恋姫†袁紹♂伝
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第18話
前書き
~前回までのあらすじ~
劉備「友達の友達だからおごってクレメンス!」
袁紹「は?(威圧)」
………
……
…
漢「黄巾退治しといて」
袁紹「しょうがねぇな、じゃけん大計略始動しましょうね~」
……
大体あってる
「良しお前ぇ達、黄巾に合流するぞ!」
『うおおおお!!』
大陸のどこかにある村の男達は雄たけびを上げる。彼等は今までの生活が維持出来ないほどに追い詰められていた。
凶作、疫病、それに加え重税。その日を生きるのも難しい状況で役人達は対策を講じることも無く、ただただ奪っていくばかり……
「オラ達が奪われたものを取り返すだ!」
「そうだ! 漢の奴等が奪っていったんだ!!」
黄巾に身を寄せたほとんどは元農民である。度重なる漢王朝に対する不満は、黄巾の長、張角を中心に巨大なうねりとなり、それまでの奪われる側から奪う側へと変貌し、大陸の支配者に牙を向いた。
………
……
…
「良く来てくれたな、張角様もお喜びに違いない」
「へ、へい」
数日後、黄巾に合流した村人達は萎縮しながらも頭を下げる。眼前にいる黄巾を頭に巻いた男が呼んだ『張角』 実はここにいる者達は自分の長の姿を見たことが無かった。
彼等のほとんどが元農民、もしくは騒ぎに便乗した賊達である。
「ん? そこのお前、何を大事そうに持ってんだ?」
「あ、いえこれは……」
此処の黄巾達を纏めているであろう男が、農民達が粗末な武器や農具に混じって、白い布に包まった何かを大事そうに抱えているのを見つけた。良く見ると同様の者達が数人居る。
「実はここに来る道中、あちこちに刺さっていたもので……」
「黒い……看板?」
布を取り外すと中から黒い看板の様なものが現れ――
「っ!? お、重めぇっ!? 何だこれは!!」
「へい、鉄で出来た看板かと」
「て、鉄だぁ!?」
重々しい鉄の看板だとわかった。
「オラ達に字が読める奴はぁいねぇけども、鉄は高価だべ? 持って来ただよ」
「官軍の奴等はどこまで金を掛けてんだ……」
この時代において鉄は高価な素材である。そのため鎧や武器などに使われるのが一般であり、その他の素材とするのは贅沢な話だった。
「これも俺達から奪った金で作ったにちげぇねぇ! お前等、それが許せるか!?」
『許せねぇ!!』
「だったら官軍に目に物見せてやろうぜ!!」
『うおおおおおおお!!』
男の言葉に呼応して雄たけびを上げる者達、男は官軍の策を逆手に士気を上げることが出来たと思っていたが
――でも、何て書かれているだ?
誰かの呟きに皆が我に帰り――
「た、確かに……」
「わざわざ鉄を使ってまで伝えたい……事?」
「どうせ降伏勧告だ!」
「鉄を使う必要あるのか?」
場は騒然としだした。その様子に男も内容に興味を引かれる。
「おい、丁の奴を呼んで来い」
自軍の中で字が読める者を呼び出すことにした。看板に書かれた内容が如何なるものであろうと自分達は止まらない。そう確信して――
「頭、呼んだか?」
「おう、ちょいとここに書いてあることを読んでくれ」
「……簡単な字なら」
そして丁と呼ばれた男は看板に目を通す。その間緊張が走り、皆が沈黙したが
「どうせ怖気づいた官軍が、今更降伏勧告してきたんだろうぜ!」
「ちげぇねぇ!!」
『ハハハハハハハハ!!』
頭の一言で笑い声を上げる。元盗賊団を率いてきたこの男は、人心掌握長けていた。
皆の士気が維持できているのを確認した彼は、再び丁に目を向けたが
「あ、ありえねぇ……ありえねぇよ……」
「……おい、丁」
丁のただならない様子にまたもや場に緊張が走る。せっかく持ち直した士気を目に見えて下げられ、頭と呼ばれる男は声を荒げた。
「何て書いてあったんだ? 言ってみろ!!」
「……で、でも頭」
「いいから言え!!」
「ヒッ……わかった、この看板にはこう書かれてある」
良く聞かせるために丁は男達に振り返る。体全体を震わせ、冷や汗を垂らし、顔面は蒼白だ。
彼の状態だけで、ただならない内容だと言う事がわかる。果たして何が書かれているのだろうか数十万の大軍が討伐に向かってくるのか、一騎当千の兵達が立ち上がったのか、あるいは――― 考えたくも無い内容が男達の脳を駆け巡る。しかし丁の口から出たのは、想像の範疇を超えたことだった。
「『武器を捨て、罪を認め、悔い改める覚悟のある者は南皮を目指せ、その地において保護する準備有り』」
「――は?」
その内容に頭が真っ白になる。そして一瞬にして騒然としだした。
――ほ、保護ってどういうことだ?
――そりゃあ……食い物に寝床だべ
――飯が食えるのか!?
――南皮っいえぁ、善政で有名な袁紹様のとこだぁ
――お、オラも聞いたことあるだ!
袁紹の善政は、規制緩和により南皮に訪れた行商人達、その他情報操作により各地に広まっていた。その情報は人から人へ、瞬く間に大陸全土へと袁家の名を轟かせていた。
言うまでもないが袁家の名は有名である。しかしその名が通用するのは役人などであり、
都市部は兎も角、近隣の小さな村などには無縁である。
『名を知っていても善政を知らねば意味は無い』そう思った袁紹は南皮に訪れる行商人達を奨励した。物を高く買い取り、安く売り、袁紹の人柄や善政も相まって彼等は次々に賞賛しだした。
後は放っておいても勝手に評判を広めてくれる。対黄巾の策の為に流布させたのだ。
「落ち着けお前等!」
『っ!?』
「これは官軍の罠だ! 俺達をおびき出して一網打尽にしようって寸法だ」
「……そ、そうだよな」
「今まで俺達を放っておいた連中が、助けるとは思えねぇ」
頭の言葉に反応して次々に口にする。今まで徴収されて来た彼等と漢王朝には、埋めようの無い溝が出来ていた。
「それじゃあ今日は此処で野営をするぞ、準備しろ」
『へい!』
………
……
…
風が仕官し、ある程度期間が経った頃、袁紹は此度の策を聞かせていた。
「……」
余りの規模の大きさに彼女は普段見せない様な顔で硬直していたが、なんとか頭の中で考えを纏めさせ口を開く。
「……このまま大陸が荒れ、賊が増え続ければそれを先導するものが現れて、一つの大きな塊なるのはわかったですよ。また、それを大分前から予想して見せたお兄さんの慧眼も心服です~。
――ですが」
袁紹を褒め称えた後疑問を口にした。
「国に絶望し、反旗を翻した彼等にその策は成功するでしょうか?」
官軍に刃を向けるというのは尋常ではない。そうまでした者達が、善政を敷いているとは言え、
漢王朝の忠臣である袁家に、寝返るような真似をするとは思えなかった。
「……風は、『窮鼠猫を噛む』と言う言葉を知っているな?」
「はい~、追い詰められた鼠さんは、天敵である猫さんにも噛み付く、と言う意味ですね~」
「そうだ、そしてその鼠は団結した賊達にあたる」
「……」
「彼等の殆どは農民であると考えられる。生活に困窮しその日の食事も無くなった彼等は、そこまで追い詰められて官軍に牙を向くのだ」
だが……、と言葉を一旦止め口を開く
「そんな彼等の前に突然『逃げ道』が出来たらどうなる?」
「っ!? 天敵に挑まず逃げ道を……優先する……」
………
……
…
黄巾賊の日が沈んだ野営地、殆どの元農民達が眼を覚ましていた。
「……お前ぇ、さっきのあれ信じられるか?」
「わかんねぇだよ、んだども……」
元農民の者達は身を寄せ合い。看板に書かれていた内容を話し込む、此処のお頭は一蹴したし突拍子も無い内容だったが……
「あの看板は鉄で作られていただよ、袁紹様ってのが金を持っているのは間違いないだ」
「……」
「オラは……オラは飯が食いてぇ」
黄巾賊の殆どは飢饉と重税から生活が立ち行かなくなった者達である。そんな彼等が集まって出来た黄巾賊に満足な食料がある筈も無く、空腹で痩せ衰えていた。
「……行くか」
「んだ」
このまま黄巾に身を寄せていても腹は膨れない。そう察した者達は闇夜に紛れ、隊から離れて南皮を目指す。
又、同様の事が大陸各地で起きていた。
………
……
…
「か、頭ぁ!! 大変でさぁ!!」
「なんだぁ? うるせぇなぁ……」
「昨日合流した農民の連中が殆ど消えちまってる!」
「んだとぉっ!?」
頭と呼ばれた男は、粗末な天幕から荒れてて外に出る。周りを見渡すと確かに元農民達の姿が無かった。それどころか合流前より数が減っているような―――
「……手下達からも離脱した奴等が出たようで」
「……馬鹿な」
生活に困窮していたのは何も元農民達だけでは無かった。元賊として黄巾となった者達も、元々は食い扶持に困り身を落とした人間達だ。
藁にもすがる思いで賊になったのだ。どうして同じ理由で南皮に向かわないと言えるだろうか
「……追いますか?」
「いや、必要ねぇ」
兵の質に劣る黄巾にとって、数は唯一の武器だある。それが無くなる事を危惧して追いかける事を提案したが
「今回は官軍の奴等にまんまとやられた、だがこれで連中も目を覚ますだろうよ」
「罠に掛けられて……ですか?」
「ああ、それで運よく生き残った連中がまた合流する。官軍の非道さも相まって勢いが上がるってもんだ」
「……」
この罠は瞬く間に大陸全土に広まる。藁にすがる思いで遠い道のりをやって来た農民達を、無慈悲に虐殺したという結末で――
そこまで考えて、頭は農民達が使っていた野営地に目を向ける。
「馬鹿野郎共が……」
一見、悪態をついているだけに見えるが、その姿は悲壮感に包まれていた。何てことは無い。彼も元農民である。小さな村で畑を持っていた頃は妻が、子供が、沢山の友人がいた。
しかしいつしか凶作に見舞われ、少ない食事でやりくりをしていたが、ほとんど役人に徴収されてしまった。
異を唱えた友人達は帰らぬ人に、慈悲を乞うた妻は連れて行かれ、満足な食事が出来なくなった子供は息を引き取った。
「今更信じられるかよ……、役人なんて……」
………
……
…
所変わって南皮、袁紹とその頭脳たる桂花、風の両名が、策により集まった農民達を観察していた。
「思っていたより少ないな」
「……はい」
黄巾の乱において、その軍勢は五十万にも及ぶという知識を持っていた袁紹は、始めは少なく見積もっても十万は南皮に来ると考えていたが――
「多く見積もっても一万ですね。此処にいるのは」
桂花が並ばせた農民達を見ながらそう口にした。
「フフフ、この人数は風の予想通りでしたね~」
官軍に対する不信感が根強いと踏んでいた風は、黄巾の中でも特に食い扶持に困った者達しか最初は集まらないとみていた。そして彼女の予想通り、眼前に集まった者達の殆どが、皮と骨だけと言う言葉が似合うほどに痩せこけていた。
「ええ、流石よ風、……想定していたからには策もあるのよね?」
「……ぐう」
「寝るな!」
「おお!?」
お約束なやりとりをしながらも、風は前もって考えておいた策を袁紹に耳打ちする。
自分達袁家を信用できないのであれば、信用させれば良い。簡単な話であった。
………
……
…
「お、お頭ぁ! 大変だぁ!」
「どうした!? 官軍の連中か?」
「それが……、以前いなくなった農民達が戻って来たんでさぁ!」
「っ!? ……そうか」
農民達が離脱してから数ヶ月、彼等が戻ってきたって事は――
「……何人生き残ってた?」
「そ、それどころじゃ……兎に角来てくだせぇ!」
「……?」
罠にかかって戻ってきたであろう農民達を、報告に来た男の顔に不の感情は見られない。
ただただ顔を驚愕に染めているだけである。これには頭も不思議に思い天幕から出る。
そして彼の眼に映ったのは――
「お、お前……等?」
「あ、お頭さん! 久しぶりだなぁ」
「お頭さん、罠なんて無かっただよ」
「んだ、オラ達がその証拠だべ」
「……」
血色が良く、活力に満ち溢れた農民達であった。良くみると少し丸く肥えている者までいる。
「……お前等こそが罠ってこともある」
「か、頭?」
「全員武器を構えろ! これこそが官軍の罠だ! 俺達を見知った奴等に誘き出させる気だ!!」
「そんな!?」
頭の動きに渋々といった形で抜刀する黄巾賊、そんな彼等の前に農民が一人歩み出た。
「……家族や友人を、罠なんかに掛けねぇだよ」
「家族? 友人だぁ?」
「んだ」
農民は南皮での出来事を語り始めた――
………
……
…
「武器の類は捨て去れ! 従わぬ者は切捨てる!!」
南皮に着いた彼等がまず耳にしたのはそんな言葉であった。他の農民達の姿も多く見られたが、正規の兵士達に囲まれて強気に出れるはずも無く、殆どが言われるままに武器を手放した。
――お、オラ達やっぱり罠に?
誰かがそう呟き不安が広がる。気が付けば広場に集まった農民達は袁家の兵士に囲まれていた。
――嫌だ……死にたくねぇ
――うぅ……おっかぁ
――最後に、腹いっぱい何かを食いたかったなぁ
――んだなぁ、でもこれで楽に……なんだべ?あれ
南皮の重々しい門がゆっくりと開き、中から多くの荷馬車が姿を現す。
――あ、あの荷馬車、湯気が出ているだ!
――じゃあ食い物なのか!?
――んだ、いい匂いがするだよ
――まさか……本当に?
やがて荷馬車が止まり、一人の兵士が農民達の前に出た。
「これより食事を支給する! 列を乱さず順番を守れ!! ――以上だ」
言葉が終わると、農民達は恐る恐る並び、列を作り始めた。
「この皿を持て、……ほら、こぼすなよ?」
「お、おぉ……あの、お役人様?」
「何だ? 列は長いのだ手早く済ませ」
「こ、これは何人で分け合えばいいので?」
「……何を言っている? それはお前の分だぞ、分ける必要など無い」
「……へ?」
素っ頓狂な声を上げながら手元に視線を移す。両手でないと持てないほど大きな器に、並々と具沢山の汁物が注がれている。これほどの食事はここ数年、いや、もしかしたら初めて目にしたかもしれない。
「……」
農民は放心したように列を離れ広場に座り込む、手に持った皿をまるで己の命のように大事に扱い。落とす事を危惧し地面に置く
「……ング」
料理からのぼる芳醇な匂いを嗅ぎ、乾いているはずの喉を飲み込む、おそるおそる再び皿を持ち上げ口元に近づけ――
「っ!?」
そこから先の事はほとんど覚えていない。ただ一心不乱に食事を頬張るだけに精一杯で、美味いはずである味もわからない。だが手や口が止まる事は無く、気が付けば完食していた。
「……」
食事が終わり、仰向けになりながら空を見上げる。息苦しさを感じるが不快感は無い。
むしろ満足と言うか、彼の人生では初の感覚であった。
「……うぅ」
安心したからなのか涙が流れ出す。家を失い、家族と離れ離れになり、泥酔をすするようにして黄巾に身を堕とした。
まさか今のように満たされる日が来るとは――
「注目!!」
食事の余韻に浸っていると、配膳を終えた兵が声を張り上げた。
恐らく自分達の今後の話だろう。農民達は少し億劫に思いながらも体を向けた。
「……これより袁家当主にして南皮太守である袁紹様からお言葉を頂く! 心して聞くように!!」
『っ!?』
それまでだらけていた農民達も、たちどころに姿勢を正す。袁紹が南皮の太守であるなら、彼が自分達に食事を用意してくれたようなものに他ならない。
窮地に陥った自分達の希望そのものだ。一体どんな人物であろうか―――
農民達が思い思いの視線を向けていると、高台の上に一人の美丈夫が姿を現した。
「我こそが袁家当主、袁本初である! 皆の者……良くこの南皮まで来てくれた」
一時は朝廷に反旗を翻した自分達に、向けられたのは暖かい言葉であった。
又、袁紹の眼差しは慈愛に溢れ、不思議と農民達の肩の力は緩んでいった。
――もったいねぇお言葉だぁ
――んだ、袁紹様のおかげでワシ等は生きてるだよ
――太陽みたいなお人だ……
彼等は皆、一様に頭を下げ肩を震わせている。今なら黄巾に変わる宗教の教祖になれるのではないか、と言うほどの勢いだった。
「……だが此処に居る皆は、過程はあれど朝廷に弓引いた罪人である」
『……』
「故に、ここ南皮において数年の強制労働、もしくは兵役が課せられる」
――食い物と寝床さえあれば……なぁ?
――むしろそのまま雇って欲しいだよ
――ワシ等に文句などある筈も無い
――んだ、本来なら死罪だで
袁紹から罰を聞かされても悲観するものは少なかった。食事と寝床を保障されるならむしろそのまま労働したい。そう考えるものが殆どである。
「……だが、我は他者の制止振り切り、ここまで来たお前達を賞賛する。――故に」
そこまで言って言葉を切った袁紹は、懐から扇子を出し前に構え――
「お主達の罪を恩赦する事にした!!」
パンッという音共に扇子を開き宣言した。
『……』
これに対して農民達は唖然とし――
――恩赦ってなんだ?
――さぁ?
――いいこのなのけ?
今まで聞いた事の無い言葉に首を傾げた。
「……」
その光景に袁紹は少し顔を赤くする。視線の端では風が笑いこけていた――
「……あー、お主達の罪を不問にするという事だ」
『……へ?』
「此処南皮において、住む家と当面の食料、職業を斡旋する用意もある。又、生活が安定するまでの間、税は発生しない」
『……』
袁紹の言葉を理解した農民達は一瞬沈黙し
『うおおおおおおおおおおおおおおお!!』
大地を揺らすほどの叫びを上げた。
………
……
…
「そして袁紹様は言っただよ、『お主達と行動を共にしていた黄巾達にも、この事実を伝えて欲しい』と、オラ達は恩返しを含めて此処に来ただよ」
「……その話しを信じろと?」
「んだ、短い間とは言え同じ釜の飯を食った仲でねぇか、先も言ったけど友を裏切るような真似はしねぇだよ」
「……」
「お頭……俺達……」
話を聞いていた他の黄巾の面々はすでに構えを解いている。それに彼等の意思が感じられた。
「どいつもこいつも……馬鹿野郎共が!!」
頭は武器を頭上に掲げ――
「か、頭ぁ!?」
「クソがっっ!!」
勢い良く地面に突き刺した。
「……その話しがもし罠だったら――」
「オラ達の首を差し出すだよ」
「……行くぞお前ら、南皮だ」
「っ! へい!!」
こうしたやり取りは各地で起こり、黄巾はおろか食糧難に苛まされた難民を交え、最終的に南皮には三十万を超える人間が集結し。それら全ては迎え入れられた。
………
……
…
この策は当然諸侯を駆け巡った。
「いくらなんでもやり過ぎだろ、麗覇ぁ……」
幽州で太守を務める赤毛の少女は頭を抱えながら呟き――
「うわわ、さ、さすが袁紹さん……」
理想に向かって研鑽している桃色の髪をした少女は、引き攣りながらも賞賛し――
「あわわ、凄い規模です……」
「はわわ、こんなの未来を見通しでもしないと無理です!」
彼女の新たな賛同者達は袁家を畏怖し――
「……私達、独立出来るの?」
「……」
独立を狙う小覇王は珍しく弱気になり、彼女の頭脳でもある女性は頭に手を置き――
「得物は肥えきった所で食して、その力を得るつもりだったけど……、これは肥えすぎね……」
金髪の覇王は重々しい溜息をはいた。
………
……
…
三十万人の元黄巾、難民達を受け入れてから約半月、受け入れた彼等を視察しているときであった。
「袁紹様! どうか私の話しを聞いてください!!」
制止しようとする兵士達を振り切り、袁紹の眼前で叫ぶように口にする。
「大人しくしろ! 申し訳ございません袁紹様」
「……」
「袁紹様……、どうか……」
涙を流しながらも袁紹の目に訴え続けるその姿に、何かを感じた。
「離してやれ」
「し、しかし――」
「良い、許す」
「ハッ」
袁紹の言葉で兵達は彼を開放する。とは言え主に近づけるわけにもいかないので兵士達が間に入る形になった。
「ありがとうごぜぇやす……」
開放された男は地面に額をこすりつけるようにして感謝の言葉を口にする。
そこまでして伝えたい事に袁紹は興味がわいた。
「良い、表を上げよ、……何か大事な事か?」
「へ、へい」
顔を上げた男は――
「どうか彼女達を――天和ちゃん達を助けてあげてくだせぇっ!!」
再び叫ぶようにそう口にし、頭を下げた――
後書き
この展開はやり過ぎだろー! とか思ったそこのあなた!!
これはまだ序盤だから……(震え声)
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