| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

美しき異形達

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五十一話 二人の伯爵その十一

「ここの夏は過ごしやすいよ」
「そうなのね」
「お陰でいい夏過ごせたよ」
「それは何よりね」
「あたしずっとここにいたいよ」
「神戸に?」
「横須賀もいいけれどな」
 それでもとだ、薊は笑顔で言うのだった。
「ここも気に入ったよ」
「けれど冬はね」
「寒いってんだな」
「このことは覚悟しておいてって言うけれど」
 それでもというのです。
「奈良よりはましだから」
「奈良の山奥よりはか」
「そう、私の実家の村は寒かったから」
「山だとな」
「そう、寒かったのよ」
 ここでもだ、裕香は自分の実家のことを話すのだった。
「お家も古くてね」
「別に江戸時代からの家とかじゃないよな」
「流石にそこまではいかないけれど」
「それでもなんだな」
「古いお家なのは事実で」
 防寒が古かったのでそれで、というのだ。
「寒かったわ」
「大変なところに住んでたんだな」
「まあね、だからね」
「裕香ちゃんにとっては神戸はか」
「我慢出来る寒さよ」
 実家のそれと比べてというのだ。
「本当にね」
「ううん、裕香ちゃんって大変なとこに住んでたんだな」
「奈良県南部は凄いから」
「本当に北と違うんだな」
「もう全然、山ばかりの秘境よ」
「人も少なくて」
「面積は広いけれどね」 
 奈良県の中でだ。
「吉野村とか十津川村とかね」
「名前は結構聞く場所だけれどな」
「歴史には出て来るけれど」
 吉野にしてもだ、天武帝も後醍醐帝もここに篭られている。歌舞伎の義経千本桜でも吉野山という有名な場面がある。
「それでも。山ばかりで」
「不便でか」
「人も凄く少なくて」
「暮らしにくい場所か」
「そうなの」
「成程度な」
「だからね」
 それで、というのだ。裕香は今もその実家のことを話すのだった。
「この前の旅行でも私進めなかったのよ」
「北からじゃ行きにくいか」
「そのこともあるから」
「同じ県なのにか」
「人も少ないし交通も不便だから」
「しかも寒いんだな」
「夏は涼しいけれどね」
 冬は暑い反面だ。
「そうした場所なのよ」
「それで遊ぶ場所も」
「あっ、全然」
 裕香はこの話題には左手を横に振って否定した。
「ないから」
「やっぱりな」
「ゲームセンターもカラオケボックスも喫茶店もね」
「何もないんだな」
「ハンバーガーショップもラーメン屋さんも本屋さんもね」
 そうした店が全てというのだ。
「勿論スパゲティとかもね」
「食えないか」
「カプリチョーザみたいなお店もないわよ、勿論居酒屋もね」
「凄い田舎だな」
「古い雑貨店みたいなのがある位でコンビニもなかったわ」
「そこまでいくと想像出来ないな」
「そうした場所だから戻らないわ」
 決して、というのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧