戦国異伝
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第二百十二話 死装束その六
「武家もそうしたことを備えてな」
「人としての深みを備えていくのですな」
「そうしていかねばな」
それで、というのだ。
「そう思うからじゃ」
「では」
「そうしたこともしていこうぞ、馳走は山海の珍味を集めるが」
その話もした信長だった。
「前のこの城が出来た時よりもな」
「見事な山海の珍味をですか」
「数も量もな」
「多く」
「集めよ」
利休にだ、信長は命じた。
「新五郎や十兵衛達と共にな」
「では堺に戻り」
「頼んだぞ」
「それでは」
こう話してだ、そしてだった。
信長はあらためてだった、茶を飲み終えてだ。
利休に今度は自分から淹れた、そして利休もその茶を飲んだ。利休は信長の茶を一口飲んでからこう言った。
「ところで松永殿ですが」
「あの者のことか」
「はい、相変わらずです」
「家中でじゃな」
「嫌っておられる方が多いです」
「そうじゃな、猿以外の者が言っておる」
「あの御仁を」
ここから先はだ、利休はあえて言わなかった。
「その様に」
「うむ、何かとな」
「そうですか、それがしもです」
「御主もか」
「どうも怪しいものを感じています」
松永に、というのだ。
「陰、いえ闇を」
「闇とな」
「それを感じるのです」
「謀反ではなくか」
誰もが松永についてだ、彼の過去からこう言っているのだ。
「闇か」
「そうしたものを」
「飄々としておるがの」
「その飄々とした中にです」
まさにその中にというのだ。
「感じるのです」
「闇をか」
「それがあの方の中にあるのでは」
「ふむ。当家に入ってもう結構経つがな」
「しかしどの方もですな」
「わしと猿以外はな」
まさに家中の殆どの者がだ。
「あ奴を危険だと見ておってな」
「消そうとする方もですな」
「後を絶たぬ、爺も勘十郎も言う」
信長の左右の腕に当たる二人もというのだ。
「腹を切らせよとな」
「戦の場でも政でも働いておられますが」
「蠍じゃと言ってな」
それで、というのだ。
「何度もじゃ」
「では昨日も」
「二人共言っておった」
「そして他の方も」
「うむ、権六も牛助も五月蝿い」
こと松永のことでも、というのだ。
「やはりじゃ」
「腹をですか」
「そう言ってな」
まさに、というのだ。
「五月蝿いわ」
「しかしですな」
「わしはあの者に悪いものを感じぬ」
松永から、というのだ。
「全くな、だからな」
「誰に言われてもですか」
「うむ、腹は切らせぬ」
これが信長の松永への考えだった。
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