戦国異伝
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第二百十二話 死装束その一
第二百十二話 死装束
本陣に入った政宗を見てだ、織田家の誰もがだ。
驚いてだ、こう言った。
「何と」
「その服は」
「その服で来るとは」
「何ということじゃ」
「ほほう」
信長はだ、その政宗の姿を見て興味深そうに笑って言った。政宗は伊達家の水色でなくだ、白の服で来たのだ。
それは死装束だ、その死装束で信長の前に来たのだ。見ればそれは彼の両腕である片倉と成実もだった。
そして三人で信長の前に控えてだ、こう言ったのだった。
「只今参上しました」
「話は聞いた」
信長は自身の前で二人と共に頭を垂れた政宗に言った。
「茶をじゃな」
「所望したく参上しました」
「よくぞ言った、ではじゃ」
「はい」
「その茶を用意しよう」
利休のその茶をというのだ。
「これよりな」
「それは何よりの幸せ」
「しかしじゃ、その茶がじゃ」
信長は政宗にあえてこう言った。
「御主にとってじゃ」
「最後の茶になると」
「そうやも知れぬがよいのか」
「そのつもりで来ました」
政宗はここで顔を上げてだ、信長に答えた。
「この場に」
「利休の茶を飲めればか」
「それで悔いはありませぬ」
「そこまで思いか」
「参上しました」
「わかった、ではこれよりじゃ」
信長は政宗に応えてだ、そうして。
利休に顔を向けてだ、こうも言ったのだった。
「茶を用意せよ」
「わかりました」
利休も応えてだ、それから。
彼は茶の席も用意させそのうえでそこで政宗と共に飲んだ、片倉と成実はお置かれてそうしてであった。
利休を交えて三人で飲んだ、そこで。
彼はだ、自分の前にいる政宗に問うた。
「さて」
「はい」
「御主、利休の茶だけではあるまい」
ここであえてこう問うたのだった。
「そうじゃな」
「おわかりですか」
「わかるわ、そんなことはな」
それこそというのだ。
「御主の話を来てからな」
「左様ですか」
「わしは御主に勝った」
信長はこのこともあえて言ってみせた。
「それでじゃが」
「それがしは」
「その服で来たということは」
その政宗の考えも言うのだった、自分の口で。
「死ぬ為ではあるまい」
「そう思われる根拠は」
「わしは死ぬまで傾くつもりじゃ」
「傾くからですか」
「そうじゃ」
だからこそ、というのだ。
「御主も傾いておるな」
「如何にも」
「わしもそうしておった」
信長も、というのだ。
「今の御主と同じ場所におればな」
「傾かれて、ですな」
「その服を着ておった」
死装束、それをというのだ。
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