| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

異世界系暗殺者

作者:沙羅双樹
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

湿気の時間(2016/05/16 一部編集)

 
前書き
杉野君には既に勝ち目がなさそうです。(笑) 

 



【視点:樹】



雨の日が続く梅雨の季節――6月。梅雨に突入してから殺センセーの頭が何故か巨大化する様になった。いや、顔だけでなく、全身が若干肥大化してる気がする。


「殺センセー、最近顔が主だけど全身が巨大化してないッスか?」
「イッキ君、いい所に気付きましたね。実は先生……、この教室の湿度が高いこともあって、ふやけてしまっているのです」
「アンタは煎餅か何かか!!?」


俺がそうツッコミを入れると、一番巨大化――というより肥大化している顔を絞り、バケツ1杯分の水を絞り出した。


「雨粒ならば回避のしようもありますが、湿気ばかりはどうしようもありませんね」
「………まぁ、雨漏り上等のこのE組校舎じゃ仕方ないッスよ」


若干憂鬱といった顔をする殺センセーに対して俺がそう言った直後、倉橋さんがあることに気付き口を開いた。


「先生、帽子どうしたの?ちょっと浮いてるけど」


確かに。倉橋さんに言われて気付いたけど、殺センセーの帽子が微妙に浮いている。


「よくぞ聞いてくれました。実は先生にもついに生えてきたんです」


そう言って殺センセーが帽子を取ると、そこには―――


「髪が」
「「「「「「「「「「いや、それはキノコだろ!!」」」」」」」」」」


シイタケっぽいキノコが生えていた。ってか、キノコを髪と言い切る殺センセー、マジパネェ……。


「湿気にも恩恵があるということです。同じジメジメとした過ごし方をするなら、暗くではなく明るく過ごしましょう」


何か良い感じのこと言ってるけど、自分から生えたシイタケ喰いながら言うのは止めろよ。殺センセー。色々と台無しだよ。取り敢えず、こんな感じで本日最後の授業が終了した。

梅雨入りしていることもあって、最近は放課後に居残る者も少なく、先生達に質問がある奴ら以外は早々に帰宅している。無論、俺もその1人だ。

というか、俺の場合は転級当初から、授業が終わると早々に帰っていた。理由は1人でA・Tの(トリック)の練習をする為だ。学校でも気配をできる限り消した上で、校庭の隅を利用していた位だし。

しかし、最近――修学旅行以降は1人で帰ることは無くなった。実は神崎と一緒に帰ることが多くなり、(トリック)の練習にもサポーター的な感じで付き合って貰ったりしている。

強いて俺と神崎の関係を言い表すなら、エア●ギアのイッキと林檎、もしくはイッキと枢の様な気がする。今日も傘を差して2人一緒に下校中だ。


「そういえば、神崎」
「何?イッキ君」
「神崎のA・T、ウィール式でホイールを組んだんだけど、靴の部分をどうするかで迷ってんだ。何か、要望とかある?」
「う~ん……。靴の種類って、どの位あるの?」
「色々ある。一番スタンダードなのはスニーカー型。女性好みだと、ブーツ型やハイヒール型。革靴型やローファー型もある。どれでも作れるから、遠慮なく言ってくれ」
「……それじゃあ、ローファー型でお願いしてもいい?」
「おう」


そういえば、お宅訪問回で説明し忘れていたが、俺の住んでいる高級住宅街はE組校舎から駅を挟んだ反対側にあり、現在俺と神崎は駅前を歩いていたりする。

まぁ、俺の場合は轟の試験型玉璽(テストタイプ・レガリア)による徐行移動で、正確には歩いているとは言えないだろうが。ちなみに徐行速度は神崎の歩行速度と同じだ。

取り敢えず、俺と神崎が駅前の歩道を移動していると、俺達の視界にクラスメイトの姿が入った。


「ん?ありゃ―――」
「前原君?」
「だな。陽斗の奴、こんな雨の日に歩道に座り込んで何やってんだ?って、今度は渚達に――殺センセーだ。本当に何やって―――……ああ、そういうことね」
「イッキ君?」
「神崎、少しだけ視線を陽斗の前方に移してみ」
「…………あれって本校舎の―――」
「ああ。しかも、A組所属の生徒会役員と放送部部長だ。あいつらと一悶着あったみたいだな。見て見ぬ振りして通り過ぎる訳にもいかねぇし、俺達も陽斗の所に行くか」
「うん」


神崎が返答してくれると同時に、俺は少しだけ轟の試験型玉璽(テストタイプ・レガリア)の速度を上げ、神崎も駆け足になる。そして―――


「陽斗、A組所属の生徒会役員様か放送部部長様と何かあったのか?」
「イッキ――と神崎か。お前らも見てたのか?」
「イッキと神崎さん!?」
「ちょっ!杉野、落ち着いて!!」
「今回、友人の反応はスルーしておくとして、俺らはお前が歩道に座り込んでる所からしか見てねぇんだが、一体何があったんだ?」
「別に大したことじゃねぇよ。本校舎のビッチな元カノに俺が振られたってだけの話だ」


俺の質問に陽斗がそう答えると、一部始終を見ていた渚達が陽斗に気を遣いつつ、ある程度の説明をしてくれた。


「―――成程ね。確かに、そりゃビッチだわ。言い訳から始まり、最終的に逆ギレと自分の正当化とか、典型的な小物ビッチだな。
俺だったら、性根の腐った小物ビッチはこっちから願い下げとか、性根の腐った者同士でお似合いのカップルだとか言って、この場で自分からスマホの電話帳から相手のアドレス消してるわ」
「いや、本校舎の生徒相手にそんなことできるのはお前かカルマぐらいだろ」
「そうか?ってか、陽斗良かったじゃん。そんな性根腐ったビッチ、付き合ってても百害あって一利なしだろ。今回は後腐れも無く別れられた、こっちから見切りをつけてやったってポジティブに考えろよ。
むしろ、そんな糞ビッチを引き取った自称エリートの生徒会役員様に感謝しつつ、同情してやったらいい。そういった糞ビッチとしか付き合えない奴は、女を見る目が無いから今後も似た様な奴としか付き合えず、いずれは破滅するんだろうな、って」
「相も変わらず、お前の毒舌はキツイな。俺が悪く言われてる訳でも無いのに、胸にビシビシ来るぞ」
「イッキ君の言葉のナイフは切れ味が半端ないからね」
「何とでも言え。俺は自分が気に入らない奴を相手にする時は、主に精神面をボコボコにした上で見下すって決めてんだ。ちなみに俺が手を出す時は、強弱関係なくキレた時だな。
まぁ、それはさて置き。いくら同情できる点があるとはいえ、陽斗が理不尽な屈辱を受けたのには変わりはない。その辺りのけじめはきっちりと付けさせて貰わないとな。なぁ、殺センセー?」


俺がそう言うと、殺センセーは顔を10倍近くまで肥大させ、青筋を6つくらい立てていた。マジギレではないにせよ、かなりご立腹の様だ。


「イッキ君の言う通り。目には目を、歯には歯を、屈辱には屈辱を、です。彼女達にはとびっきり恥ずかしい目に遭って頂きましょう」


この時、神崎と前原を除く俺を含めたほぼ全員が普段殺センセーの浮かべている笑みと同じ顔になっていた。


 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧