超人
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2部分:第二章
第二章
「それでどうでしょうか」
「いいな」
壮年の医師も彼の提案に頷いた。
「では。すぐに御呼びしてくれ」
「わかりました」
こうして細面ですらりとした中年の女が病院にやって来た。黒い服を着ており髪は上で束ねられている。その表情は暗い。
彼は二人の医師のところに来てだ。まずはこう問うたのだった。
「兄は」
「残念ですが」
「間も無く」
「そうですか」
それを聞いてだ。彼女はその暗い顔で頷くのだった。
「遂になのですね」
「お傍にいて下さい」
「宜しいでしょうか」
「はい」
断ることはなかった。すぐに答えた。
「それでは今から」
「そしてです」
「私達も御一緒させて頂いて宜しいでしょうか」
「御願いします」
女は二人の申し出をよしとした。そうしてまた言うのだった。
「兄も。喜んでくれます」
「そうですか」
「喜んでくれますね」
「必ず。そうしてくれます」
こう二人に話すのだった。
「ですから」
「わかりました。それでは」
「今より」
こうしてだった。二人の医師もまた彼女と共にある病室に向かった。コンクリートの病棟は暗く冷たい。扉はどれも鉄のものでありそれがさらに暗さと冷たさを見せていた。
その暗い病棟の中を進みながらだ。妹は兄のことを話すのだった。
「兄は。父がいませんでした」
「その様ですね」
「幼くしてですね」
「私もですが兄にとってそれは大きかったようです」
そうだったというのである。
「長じて学者になり」
「ギリシア悲劇を読まれてましたね」
壮年の医師が言ってきた。歩く度に硬質の音が病棟に響く。それが音楽にもなっていたが実に冷たい曲であった。まるで葬送曲の様だった。
「そうでしたね」
「そして音楽も」
「あれですか」
「その中で生き。愛し」
愛があったともいうのだった。
「そして裏切られたと思い憎み」
「そのうえでなのですね」
「そうです。ああなってしまいました」
妹の顔がここで俯いたものになった。
「それが兄です」
「そうでしたか」
若い医師は彼女のその言葉に俯いた顔で頷いた。
「それがあの方でしたか」
「兄は常に彷徨っていました」
こうも言う彼女だった。
「安住の場所を見つけることはできませんでした」
「そして今、ですね」
「その彷徨っていた世界から」
二人の医師がここで言った。
「去ります」
「そうなります」
「そうですね。それから何処に行くかはわかりませんが」
神を否定した彼だからだ。とても神の場所に行くとは思えなかったのだ。それはこの妹だけでなくだ。二人の医師も思うことだった。
そしてそのうえでだ。彼等は話す。
「しかしそれでも」
「見守りましょう」
「その旅立つ時を」
「そうさせてもらいます」
妹の言葉がここで強いものになった。
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