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真田十勇士

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巻ノ一 戦乱の中でその十

「何と、消えたぞ」
「まことに消えたか」
「ううむ、何ということじゃ」
「まことに消えるとは」
「では何処に」
「何処に出て来るのじゃ」
「ふむ」
 ここでだ、幸村は。
 後ろを振り向いた、だがその時誰にもあえて声をかけなかったのでそうしたのは彼だけだった。その後ろの方にだった。
 男はいた、その太めの眉の精悍な彫のある顔で笑って言った。
「ここじゃ」
「何と、そこか」
「消えて出て来たぞ」
「まことに」
「妖術を使ったのか」
「ははは、これで承知されたな」
 男は出て来た自分を観て驚く客達に笑って応えた。
「それがしが妖術使いだと」
「ううむ、確かに」
「御主、妖術使いじゃ」
「間違いなく」
「そうじゃな」
 客達は男に驚きを隠せず言う。
「これは銭を払わねば」
「凄い者じゃ」
「全くじゃ、まさに妖術」
「妖術使いじゃ」
「ではどうぞ銭を」
 男が出したざるにだ、皆次々に銭を入れていく。中には投げ込む者もいたが男はその銭も全てザルに受けていた。
 幸村は丁寧にだ、そのザルに銭を入れた。ここで。
 男は幸村を見て笑みを浮かべた、そして。
 その目を光らせた、そのうえで幸村を見た。
 そうしてだ、幸村に対して小声で囁いた。
「若しや真田幸村殿ですか」
「何故拙者の名をご存知か」
「それがしのこと、最初に見付けられましたな」 
 これも小声で囁いた言葉だ。
「そしてどうした術であるかも」
「お言葉ですが忍術ですな」
「如何にも。そこまですぐに見抜かれる若い武家の方、それも信濃の方といいますと」
 それこそというのだ。
「真田幸村殿しかおられませぬ」
「だからそれがしが真田幸村と」
「思いましたがその通りでしたな」
「はい」
「それがし穴山小助と申します」
 ここでだ、男は名乗った。
「後でお話をしたいのですが」
「お話とは」
「ここに参られたということは参拝ですな」
 諏訪大社へのというのだ。
「左様ですか」
「はい、旅の安全を願い」
「ですか、ではそれがしも」
「貴殿も」
「共に参拝して宜しいでしょうか」
「はい」 
 幸村は穴山にすぐに答えた。
「それでは参りましょう」
「それでは」
 こうしてだった、二人は諏訪の社に参拝した、幸村の旅は一人であったが寂しいものではなく早速運命の出会いがあった。この時幸村自身はまだ気付いていなかったが。


巻ノ一   完


                         2015・4・10 
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