ソードアート・オンライン ~白の剣士~
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想いが形を成すまで・・・
前書き
久々の投稿です
シュー・皇───
それが彼、シュタイナーの名前。名前からして外人と思われやすいが、彼はハーフである。もっと言ってしまえば育ちの大半は日本である。ちゃんと日本語も喋れるし、箸も使える。
そんな彼は目の前にいる水色の髪をしたケットシーの少女と向き合っている。
少女の名は朝田詩乃。つい先日までGGOでプレイしており、死銃事件に巻き込まれた少女である。ひょんなことから彼女に体術を教えることになった。
今はアルヴヘイムオンライン通称ALOの中でプーカの姿となったシュタイナーとケットシーの姿のシノンは小さな浮き島にて対峙している。近くにはシオンがおり、二人を見守っている。
「いいかいシノン、これから享受するのはただの体術じゃない。弓兵や狙撃主等の遠距離専門の戦士が使える戦い方だ」
「狙撃主の戦い方・・・?」
「そう、体術の殆どは近接戦闘、ナイフファイトでの応用。でも君の場合は遠距離専門のプレイヤー、近距離専門の敵に懐まで来られた時の対処法、そして反撃の仕方を教える。準備はいい?」
そう言われるとシノンはこくんと頷き、シュタイナーは一枚の紙を取り出した。
「それじゃあまず、この紙に拳で穴を開けてみて?」
「穴?この紙に?」
「そ、この紙に♪」
藪から棒に何かと思えば、目の前の紙に穴を開けろと言うのだ。しかも拳で。
こんな薄い紙に穴を開けることなど簡単だと思いながら、目の前にヒラヒラと揺れる紙に徐に拳を繰り出した。
しかし、紙はその拳を避けるようにふわりと舞い上がった。
「え!?」
シノンは驚きのあまり声を上げる。シュタイナーはさも当然の結果のように笑みを浮かべながら言った。
「因みにこの紙には何の細工もしてないよ。次は僕の番、シオン」
そう言ってシオンに紙を持たせると、シュタイナーはすっと構える。ゆったりと構えてはいるが、決して無駄も隙がない。
「フッ!」
次の瞬間、シュタイナーが放った拳は目の前の紙を貫通した。それはまるで矢のように鋭く、真っ直ぐな拳だった。
シノンは何が起こったのか解らず、ただただ穴の開いた紙を見つめていた。
「さて、君にはまずこれを修得してもらう。これを修得するためのポイントは三つ、何かわかるかい?」
「パンチのスピード?」
「まあそれもそうなんだが、それに加えて大事なのは『拳の軌道が最短距離であること』『目標を的確に撃ち抜く正確性』この二つだ。」
「・・・・・」
「さあ、これを踏まえてもう一度撃ってみよう。今の君なら出来るはずだ」
シュタイナーは新しい紙を用意すると同時にシノンは構えた。目を閉じ、深呼吸、そして集中───
『最短、一点集中・・・』
感覚を研ぎ澄ます───
その姿はGGOでスナイパーとして戦ってきた彼女の姿を彷彿とさせた。
『ここ!』
『フッ!!』
シノンの放った拳は先程よりも鋭く、真っ直ぐに伸び、その拳は目の前の紙のど真ん中を的確に撃ち抜いた。
「出来た・・・!」
「ほう・・・」
「・・・・・」
シオンとシュタイナーは驚きながらも口元には笑みを浮かべていた。
「合格だ、これで君は次のステージに行けるわけだが・・・その前に」
「?」
シノンが首を傾げるとシュタイナーはこう言った。
「君の戦闘スタイルについてだ」
「私の?」
「そう、君の戦闘スタイルはアウトレンジからの遠距離攻撃、頭のいい敵はまず確実に潰しに来る。そんな敵を相手に対して君に合うファイトスタイル、それは・・・」
シュタイナーはシノンの視線から外れると、シノンの鼻先で拳を寸止めした。
「“カウンターヒッター”だ!」
「カウンター・・・」
シュタイナーの一言にシオンは内心納得していた。
『なるほどな・・・。確かに、シノンの特性を考えるとこのスタイルはまさにピッタリだな』
「君はスナイパーだ、他よりも明らかに目がいい。それに常に弾丸が飛び交うGGOでは必然的に動体視力がいい、その眼を活かせるスタイルこそがカウンターヒッターだ」
そう、シノンのポテンシャルを考えるとカウンターヒッターが一番彼女のスタイルに合っていた。シノンも自分が狙撃主であることもあり、護身用のハンドガンを装備していた。
近距離での戦闘が要求される中、眼のいい彼女に最適なスタイルは後手必勝のカウンターヒッターということになる。
「でも、ALOには銃は無い・・・」
「そうだね。でも、君には弓がある」
「おい、まさか・・・!」
シオンの予想はどうやら的中したらしく、シュタイナーは首を縦に振った。
「君がやること、それは相手の攻撃をかわして懐に零距離で矢を放つ。これが君の必殺の拳だ」
「私の、拳・・・」
「勿論、体術もこれから強化していく。最終的には弓と体術を織り混ぜた戦術を・・・」
「あのッ!」
シュタイナーの説明はシノンの言葉で遮られた。
「ん?」
「どうして、そこまでしてくれるの?」
「どうしてって、君が言ったからじゃないか?『強くなりたい』って」
「それでも・・・」
「それに・・・護るんだろ?アイツの背中を・・・」
シュタイナーは遠くで見守るシオンをチラリと見ると、
「僕の中には誰にも明かしていない秘密がある。皆にも、勿論シオンにも・・・」
吹き付ける風は髪を揺らし、彼の表情を曇らせる。
「彼は真っ直ぐだ。回り道をせず、ただただ真っ直ぐに目的地に向かう。でも、それ故に周りが見えなくなるときがある。今回のGGOでもそうだ・・・」
影を落としたその顔はどこか悲しそうな顔をしていた。
「大胆なのに繊細、強靭であるにも関わらず壊れやすい。他者のためなら己を賭ける。彼はそういう男さ・・・」
「・・・・・」
「でも、だからこそ、彼が己を賭しているからこそ周りはそれに引かれ、ついていくんだ。例えどんなに格上の敵が相手だとしても・・・」
SAOの時から彼の姿を見てきたシュタイナーにとって、シオンという人物はそのように映っていた。それはシノンも同様だった。
「そんな彼の背中を君は守る覚悟があるかい?」
シノンは少しの間をおいて力のある声音で答えた。
「当然よ。もう、守られる側なんてごめんだわ。これからは、“守る側”になる!」
その力の宿った水色の瞳を見てシュタイナーは何かを感じ取った。
『いい目をしてる・・・。この目、どっかの誰かさんにそっくりだ・・・』
「OK、君の想いは伝わった。お礼に面白いもの見せてあげる!」
「面白いもの?」
そう言いシュタイナーはシノンをシオンのいる辺りまで下がらせた。シュタイナーは集中するかのように右腕の力を完全に抜いた。その姿を見ながらシオンは言った。
「シノン、よく見ておけ。あれがALO最強の拳だ」
「・・・・・」
二人が見つめる中、シュタイナーは精神を研ぎ澄ましていた。頬を撫でる穏やかな風、自分の鼓動が聞こえてきそうな状態。全神経を徐々に右手へと集中させていく。
「覇王槍拳流・・・」
次の瞬間、シュタイナーの右手に力が入った直後、眩い緑色の閃光が放たれる。
「聖槍!《ロンギヌスブラスト》!!」
拳から放たれた緑の閃光はレーザーのごとく空を走り、上空に浮かぶ浮き島を貫いた。浮き島は貫かれた箇所を中心にひび割れ、崩壊した。
「ッ!!スゴい・・・」
「いつ見てもスゴいな、あんなの喰らったらと思うとゾッとするね・・・」
「これが覇王槍拳流奥義、《聖槍》。全神経を一転集中して開放する。大量の魔力消費と溜めの時間、次弾までの時間が欠点だけどね」
シュタイナーはそう言いながらシオンたちのいるところまで昇ってきた。
「コイツは格闘戦ならどのプレイヤーよりも強い、そりゃもう数が相手でもな」
シノンはその言葉に唖然とした。彼が頼むほどなのだからそれなりに実力のある者であることは理解していたが、まさか自分の目の前にいる人物がALO最強の格闘家だなんて思いもしなかっただろう。
「僕にはコレしかないけど、極めればそれは大きな武器になる。君にもあるはずだ、自分だけの武器が・・・」
「私だけの、武器・・・」
シノンは思った、自分には何があるのかと。
「『己を信じろ。その想いが形を成すまで・・・』」
「・・・?」
シュタイナーはそう言うと更に続けた。
「『綺麗に生きたいのならば汚れよ、何度も挫け、大いに足掻き、悩め。全力でいられた者こそが一番綺麗で格好が良いのだ。
今、己を変えたいと思っているのなら───
汚れろ、泥にまみれて。
突き通せ、己の思いを。
叫べ、声尽きるまで。
そして───
進め、思いが形を成すまで・・・』死んだ爺さんの言葉だ。人は皆汚れることを恐れる。汚れることは惨めなことだと思うんだろうね。でも、それじゃあつまらないと思うんだ。見た目が綺麗な人はただそれだけの事
、汚れているということはそれだけ戦ったということでもある。僕は見かけだけの綺麗な貴族よりも、汚れた鎧を纏った剣士でいたい」
その言葉にシノンの体は震えた。目の前の青年に対し、シオンと同じくらいの気迫を感じた。
「シノン、君は君の思いを貫け。それがいつか君にしかない唯一無二の一撃になる。それまで大いに悩むといい」
シュタイナーはそう言い残して、バイトの時間だと言ってログアウトしていった。
その場に残されたシノンは自分の弓を取り出し、じっと見つめていた。自分だけの武器、それが何なのか彼女にはそれが分かっていた。
「見つかりそうか?」
「見つかるもなにも、もう決めてる」
「そうか、なら・・・」
そう言いシオンは上空に数体のデコイを飛ばした。
「見せてみろ、お前の想いの形を!」
その言葉にシノンは不敵な笑みと共に答えた。
「上等ッ!!」
少女の矢は天を舞う。優しき青年の拳は地を砕く。
そして、白き青年の刃は不可能を切り裂く───
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「彼もだいぶ強くなってきたね・・・」
そこは何もないただ無限の暗闇が広がる世界。
そこで一人立つ男はそう呟いた。
身に纏っている黒いジャケットは慣れたように着こなしている。
「これなら、もう任せても良いかもしれないな」
そう言い彼は静かに歩き出す。
暗闇の中でコツコツと靴音が異様に大きく鳴り響く。
Seven Star drive system START.....
Start the system update.....
Remaining until the update.....99%.....
「さぁ、その手で、未来を変えて見せろ」
世界が再び動き出す───
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