止めたのだった。
 このことはアイゼンハワーにも伝わった。そしてだ。
 彼はホワイトハウスの執務室でだ。こう側近達に話したのである。
「こうなることはわかっていたのだ」
「ウォーレン氏があの判決を出されることをですか」
「しかも彼だけではなく最高裁全体にも伝えられると」
「そのこともですか」
「今の彼はそうするとな」
 このことがだ。わかっていたというのだ。
「わかっていたのだ」
「そうだったのですか」
「今の彼を見てなのですか」
「それで最高裁判所の長官にも任じられたのですか」
「そうでもあったのですか」
「そうだ」
 その通りだとだ。アイゼンハワーは確かな声で答えた。
「私は過去の彼は知っていた。そして」
「今も彼もですか」
「知っておられたのですか」
「人には過去が必ずある」
 アイゼンハワーは言った。
「そしてその過去は決していいものばかりではない」
「過ちもある」
「彼の様にですね」
「そして人はそれを見て考えることができるのだ」
 このことも言うアイゼンハワーだった。
「そこから変わり今に至るのだ」
「だからなのですか」
「彼はあの判決を下した」
「人種差別を否定したのですか」
「その通りだ」
 まさにそうだというのだ。
「今の彼は人種差別主義者ではないのだ」
「今の彼はですか」
「そうなのですか」
「そうだ。過去と現在は続いているが違ってくるものだ」
 そういうものだというのだった。
「そして未来もだ」
「続いていても違う」
「そういうものですか」
「そうだ。それは彼も同じなのだ」
 他ならぬウォーレン自身もそうだというのだ。
「彼は人種差別を行った過去を悔やんでいる。だからだ」
「今あの判決を下した」
「そうしたのですか」
「そして未来にもつなげたのだ」
 未来もある、それもだった。
「合衆国の未来もだ」
「まさかとは思いました」
「人種差別主義者だと思っていましたが」
「今は違い、そしてですか」
「合衆国の未来を築いたのですか」
「そういうことだ。合衆国は今人種問題において大きな一歩を踏み出した」
 未来に向けてだと。アイゼンハワーは言った。
「彼がその一歩を導いたのだ」
「左様ですか」
「そうなのですね」
「そうだ。そうなったのだ」
 アイゼンハワーはこう話すのだった。彼の人選は成功だったのだ。
 アール=ウォーレンが人種差別主義に基き日系人達を政治家として迫害したことは事実である。そしてそれにより多くの者が犠牲になったこともだ。
 だがその彼が人種分離政策を否定する判決を行い合衆国の未来を開いたこともアフリカ系アメリカ人達の人生を切り開いた事実だ。彼の自伝では過去を誤りだとし深く後悔していると述べている。
 このことを糾弾されたが故の韜晦や虚言だと言うこともできるだろう。批判を受けてそれで取り繕うことも世の中にはままあることだからだ。
 しかしその彼が合衆国の人種問題の解決に貢献したことも事実だ。人種差別を行った者がだ。彼の変化の真実は彼にしかわからない。しかし事実は事実として残っている。彼は紛れもなくアメリカ合衆国歴史を前に進めた。その過去からはじまって。


過去、現在、そして未来   完


                  2011・12・27
 
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