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ドラゴンクエストⅤ〜イレギュラーな冒険譚〜

作者:むぎちゃ
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第四十三話 祝福と蠢く影

 ビアンカはとても疲れていて、それでいてとても幸せそうな顔で寝ていた。最初は大泣きしていた赤ちゃんも産湯につけられていく内に気持ちよくって寝ちゃったのか今はビアンカの隣でぐっすり寝ている。

「良かったねアベル、ビアンカ。赤ちゃんが無事生まれて」

 私はその微笑ましい光景を見ながらそうアベルに笑いかけた。

「うん、僕もとても嬉しいよ!あの子達がどのような将来を送るのか、見届けるのが楽しみで楽しみで仕方ないんだ」

 アベルはこちらがびっくりするくらいの笑顔でそう言った。

「おめでとう、本当におめでとう!坊ちゃん!」

 サンチョも号泣するほど喜んでいたし、モンスター達もとっても喜んでいた。

「まさか王子と王女がいっぺんに産まれるとは……。これはすぐにでもお祝いをしなくてはいけませんな」

 オジロンさんが言うとメディ婆さんがキッとオジロンさんを睨みつけた。

「何を言っているんだい、ビアンカ様の回復を待つのが先ですぞ!いくらご馳走にありつきたくったってもう小さい子供じゃないんだから我慢おし!」

「す、すまないメディ婆」

 一介の助産婦であるメディさんが元・国王代理のオジロンさんにこんな態度を取れるのはオジロンさんを取り上げたのがメディさんであり、母親がおらず父も政治で忙しい為両親がいなかったパパスさんとオジロンさんの面倒を子供の時から見てきたのが彼女らしい。2人はメディさんの事をとても慕っていて、それだけに今もこうして怒られると頭が上がらないだとのことだとか。

 ……ていうかご馳走にありつきたかったのかオジロンさん。

 私がそんな事を考えていると私の横でドリスが口を開いた。

「しっかしあたしもこれでドリス伯母さんか」

「そういえばドリスってアベルの従姉だったね。ていう事はドリスにとって子供達は従姉甥と従姉姪か」

「そうなるわね。しっかしまだ18なのに伯母さんとは……」

「大丈夫、ドリスはまだまだ若いじゃん」

 私が背を軽く叩くとドリスは嬉しそうな顔をした。

「だよね!あたしってまだまだ脈ありだよね!ってまだ15のミレイに言われたくないんだけど!」

「仕方ないじゃん、産まれた年はどうしようもないんだし。悔しかったら若返ってみたら?」

 言った瞬間ドリスの額に青筋が浮かび出た。

「上等じゃない……、かかってこいミレイ!ただし魔法は無しね!」

「ほーう。私も甘くみられたものね。望むところよ!魔法だけじゃないって事見せてあげるわ」

 (明らかに私の方に責任がある)不毛なケンカを繰り広げようとした……その時!怒鳴り声が響いた。

「あんた達ケンカならどこか別のとこでやっていいから静かにおし!ビアンカ様と赤ちゃんは今寝ているんだよ!」

「「ごめんなさい……」」

 そうだ、私たちは叱られても仕方のないことをしようとしたんだ……。新たな命の誕生に喜んで、浮かれていたのを差し引いてもあんな常識外れの事をするべきではなかったんだ。そう思うと私は恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。

「まぁまぁメディ殿。それくらいで勘弁してくれないだろうか。彼女達も浮かれてしまっただけでしょうし」

 ゲバン大臣がメディさんを宥めた。メディさんの方も私たちが反省しているのをわかったからかそれ以上は怒らずため息をついた後「次同じ事をしたら部屋から出てってもらうからね」と言った。

「「はい……」」

 恥ずかしさと申し訳なさで私達は顔を上げる事が出来なかった。

「オジロン様。お祝いはともかく先ずは国民に伝えなくてはいけませんな」

「うむ。その通りだ、大臣」

「それでは私は準備をして参りますので」

「ああ、私も一緒にやるよ」

 オジロンさんとゲバン大臣が出て行くと、それを皮切りに他の人達も退室し、後に残っているのは私達2人とメディさんとビアンカと赤ちゃんだけになった。

「そろそろあんた達もお行き。もう寝る時間だよ」

「はい。お休みなさい」

 私達は挨拶をすると部屋から出た。

「……ごめんね、ドリス。怒らせるような事言って」

 自室への廊下を歩きながら私はドリスに言った。もう随分と遅い時間だったから周りに誰もいなくただただ静かだった。

「気にしてないわよあたしは。でもあたし達がした事は恥ずかしい事だった」

 周りの沈黙がいっそう強くなった。しばらく黙った後再びドリスが口を開いた。

「だからもうあいいう恥ずかしい事はしないようにね。あんたあと少しで成人でしょ?」

 そっか。忘れていたけどこの世界では成人は16からなんだ。 ……『影響』も何もなく私が普通に「ミレイ」ではなく「小宮山ミレイ」としての人生を歩めたら高校生になっていたはずだ。もしそうだったらどんな部活に入っていただろうか、どんな委員会に入っていただろうか、どんな先生と出会ってどんな友達と出会ってどんな先輩に出会っただろうか、バイトはしていたのだろうか、だとしたらどんなバイトをしていたんだろうか他にもどんな思い出を作れただろうか。それを考えた、考えてしまっただけで胸が締め付けられたように痛くなった。

「ミレイ?どうしたの?」

 黙っていた私を不審に思ったのかドリスが顔を覗き込んできた。

「な、なんでもないよ。気にしないで、私ここの部屋だからじゃあまた明日ね。お休み」

「お休み」

 ドリスと自室の前で別れた後私は部屋に入るとベッドに沈み込んだ。

「私、いつまで友達や仲間の前で嘘付き続けなきゃいけないんだろう。……とっても苦しいよ」

 折角幸せな瞬間に立ち会えたのにふと現状を思い出してしまうと喜ばなくなる自分が……私をそんな風にさせた神も『影響』も全てが嫌だった。



「ほう。それはまことか、」

「はい、まことでございます」

 2人の男の声が聞こえてくるのは禍々しく、生命の温もりなど微塵も感じさせないような青白い炎に照らされた部屋だった。

「グランバニアに王子、王女が生まれたとなれば我ら光の教団が把握しておかなくてはな。計画の全ては任せておくぞ。お前のやり方で自由にやってよい」

「はい。ありがたき幸せ」

「グランバニア王子、王女の誘拐計画が固まったら俺に知らせろ。お前の計画通りに手下を動かす」

「わかりました。……あの、一つ言いたいことがあるのでございますが」

「ほう、なんだ。言ってみろ」

「ミレイという名の少女の存在でございます。まだ15なのに恐ろしいまでの強力な魔法の力を持っていまして新国王、新王妃とも仲が良く友の為ならその魔法力を振るうことを躊躇いもしないでしょう。だとしたらその少女も誘拐した方がよろしいと思うのですが」

「よく知らせてくれた、俺からゲマ様に知らせておこう。だが誘拐する必要は無い」

「何故でございますか!い、いえ失礼しました。それが貴方様の考えならば私は何も言うますまい。それではさらばです……ジャミ様」

 1人の声が去るともう1人の声も去り、部屋に静寂が訪れた後青白い炎も消え部屋に暗闇も訪れた。



 

  
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