美しき異形達
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第五十四話 山師の館その十
「いい状況じゃなくなるから」
「化物みたいに扱われるんだな」
「人は本能的に異質なものを恐れ嫌う」
「魔女狩りみたいにか」
「そう、あの中に本物の魔女は殆どいなかったけれどね」
何故本物は処刑されなかったのか、理由は簡単だ。魔術を使って異端審問から逃げられたからだ。何も力のない人達が冤罪で惨たらしく拷問を受け処刑されたのだ。中には確かに本物がいたがそれはほんの僅かだというのだ。
「ああなるよ」
「あたし達が魔女扱いか」
「そうなりたくはないよね」
「魔女みたいに箒に乗って空は飛びたいけれどな」
それでもとだ、薊は伯爵に答えた。
「そんなのは嫌だぜ」
「誰もがそうだね」
「そんな迫害受けたりとかな」
「その通りだね、だからね」
「普通に幸せに暮らす為にも」
「その力は見せない方がいいよ」
「わかったよ、力は見せないさ」
それこそ滅多にとだ、薊は伯爵に答えた。これは他の少女達も同じだった。薊の言葉に無言で頷いたのだ。
階段は長かったが遂にそれが終わった、そして。
目の前にあった扉を開くとだ、その先にあったのは。
庭園だった、黄緑の淡い芝生にだ。
四季の花が飾られ水路が多かった。緑と青、そこに様々な色の花達があった。
白い大理石の小さな、日避けの様な建物も見える。その中に出た一行のところに小鳥が来たがその小鳥は。
「機械の」
「そうだな」
菖蒲が最初に気付き次は薊が気付いた、その鳥は一見すると普通の小鳥だが。
精巧な機械で出来ているものだった、その小鳥が飛んで来てだった。
一行の足元に来て餌を啄む動作をした、実によく出来ていた。
その小鳥を見てだ、薊は言った。
「見ない鳥だな」
「これはリョコウバトですね」
「リョコウバトってあの」
「はい、絶滅した鳥です」
桜はその機械の鳥についてだ、薊に答えた。
「アメリカに。それこそ国全体を覆うまでにいましたが」
「開拓とか乱獲で絶滅したんだよな」
「はい、そうでした」
「そのリョコウバトを機械で造ったんだな」
「凄いね」
菊もリョコウバトを知っている、それで感嘆して言ったのだ。
「リョコウバトをここまで再現するなんて」
「こうしたことをする人っていうと」
向日葵はそのことについて考えてだった。
即座にだ、彼の名前を出した。
「カリオストロ伯爵ね」
「あの人しかいないわね」
菫は向日葵のその言葉に頷いた。
「やっぱり」
「伯爵はこの庭園にいるわね」
鈴蘭は地下庭園の中を見回した、見れば機械のリョコウバトだけでなく蝶や蜂もいる。だがそのどれもが機械のものだった。
「絶対に」
「ええ、そうとしか考えられないわ」
黒蘭も姉の言葉に応えつつ周囲を見回している。
「お屋敷の中にはいなかったから」
「じゃあこの庭が幻術か?」
薊は目を鋭くさせてこう考えてその考えを言葉に出した。
「あの伯爵が得意の」
「ははは、違うと答えておこう」
薊のその言葉にだ、返事が来た。
それはサン=ジェルマン伯爵の声ではなかった。その声は。
そのバリトンの声を聞いてだ、薊達はその瞬間に確信した。
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