傾奇
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4部分:第四章
第四章
「で、賭けるものはじゃ」
「はい、慶次殿が勝たれればどうなりますか?」
「その時は」
「わしがその相手、坊さんに好きなことをさせられるのじゃ」
「好きなこと?」
「といいますと」
「ははは、それは色々と考えておる」
悪戯っぽい笑みを浮かべてだ。こう答える慶次だった。
「面白いことをな」
「あらあら、またですか」
「また悪戯を考えておられるのですか」
「些細な悪戯じゃ」
自分ではこう言う慶次だった。
「ほんの些細なじゃ」
「そしてその悪戯で、ですか」
「お坊さんをからかう」
「そうされるのですね」
「どうもお高く止まった者を見ておるとそうせずにはいられぬ」
だからだとだ。慶次は子供の様な笑みで述べた。
「どうもその坊さんもじゃ。摂関家の何処かと縁者であり学があるかどうかわからんが」
「それでもですか」
「お高く止まっているのは好きではない」
「そう言われるのですか」
「うむ。わしが負ければ頭を丸めよと言われた」
慶次はその笑みのままで煙管を持っていない左手で己の頭をさすった。
「坊さんになれとは言われなかったがのう」
「何と、その頭を丸めよとですか」
「そんなことを仰ったのですか」
「その様に」
「そうじゃ。無論わしもこの頭を丸めるつもりはない」
慶次自身もだ。そうだというのだ。
「全くじゃ」
「では。勝負に勝たれてですか」
「その摂関家の縁者のお坊様に悪戯をされる」
「そうされますか」
「さて、何をしてやろうかのう」
勝負の前からだ。慶次は楽しげに笑って言う。
「今から楽しみじゃ」
「はい、では頑張って下さいね」
「勝負の後の悪戯のこと、楽しみにしてますよ」
「どういったことをされるのか」
女達も笑顔でその慶次に話す。そうしてだった。
慶次はその僧侶と茶室で勝負に入った。そしてその頃同じ都でだ。
前田はお忍びで、とはいってもこれでもかという派手な格好で町を歩いていた。そうしてだ。
目の前にだ。如何にもといった感じのゴロツキ達がいてだ。若い娘に絡んでいた。
「なあ姉ちゃん、付き合えよ」
「ちょっと酒でも一緒に飲もうぜ」
ありきたりの言葉でだ。娘の手を掴んで強引にことを進めようとしていた。娘は明らかに嫌がっている。彼等のその様子を見てだ。
前田は彼等の前に出てだ。こう言ったのである。
「おい、止めぬか」
「んっ、何だ手前は」
「傾奇者かよ」
「そうじゃ、傾奇者じゃ」
まさにそれだとだ。前田も答える。
「その傾奇者として言う。その手を離せ」
「何い!?俺達に言うのかよ」
「止めろっていうのかよ」
「そうじゃ。詰まらぬ真似は止めよ」
前田はまたゴロツキ達に述べた。
「御主等の様な小者は足軽にでもなって精々華々しく死ね」
「手前、喧嘩売ってるのかよ」
「そうなのかよ」
「そうだと思わぬのなら足軽になるのも止めよ」
前田は彼等にさらに言う。
「そうじゃな。馬の世話をしてその尿や糞にまみれておれ」
「俺達にそうまで言うかよ」
「死にてえのかよ」
「死ぬのは貴様等よ。しかしじゃ」
それでもだとだ。前田は毅然として返す。
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