EFFECT
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交渉 3-1
「よし、勝負だ!」
「......」
午後からの箒を用いた飛行訓練の授業にて、目の前に現れた少年の第一声がそれだった。
まあ、教師からも、自由に飛行して良いとの許しが出ていた事だし、問題は無いかと思われた。だが、勝負...ねぇ。
「まあ、飛行の勝負だとは思うが...。どんな勝負なのか聞いても構わないか?」
「箒に乗って、あそこの鳥を先に捕まえた方が勝ちだ!」
少年は箒に跨ると、ふらつきながら浮いて行く。
堂々とフライングか。ふっ...。駄洒落のつもりだろうか。いや、単なるズルだな。
勢い良く飛び出した少年は、逃げ回る小鳥達を追い掛ける。
初めての飛行にしては上手い方だろう。だが、小鳥は追い掛ければ追い掛ける程逃げ回る。いつまで経っても、距離は縮まる事はない。
俺は、箒の柄に足を掛け浮かび上がる。
箒に乗るのも久しぶりだが、どこの世界も変わらないな。
「そこの小鳥。来い」
少年から逃げ回っていた小鳥達が、こちらに向かって飛んで来る。嬉しそうな小鳥もいれば、必死に向かって来る小鳥もいた。
まあ...どう来ようが、俺の勝ちに変わりない。少年が悔しそうに睨んでいるが、元々は少年が持ち掛けてきた勝負だ。文句はあるまい。
「俺の勝ち、だな」
「ぐっぅぅう...! 次の授業で勝負だ!!」
少年の宣言通り、次の授業でも勝負を持ち掛けられた。その次の授業でも。その次も。その次も。その次も...。
入学早々から退屈せずに一週間が過ぎた。少年は休日にも勝負を持ち掛けてきたが、それは流石にお断りさせてもらった。俺にもやりたい事があるのだ。全ての挑戦を受ける程、俺は暇ではない。
そう言えば...一週間の内に、変化があった。主に、少年の周りに付いている人間の事だ。黒髪の少年の他に、彼らの後ろを付いて回る気弱な少年をよく見るようになった。そして、彼らが俺の他に目の敵にしている人物がいる事が分かった。
翌週からはスリザリンと共に行動する機会が増えるだろう。少年の例の勝負癖は、グリフィンドールを減点に繋げる行為として定着しつつある。現に今、グリフィンドールの獲得点数の半分を少年一人が台無しにしている。
しばらくは静かな授業が臨めるだろう。
さて、今日は禁断の森に行く予定だ。爺様にも許可を貰ったし、森の番人であるルビウスに同行してもらう手筈になっている。禁断の森にしか棲息していない動植物の採取が主な目的だ。
課題? いやいや。単なる趣味に過ぎない。
城の外は未だ霧に包まれており、視界に映るものは限りがある。ルビウスは「危険だからやめておけ」と諭したが、この霧が出ている間にしか姿を見せない動植物がいるのだ。これ程までいい機会は滅多に無い。これを見逃す理由はどこにも無い。
ルビウスは諦めた様子で付いて来ているが、少し離れただけで彼の大きな体さえ見えなくなる。
どうも俺は熱中しがちなようで、ルビウスが連れて来た番犬のファングによく吠えられた。俺がはぐれてしまわないように...というのは理解出来るが、そこまで吠えられてしまうと貴重な動植物達が逃げてしまう。
注意しなくては......。
「ーーお...!」
目的の物が見つかった。思わず大声を上げそうになってしまったが、なんとか堪らえる。
俺の目前には、黄色や紫、緑に青...といった様々なイボを背中に生やした大きなカエル。カエルを傷付けずにイボを採取する事が出来れば、様々な実験が可能になる。
...さて、とりあえずーー。
「ーーペトリフィカス・トルタス(石になれ)」
人間以外の生物にも呪文が効くかと少々不安だったが、俺の声を聞いたカエルは石のように固まってしまった。実験は成功と言える。
すぐに試験管を数本とピンセットを取り出し、色の違うイボを一つずつ採取していく。カエルを傷付けないように、イボを潰してしまわないように神経を尖らせる。
全てのイボを取り終えるまでに三十分も掛けてしまった。
「フィニート(終われ)」
呪文終了を唱えると、カエルは逃げるように去って行った。まさか、己が呪文を掛けられるとは思いもしなかっただろう。驚かせてしまったな....。
さて...。あとは霧が晴れるのを待って、夜まで散策を続けるつもりなのだが、ルビウス達はいつまで付き合うつもりだろうか?
それにしても静かだな。微動だにしないし、まるで石のよう......。
「フィニート(終われ)!」
「っぶはぁ!!」
「すまん。どうやら、呪文が広範囲に拡散していたらしい。......何気に制御が難しいな」
「一生あのまんまかと思っちまった...」
ルビウスに続いてファングも弱々しく吠えた。
その後、小屋をずっと留守にはしておけないと言ってルビウスは帰った。まだ採取を続けたい俺には番犬のファングを残したが、大丈夫なのか、こいつ...。尻尾が下に巻いているし、小さな音に敏感過ぎて悲鳴と威嚇が混ざったような吠え方をするし....。
この時、もし早めに散策を切り上げていたら『彼』に気付くのが遅れてしまっていたかもしれないーーー。
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