正々堂々と
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2部分:第二章
第二章
「若しこの城が欲しいならだば」
「どうせよというのだ」
「この黄忠を倒してからにするのだ」
ここでだった。彼は己の名を名乗った。
「そうするのだな」
「貴殿があの黄忠殿か」
「如何にも」
関羽の言葉にも頷いてみせてきた。
「その通りよ」
「貴殿のことはわかった。それではだ」
今度は関羽の番だった。しかしだ。
黄忠からだ。こう言ってきたのである。
「関羽殿だな」
「知っていたか」
「貴殿の名は天下に轟いている」
だからだというのであった。
「美髭公、その赤兎馬と共にな」
「知っていたか。ならば話が早い」
「この城を渡すつもりはない」
黄忠はまた関羽に告げてきた。
「若し手に入れたければだ」
「貴殿を倒せというのだな」
「如何にも。さあ、どうするのだ」
「退けと言われて退くのは武人の恥」
これが関羽の返答だった。
「それは貴殿とて知っていよう」
「では戦うというのだな」
「貴殿もそのつもりでここにいるのではないのか」
「その通りだ。それではだ」
「参る」
まずは関羽が前に出た。そして黄忠もだ。二人の一騎打ちがはじまった。
関羽はその巨大な得物を縦横に振り回す。一振りごとに風が唸り龍の如き咆哮を出す。その関羽に対して黄忠もだった。
手にしている刃を両手で振るう。それは関羽の攻撃を弾き返しそしてさらに己も繰り出す。二人の戦いは一進一退のものだった。
五十合、六十合となりやがては百合を超えた。しかし決着はつかない。
それを見てだ。関平と周倉も思わず唸る。
「義父上とあそこまで戦うとは」
「黄忠殿もやはり」
「そうですな。天下に数少ない豪傑です」
「張飛や趙雲殿と並ぶ」
どちらも劉備の下にいる天下無双の武の者達だ。その彼等にも比肩する者だと。黄忠のその武を見てそのことを認めたのである。
「義父上こそは天下一の武の方と思っていたが」
「そうですな。黄忠殿もまた」
「恐ろしい武を持たれている」
「間違いありませんな」
二人も認めるしかなかった。関羽と黄忠の戦いは百合から二百合になってもまだ続いていた。そしてそれはまだ続くのだった。
両軍も見守るだけだった。誰も手出しはできない。
二人の戦いは果てしなく続くかと思われた。しかしだった。
不意にだ。黄忠の馬がつまづいてだ。転倒してしまったのだ。
それに乗っている黄忠もだった。落馬してしまい地面に背中から落ちた。それを見てだった。
「あっ、将軍!」
「これでは」
「まずいぞ」
黄忠の兵達がだ。思わず声をあげた。
「馬に乗って互角だったのだ」
「それで今落馬しては」
「相手はあの関雲長だぞ」
「勝負にならない」
「まずい」
「やられるぞ」
黄忠に死が迫っているとだ。誰もが思った。しかしだった。
関羽は動かなかった。黄忠はようやく立ち上がった。得物はもう両手にはない。だがその彼に対してこう告げたのだった。
「馬を乗り換えられよ」
「何っ」
「今の貴殿と戦うつもりはない」
己の得物を右手に持ち構えを解いての言葉だった。
「新しい馬に乗ってだ。行かれよ」
「それがしを助けるというのか」
「お互い満足のいく立場で戦ってこそ」
これが関羽の言葉だった。
「だからこそ。そうされよ」
「・・・・・・わかった」
関羽の言葉に邪なものがないとわかってだ。黄忠も頷いた。
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