戦国異伝

「あの方は」
「贅沢とは無縁じゃな」
「それも全く」
　それが家康だというのだ。
「ですから」
「当家の様な宴はじゃな」
「とてもです」
「出来ぬというのじゃな」
「こう言っては何ですが徳川殿は百六十万石です」
　織田家の六百万石と比べると四分の一近く低い、確かに大身になってもその差はかなり大きいものがある。
「当家と比べますと」
「ずっと小さいからじゃな」
「その財政も小さく」
「当家の様な宴はじゃな」
「とてもです」
　財政の面からもというのだ。
「出来ませぬ」
「その通りじゃな」
「ですから」
「贅沢な宴はじゃな」
「とても出来ませぬが」
　家康にはというのだ。
「それでどういった宴なのか」
「想像出来ぬか」
「はい」
　その通りだとだ、平手は信長に答えた。
「どうにも」
「そうじゃな、しかしじゃ」
「それでもですか」
「宴は一つではない」
「贅を尽くすだけでも」
「わしはあえて勢を尽くす」
　そうした宴をするというのだ。
「天下の宴を見せる、しかしじゃ」
「徳川殿は徳川殿で」
「あの者の宴を見せてくれるわ」
「そうなりますか」
「まあ見ておれ」
　笑ってさえみせて言う信長だった。
「竹千代の宴も面白いぞ」
「さすれば」　
　平手も主の言葉に頷いた、そして。
　その宴の時が来た、まずは織田家の宴だった。とてつもなく大きな広い間に天下の主立った者が揃っていた。
　その中においてだ、近衛が唸って言うのだった。
「いや、この城は」
「そうでおじゃるな」
　山科がその近衛に応える。
「まさに天下殿の城」
「全くでおじゃる」
「ここまでの城を建てられてさらに幾つも城を建てられる」
「しかも民を苦しめることはない」
「織田殿は全く以てでおじゃる」
「天下人に相応しい方でおじゃるな」
「このままいけば」
　まさにというのだ。
「天下は収まり」
「織田殿のものとなり」
「泰平となるでおじゃる」
　他の公卿達もこう話していた、そして。
　信玄もだ、唸った声で信繁に言った。
「わしもこれまでな」
「ここまでの宴はですな」
「見たことも聞いたこともなかった」
　まさに、というのだ。
「まだはじまってもおらぬが」
「これだけの城において」
「これだけの人を集めてな」
　そのうえで、というのだ。