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リメインズ -Remains-

作者:海戦型
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14話 「その日、運命が動いて」

 
前書き
自律機械(アウトマーテ)
リメインズには人の手を離れて勝手に作動する機械が多数あり、大きく分けて遺産型と墓守型に分けられる。墓守型は神秘数列の類で自律的に動き回って侵入者を排除しようとするため魔物と同様排除対象であり、遺産型はそのような害のない物全般を指す。
自律機械に関してはいまだ不明な点が数多く存在し、各地の遺跡の一部でも解析の済んでいない自律機械が稼働し続けている。地方にはそのような自律機械を守る使命を持っている種族も存在する。 

 
 
 それは、ブラッドとカナリアが出会うきっかけになった昔の物語――



 その日、リメインズに何度目ともしれない爆音と絶叫が木霊した。
 もうもうと立ち上る煙の中から一人のマーセナリーの男が勢いよく飛び出て、涙ながらに喚く。

「もういい!!もう沢山だ!!お嬢ちゃんに付き合ってたら俺の命が持たねえ!!お願いだからコンビの話は白紙にさせてくれぇぇぇぇッ!!」
「ええっ!?ちょ、ちょっと待っ――」
「おがあじゃぁぁぁぁぁ~~~ん!!!」

 呼び止める間もなく、男は涙や鼻水を撒き散らしながら脱兎の如きスピードで逃げ出していった。
 その場にぽつんと取り残されたカナリアはしばしの間遠ざかる背中を呆然と見つめ、やがて「またやってしまった……」と己の失敗を悟り、膝からがっくりと崩れ落ちた。
 抱えていた携行大砲の砲塔から立ち上る白煙を切ない眼差しで見つめながら、ごろんと体を地面に投げ出した。

「……もぉぉぉぉ~~!!どーして私の携行大砲を見せると皆して逃げ出しちゃうんですかぁッ!?いいじゃないですか魔物は確実に倒せる威力があるし魔法より発動速くて連射できるんだからッ!!」

 まるで駄々っ子のようにジタバタともがいたカナリアは、やがて力尽きたようにリメインズの濁った空を見上げて大きなため息をついた。

 このリメインズで正式にマーセナリー登録を済ませてからというもの、ずっとこんな事を繰り返している。

 最初のパートナー候補は携行大砲を見て玩具扱いしてきたので一発ぶっ放したら腰を抜かして逃げ出した。二人目からは携行大砲の事を説明してからリメインズで実力を見せる事にしたが、どんなに言葉を尽くしても、誰もこの武器の特性や有用性を理解してくれない。
 そして、実際に見せると先ほどの男のように尻尾を巻いて逃げ出すか、丁重にお断りされてしまう。
 どうやら携行大砲とは母国エディンスコーダ以外では知名度がほぼないらしく、未だに理解が得られない。

「一体何がいけないんだろう?威力はバッチリなのになぁ……」

 携行大砲の放たれた先を見つめ、カナリアは納得いかずに首を傾げる。
 目線の先には5マトレ近くある『奥の壁ごと弾丸が貫通した』メタルゴーレムが、機能停止したまま佇んでいた。
 胸部には巨大な槍で強引に穿たれたような風穴が開き、弾丸の熱で未だに白い煙が上がっている。今にも動き出しそうなそれは、しかし人間でいう脳に当たるコアが粉砕されているために、唯の鉄の塊でしかない。

 メタルゴーレムはその名の通り全身が鉄で出来た厄介な自律機械だ。驚異的な硬度と馬鹿力を持ち、このフロア周辺では最もで出くわしたくない対策必須魔物として扱われている。だが、カナリアにとってはただ動きが鈍くて弾を当てやすい的でしかない。

 発砲時の轟音と威力はカナリアにとってはプラス要素なのだが、大砲そのものと馴染の薄いマーセナリー達にはどうもこれが危険でおっかないものにしか映っていないようだ。

「何でですか……だって敵に近づかずにあれだけ強い魔物を撃破できるんですよ!?威力も保証済みなのに何がそんなに気に入らないって言うんでしょう……?」

 もし彼女の質問に答える人物がここにいたとしたら、恐らくはこう答えただろう。

 『カナリア自身が危険だから』。

 正規軍が使用する大砲をハンドサイズまで小型化した武器を持ち歩き、周囲の被害も考えずに敵がいればすぐさま発射するマーセナリーなど、周囲から見れば危険人物でしかない。
 先ほどまで小娘だと内心で侮っていた相手が、実際には自分の10倍以上はあるゴーレムを平然と吹き飛ばせるのだ。自分たちが命がけで相対しなければいけない凶悪な相手を、羽虫でも撃ち落とすようにあしらう得体のしれない存在を隣に置いて、誰が安心など出来ようか。

 そんな女は頭が『いかれ』ている。或いは、存在そのものが『いかれ』だ。
 ヒトをも容易に粉砕する圧倒的暴力と、それを自覚しないようなあどけない表情。そのミスマッチこそが余計な不安を煽り、カナリアという少女の得体を知れなくしていく。退魔戦役でも、六天尊などの強力な戦力に対して似たような畏怖を覚えた兵士は彼らに近寄りたがらなかった。
 大きな実力差があるが故に、ヒトはそれを危険視して遠ざけたがる。
 そして、その恐れを正当化するために「あいつは狂っているんだ」と思い込む。

 そんな風に自分が思われているなど想像だにしていないカナリアは、段々と憂鬱になっていく。

「あーあ、いっそ一人で戦おっかなぁ。そもそもオジサンが戦い方を教えてくれたのは、『一人になっても生き延びられるように』って事だったし、多分一人でもなんとかなる……よね?」

 むくりと体を起こしたカナリアは、それが一番いいのかもしれないと思った。
 もとより最初は独りで戦うことなど覚悟の上。そう心を決めてこの屑の集まりに身を投じた。だからパートナーがいないのならばそれでもいい。
 不意に、じわりと視界が歪んだ。
 それが孤独から来る涙だと気付いたカナリアは、心の弱さを隠すように目元をごしごし擦って顔を上げた。

「……次のパートナー候補で最後にしよう。それで駄目なら諦める……うん、それがいいや」

 高望みなどしないし、恵まれなくてもそれでいい。
 マーセナリーとして評価されずに落ちこぼれて後ろ指を指されても、それを我慢すればいいだけだ。
 テレポットに携行大砲を仕舞い込んだカナリアは、最後のパートナー探しの為に重い足取りで上層へと向かっていった。

 その間に出てきた魔物は、素手で黙らせた。


 = =


「……やはり今回も駄目でしたか、カナリアさん。もうこれは貴方がマーセナリーに向いていないと考える他ありません。もう諦めてもよいのでは?技術者としての働き口はあるでしょう?」

 パートナー仲介を担当していたベネッタは率直な話を切り出した。
 そんなこと分かってる、と怒鳴りかけた心を落ち着かせる。
 カナリアには「ここ」しかない。ここ以外では意味がないのだ。
 カウンターが高すぎるから木箱を台座代わりにしているちびカナリアは精一杯に身を乗り出した。

「向いてなくてもやりたいんです。お願いしますベネッタさん!!これで駄目ならもう仲介のお願いはすっぱり諦めますから!!」

 審査会窓口のカウンターに勢いよく頭をゴツンッ!!と叩きつけて頭を下げる。
 頭蓋骨が叩きつけられた鈍い音に、ベネッタの顔が引きつる。
 ……これで駄目なら一人で続ける、と言えば止められることは分かっているので敢えて隠した。
 不退転とばかりにカウンターに頭を叩きつけたままのカナリアに、ベネッタも困り果てたようにどうしたものかと思案を巡らせていた。

 日常的に面倒極まりない屑どもの相手をしなければいけないベネッタは基本的に他人に素っ気ない。だがそんな彼女も流石に相手が子供の姿をしていると素っ気ない対応は躊躇われ、結局世話を焼いてしまっている。本当は情が移ってしまうのでやるべきではないのだが、一生懸命な彼女の力になってやりたいのもまた事実だった。
 
「………これで最後ですよ?これ以上は私も付き合いませんからね?」
「あ……ありがとうございます!!次こそは、次こそは必ずモノにしますから!!」

 がばりと顔を上げたカナリアの目は純朴そうな感じでキラキラと輝いている。

 が、さっきヘッドバットをかましたカウンターはカナリアのおでこ形のクレータを形成してしまっている。芸術的な曲線を描いた陥没痕を見るに、もしベネッタがカナリアの本気頭突きを喰らったら多分首の骨が折れるだろう。
 とんでもない石頭ね、とベネッタは頭を抱えた。硬いだけの石頭ならともかく、彼女は今まで何度退職を奨めても頑なに断ってきたというガンコな側面もあり、まさに二重の石頭。これからカウンターの修理を頼まなければいけないと思うと頭が痛くなる。

 しかし、とベネッタは頭を仕事に切り替える。

(彼女を任せられるほど組織の信頼度が高いマーセナリーなんて……これ以上は契約関係上難しいわ。どうしたものかしら?)

 今までは一人くらいならと余裕のあるマーセナリーを選出してきたが、もう限界だろう。
カナリアには、既にこれまで破格の好待遇と言っても過言ではない条件を回してきたのだ。しかし彼女はものの見事にすべて失敗した。

 マーセナリーのコンビやチームは例え一時的なものであっても契約として書面の手続きが必要になる。長期契約ともなると、登録も解約も内容が複雑になり、容易ではなくなる。故にどのマーセナリーも大抵はパートナー選びに慎重だ。苦労して引き入れたのにチームとかみ合わなかったら、スカウトの苦労と解除の苦労で二重苦を味わう羽目に陥る。

 これ以上、他に仕事を受けてくれる可能性のあるマーセナリーは――と思案して、ふと一人の男の影が頭をよぎった。審査会には基本的に従順で、実力を買われて教官紛いの仕事を任されることもあり、このリメインズで最古参のフリーランス。

「でも長期契約は絶対無理よね。あのブラッドリーに限って――」
「誰ですか?そのブラッドリーって?」
「え――っと、まぁフリーのマーセナリーよ。臨時チームの結成や助っ人で臨時タッグを結成することはあるけど、それだけよ。それより次に紹介する人を探しにいかないと……」
「それでそれで?ブラッドリーってどんな人なんですか?何でフリーなのに私に紹介してくれないんですか?わたし、ちょっと暗い問題物件でも構いませんよ?」

 やばっ、とベネッタは己の失態に顔を顰めた。カナリアはうっかり話に挙げてしまった謎の男ブラッドリーに興味津々らしい。彼女のタッグ捜索にも執念染みたものを感じるし、これは退いてくれそうにない。
 だがあれはタッグを組もうとしないだろうし、正直に言えば組んで欲しくもない。
 これは彼女の為でもある。続く見込みのないコンビなど仲介する意味はない。
 諦めなさいカナリア。その男に近づいてはいけません。

「言っておきますけど、ブラッドリーと組もうなんて馬鹿なことは考えないでくださいね。あの男はマーセナリーでも一等まともでない存在です。リメインズのダーティ・オブ・ダーティです。屑の中の屑な人でなしのファッキンシットです」
「えー……でもベネッタさんがこのタイミングで名前出したってことは審査会としての信用はあるってことですよねぇ?……なーんか隠してませんかぁ?」
「うっ……」

 流石はロリの癖に御年72歳。こういう時だけ勘が鋭い。
 確かに彼女の言葉は正しい。ブラッドリーは審査会からの勧告の一部を無視しているため、その埋め合わせのために積極的に厄介な仕事を片付けてくれる。仕事達成度は100%に近く、しかも常に無事に帰ってくるため負傷手当を払わなくて済むということで、審査会の中では仕事に対する評価が高い。

 が、彼は先も言った通り長期契約を行わない。それは周囲がブラッドリーという男について行けないからであり、彼自身タッグやチームをしがらみだと感じているからに他ならない。

「………ブラッドリーという男は確かに仕事を確実にこなしますし、審査会からの評価も高いです。でも、駄目です」
「だからどうしてですか?訳を言ってくださいよ!」
「ブラッドリーは……魔物を惨殺することに快楽を覚えた戦闘狂なのです」

 このリメインズでも最も命知らずで、最も強く、そして誰よりも異常な男。
 名前の由来は(ブラッド)そのものの擬人化。故に血染めの男(ブラッドリー)。彼にあだ名をつけた男はなかなかの皮肉屋に違いない。尤も、本当の皮肉は『本人がそれを自分の名前として使い始めた』ことだろうが。

「リメインズに潜るのは魔物を殺したいから。ただそれだけの理由で、彼は20年も死と隣り合わせのリメインズで最前線に立ち続けています。遠出から戻って来ればその身体はいつも返り血で真赤に染まっている。……そんな男を誰がお勧めできますか?残念ですが彼の話はここまでです」

 あの男は危険で、屑だ。さっさと死んでしまえばいいと今でも思っている。
 ベネッタは、幼い頃に初めてブラッドを見たその日から、ずっとそう思っている。 
 だからこれ以上あの男の事を考えたくもなかった。

 しかし、その想いはカナリアには届かなかった。

「でもー……聞いた限りでは審査会からの仕事をこなす優等生で、正規かつフリーのマーセナリーで、しかも腕が立つみたいじゃないですか?それくらいのベテランさんならひょっとして携行大砲を見ても逃げないかも!!くぅぅ~~!これは最後の最後にビッグチャンスですよぉぉ~~~!?」
(ああ……駄目だこれは。完全にブラッドリーとの仲介を頼む気だ……)

 そう、ついつい忘れがちになるが……このカナリアという女も一般人と比べると十分にハジケた思考の持ち主なのだ。そうでなければとっくの昔にきちんとしたパートナーなりチームメイトなり出来ている筈である。
 散々聞かせた危険や血染めというワードにむしろ期待を膨らませる彼女の楽しそうな姿に、ベネッタは嘆息する他なかった。

 だが、とベネッタは考える。
 ブラッドリーの隣をついて行けるマーセナリーなどいない。まして彼の手綱をカナリアが引くなどそれこそ不可能に違いない。これで無理ならば今度こそカナリアはマーセナリーの道を諦める切っ掛けになるかもしれない。
 ならば、それを利用させてもらおう。仕事はこなす男だから、最悪リメインズに出ることになっても命は守ってくれる。但し、心の方は期待できないが。

(精々貴方の最低最悪な所を見せびらかして頂戴ね、ブラッドリー・ブラッド………死にたがりの屑)

 そう内心で呟き、ベネッタは狡い打算するを自分こそ真に浅ましいのかもしれない、と自嘲した。
  
 

 
後書き
前書きの説明のネタが思いつかなくなってきました。
というのも、何を説明してなかったっけ?となるのが原因ですが。
今回の更新はたぶんここまで。質問受付中です。 
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