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魔法少女リリカルなのはstrikers――六課の鷹――

作者:マジフジ
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第二話

 
前書き
アニメの時間軸だとstrikers二話~三話終了時点です。 

 
 シグナムとの模擬戦を終えて、数日が経過した時だった。
 六課の準備、スタッフの名前を一日でも覚えようと、これからの日々に備えて当たり前に過ぎていく一日だった。
 魔導師試験、見に行かないか。
 そう、はやてがそう告げたとき、ホークは戸惑い、次に呆れた表情をした。
 何を下らない冗談を。わざわざ、陸戦Cランクの魔導師が受験するのは、陸戦Bランクへの昇格試験を見に行く程、ホークは暇では無い。
 リーダーを務めたことのある男にしては意図が読めないのか、と言われるところかもしれないが、そこまで頭が回らなかった。
 何故って、新人の割合の多い機動六課とはいえ、少なくとも人数は百人を超える。顔の知れた魔導師などはすぐに分かる。しかし、無名の魔導師やスタッフも含めて全員の顔と名前を一致させるのは時間がかかることで、一度あったきりでは把握しきれなかった。
「これから試験を受ける魔導師は、陸士三八六部隊の二人一組の魔導師。これから、あんたと同じフォワードのチームメイトになるかもしれへん。見ておいても損は無いと思うけどな」
 そういうことか、とホークは納得した。あらかじめチームメイトのスキルを把握しておけば、訓練の時に困ることはあるまい。深く考えるまでもなく、はやてに「見る」と短く答えた。そう答えた後、「ブルー・メテオを調整し直す。ちゃんとフライト出来ねえと相棒が泣いちまうからな」と言った。ブルー・メテオがきちんとかつての様に動けるように調整しに確認に向かい、機械を弄り直すと砲台などと言った攻撃部分は使えないものの、通信機器やエンジンだけは正常に治ったのを確認した後、はやての所へと向かう。
「八神、準備が終わった。通常に作動する、試験中に墜落することは無いだろう。耐久力も並みの魔法の流れ弾では通用しないぜ」
「あんた、まだその口調治らんようね。正式に六課が始動した時までに治しておかないと後々面倒な事になるで」
「了解した。なるたけ、直せるように努力する」 
「こういう無駄話はここまでや。試験、見に行くで」 
 はやては注意して、ホークは真摯に受け止めた。
 ブルー・メテオは起動させ、はやてとフェイトが乗っているヘリについて行く。操作は自動操縦に任せていた。操縦桿が自動で動き、エンジンも最小限の消費で済ませられるように調節され、空を飛んでいく。大きな揺れや問題も無く、穏やかな軌道で飛行している。とても、対大型戦艦を想定した作製された戦闘機だとは思えないほどだ。
 ホークは自動操縦という物が嫌いである。非常時を想定して、自動操縦が出来る様に設定はしていた。曰く、「自分の力で操縦してこそマシンの能力が最大限に活かせる」とのこと。
 しばらく、自動操縦に任せていると試験会場に到着する。試験会場はミッドチルダ臨海第八空港近隣。そこに存在するのは廃墟となった都市街。そのビルの一角の上に、二人の少女。一人は拳型のデバイスを身につけ、バシバシと胸の前に拳を打ち鳴らす。そのまま、気合の入ったシャドーをする青髪の少女。もう一人のオレンジ髪の少女は、その後ろで拳銃型のデバイスを調整している。ホークは資料を片手に、ウインドウ画面で試験を受ける二人の少女を見比べる。
(時空管理局陸士三八六部隊に所属しているスバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター。どちらも階級は二等陸士。……Bランクは一般に最初に立ちふさがる高い壁だからな。適性や役割を見させて貰うか)
「どう? 八神二等陸佐の見つけた子達は?」とフェイトがホークに問う。
「伸び代のある良い素材って言っていたが、こればかりは空中でお手並み拝見と行こうじゃねえか」
「そろそろ始まるみたいやで」
「用事がある時や感想を言いたい時以外は、通信しねえからな」
 通信を切ると同時に試験が始まり、モニターウインドウの一点に集中した。
 

 Ⅱ
「手早いな……。なるほど、二手に分かれ、ナカジマが建物内から、ランスターが建物外からターゲットを破壊したのか」とホークが評価する。
「いいコンビだね」
「そやけど、難関はまだまだ続くよ、特にこれが出てくると受験者の半分以上が脱落する事になる、大型オートスフィア」 
「今の二人のスキルだと普通なら、防御も回避も難しい中距離自動型の狙撃スフィア」 
「どうやって切り抜けるか、知恵と勇気の見せどころや」
(やはり、あのナカジマって奴……。昔、俺が暴走族に入る前にチームを組んでいたあの女にそっくりだ。荒さこそ目立つが、雰囲気と戦い方も……瓜二つ)
「ホーク? 大丈夫かな?」
 神妙な顔つきで何やり考え事をしているホークに心配になったのか、フェイトが思わず声をかけた。
「いや、何でも無い。もし、あの能力を持っている自分ならば、どう切り抜けるかって考えてた。八神の言う通り、示しを見せてもらうぜ」 
 その後、二人は順調に関門をクリアしていく。「Cランクの連中にとってはだが、あれらの猛攻を意図も簡単に突破するとは」と感心しっぱなしのホーク、「伸び代がありそう」と評価をしていた時だった。
「うおわぁ!?」
 流れ弾が飛んできた。それは、撃ち漏らしたスフィアからの攻撃を避けながら迎撃したティアナのものだろう。ブルー・メテオの操縦艇を握り咄嗟に反転させ、魔力弾の攻撃を跳ね返す。急な驚嘆の声が響いたのか、はやてが心配する
「ホーク、大丈夫か?」と心配するはやて。
「ああ、咄嗟にこいつをローリングで弾いたからな。幸い、大分距離もあったから弾速も弱まっていたから何とでもなった」と、得意げにホークは返答する。
「その様子だと、大丈夫そうだね」と、安堵するフェイト。
「俺とブルー・メテオの心配よりも、ウインドウ画面を見た方が良いんじゃねえか?」
 画面を見ると、ティアナが一人で走っていた。フェイトはすぐに彼女が囮役であることに気付く。当然、スバルがいないことに気付く。スバルがウイングロードを発動させて、建物内に突っ込む。手早く大型のオートスフィアを撃破した。
「おい、AMFをぶっ壊しやがったぞ……。しかも……AMFの上から」
「無茶するね、スバルも……」
「なのはちゃんと一緒やな……」
 スバルが大型スフィアを破壊していた様子を見て、評価した。
 スバルが大型スフィアを破壊した後、ティアナを背負ってゴールまで一直線していた。その間、設置してあったターゲットはティアナが破壊する。大型スフィアも破壊して、ゴールまで一直線――
「魔力、全開――!!」
 スバルがローラブーツに魔力を全力で注ぐ。それに応えるかの様に、スピードはフルにまで上昇していった。だが――
「ちょっ、スバル! 止まる時のことを考えているのでしょうね!?」
「え?! え!?」
「ウソォ!?」
「うわぁあああああ!!」と二人の悲鳴が響く。
「あ、何かちょいヤバです……」とリインが呟いた。
 
「ちっ! あのスピードで突っ込んだら、二人とも怪我だけじゃ済まねえぞ! ちっと乱暴な手段だけど、悪く思わないでくれな!」 
 コックピットを下にしつつブルー・メテオから飛び降りる。光線銃を片手にスバルのデバイスを撃って無理矢理止めようとする算段だったが――
「アクセルガード、ホールディングネットかな?」 
 ぶつかる直前で、ネット及びショック吸収用の魔法を発動する。スバル達は怪我ひとつ無く無事ゴール。ちなみにフェイトもはやて、両名とも緊急事態だった故にそれぞれがデバイスと魔導書を構えて対策を取っていた。スバル、ティアナにケガが無い事を確認したホークは飛行魔法を使い、体勢を立て直す。クルクルっと投げあげてそのまま銃のホルスターに収めた。ゴールした後、スバルはかつて、命を助けてくれた恩人である、なのはに会えた事で感極まり、なのはの胸を借りて大泣きして、ティアナはリインからの治療を受けている。
 フェイトとはやての乗せたヘリがなのは達に向かって降りてくる。試験場近くの本局施設にて、話をしている。フェイトとはやては、ティアナとスバルと向かい合って座っていたりする。ホークは、今回の試験結果を整理するために、なのはの手伝い(とは言っても資格は無いので、ボディーガードという名目で横にいるだけ)をしていた。
「しかし、驚いたな。まさか高町の技まで会得していたとは……」
「そうだね。ホークから見てどうかな? あの二人の実力は」
「独断と偏見になるが……。既にCランクと言う領域を超えている。あれはB+以上でもおかしくない。俺とも対等に戦えるのではないか?」
「そっか、そういう評価なんだね。私はこれからはやてちゃん達の所へと向かうね」
「了解した。あんた達が納得できるまで話をすれば良い。俺は後ろのベンチで、ゆっくり話を聞かせて貰うぜ」
 その後、時空管理局本局遺失物管理部機動六課の長として八神はやて二佐が、「陸戦魔導師が主軸となるフォワード陣に」とティアナ、スバルの二人をスカウトしたいという話を持ちかけた。彼女達二人にとっても濃い経験は積めるし、昇進機会も多くなる。何よりもスバルは憧れのなのはからの直接魔法戦の教導が受けられ、ティアナにはフェイトのアドバイスが受けられる利点など、挙げて説明する。説明している最中になのはが現れる。話を一旦中断して、二人の試験結果を伝えた。
 なのは・リインフォースの判断は、技術に関しての問題は無い。しかし、危険行為や報告不良があった点は見過ごせなかった事を伝える。「パートナーの安全や試験のルールを守れない魔導師が、他人の命を護れない」という一言が心に響いたのか、シュンとした表情を浮かべた。よって、試験は不合格――なのだが、特別講習に参加する為の申請書、高町なのは一等空尉の推薦状を渡す。本局の武装隊で三日間の特別講習を受け、四日目には再試験を受けさせる方針だ。「来週から、本局の厳しい先輩達にもまれて、安全とルールを確りと学んでこよう」と、なのはが言うと、スバルとティアナは思いがけない喜びに出会ったように笑顔になる。更にはやてが「試験に集中させる」と聞いて、立ちながら敬礼をした。スバル・ティアナらが中庭に向かった後、話がホークに向かった。
「ホークに話があるんやけど……」
「どうした、八神? また手伝いか?」
「ちゃうよ。あんたの部隊の配属なんやけど話してなかったろ? それで、ライトニング隊のフォワードをしてもらおうかと、思ってな」
「ライトニング? テスタロッサ・ハラオウンのチームか。しかし何故?」と疑問をぶつけるホーク。
「子供だから、少し心配なの」とフェイトがすかさず答える。
「なるほど、戦力的にバランスを取るんだな。さっきのランスターとナカジマよりも更に少ないガキんちょ。そのガキんちょ共と組ませることで、バランスを保とうということか。データは後で送ってほしい。よろしいだろうか?」
「分かった。一つだけ言うけど……。あの二人はまだ子供だから、あまりぶっきらぼうな態度を取らないでよ?」
「ただでさえ、きつい印象やからな」
「そこまではっきりと言われると傷つくのだが……。まあいい。了解した、こいつらとは良いチームになれる、出来る様にするぜ」
 ホークはそう言い、その後は「今日はもう疲れた」と一言残してから、はやてらと別れた。



(高町の言う通り、こいつらのコンビネーションなら楽に受かるだろうな)
 六課の隊員寮に戻ってきたホークは、自分の部屋に戻るなりベッドに倒れこんだ。ウインドウ画面を切り出す。スバル・ティアナ以外のメンバーも機動六課の新たなフォワード陣に入ることを知ったので情報を整理、赤髪の少年と桃髪の少女のデータを見ていた。
 赤髪の少年――エリオ・モンディアルは、魔法体系の基本は近代ベルカ式だが、機動系に関してのみ一部ミッドチルダ式。魔力変換資質「電気」を保有しており、変換プロセスを踏むことなく電気を発生させることが出来る。高速機動を主軸とするスタイルで、敵を殲滅・突破する型の騎士。
 桃髪の少女――キャロ・ル・ルシエは、第六管理世界アルザス地方の竜と共に暮らす少数民族「ル・ルシエ」の出身、竜を使役する巫女としての類い稀なる素質を持っていたがその力を恐れた長老から集落を追放された。魔法体系はミッドチルダ式・魔力光はピンク色で、レアスキル「竜召喚」を持つ召喚魔導師。召喚魔法以外にブースト系魔法にも長けているが、彼女自身の戦闘力は低い。
「なるほど……。テスタロッサ・ハラオウンが引き抜いたのか。面子こそ悪くは無いが経験が不足はやはり否めない。高町たちがどう鍛えるか、楽しみだな」
 ホークはそう呟いてから、ゆっくりと瞼を閉じた。もうすぐ始まる本格的な武装隊で自分がどこまで強くなれるか、という一点を思いながら。
 あっという間に一週間の時が流れ、今日は機動六課の稼働初日。ホークも六課の支給されたスーツに身を纏っている。この様な堅苦しい服装は好みではないのだが、そういう訳にもいかないだろう。陸士部隊の制服に身を包んだ隊員とバックヤード陣(といっても全員ではないらしい)が整列して、その時を待っていた。
「機動六課課長、そして、この本部隊舎の総部隊長、八神はやてです」
 八神はやて二佐が登壇し、集まった面々を見渡す。そのはやての後ろには高町なのは一等空尉、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官、グリフィス・ロウラン准陸尉の四名が壇上に上がっており、シグナム二等空尉、ヴィータ三等空尉、シャマル医務官がいる。
「平和と法の守護者、時空管理局の部隊として事件に立ち向かい、人々を守っていくことが、私たちの使命であり成すべきことです。――実績と実力に溢れた指揮官陣。若く可能性に溢れたフォワード陣。それぞれ優れた専門技術の持ち主の、メカニックやバックヤードスタッフ。全員が一丸となって、事件に立ち向かっていけると信じています。……まぁ、長い挨拶は嫌われるんで、以上ここまで。機動六課課長及び部隊長、八神はやてでした!」
 部隊の稼動式は無事に終わる。稼働式が終わった後、同じフォワードメンバーと顔を合わせるためだ。エリオとキャロを見つけたので、「おい」っとホークが声をかけた。
「お前達が、エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエだな?」
 いつもと変わらない口調で話すホーク。いつもの口調がやや高圧的な影響もあるせいなのか、キャロは軽く怯えたような目付きをしており、エリオは若干警戒している。フリードに至っては明確な威嚇をしているほどである。
「流石にここまで警戒されると困るのだが……。フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官から事情は何も聴いてないのか? 俺はお前達と同じライトニング部隊所属のホーク・ネヴィルだ」
「エリオ・モンディアル三等陸士、十歳であります!」
「キャロ・ル・ルシエ三等陸士、えぇと、私も十歳であります。それで、こっちが白竜のフリード」
 ビシッと背を伸ばして、敬礼してくるエリオとキャロ。
 どうにも堅苦しい、生真面目な性格をしている二人だな、っとホークは第一印象で抱いた。無理もない。彼と同じ立場とは言え七年の年齢の差があり、初対面で何のためらいなく年上相手にタメ口使ってたら、こういう職場ではやっていけないだろう。
「他のフォワード陣は?」
「まだ来てないですね、でももうすぐ来ると思いますよ」とエリオが答える。
 しばらく待っているとスバルとティアナがやってくる。
「よう、確認させてもらうぜ。お前達が聞いたフォワード陣か?」ホークは彼女らに近づいて答える。「そうよ」とティアナが短く答える
「私はティアナ・ランスター二等陸士。一六歳よ」
「スバル・ナカジマ。一五歳。よろしくね!」
「エリオ・モンディアル三等陸士、十歳であります!」
「キャロ・ル・ルシエ三等陸士、えぇと、私も十歳であります。それで、こっちが白竜のフリード」
 先程のホークと同じ様にビシッと背を伸ばして、敬礼してくるエリオとキャロ。
「ホーク・ネヴィルだ。十七歳」
 その後、彼らは部隊分けやコールサイン、経験・スキルの確認は出来た。しかし、ホーク・ネヴィルという名前を聞いたティアナが彼に不信感を抱きつつ問う。
「あんた……。まさか、暴走族をやっていたなんて言わないでしょうね?」 
 その言葉にスバル達の顔色も不信な物になる。当たり前だ、元暴走族と言う肩書を持った人間と一緒にチームを組むと言われたら誰だってその様な感情になる。
「そうだ……。やはり知っている奴は知っていたか……。だが、今は機動六課のホーク・ネヴィルだ。暴走族じゃない。八神らの部下だ」
「どうだか……。しばらくの態度で見せてもらうわよ」
 この後、フォワードメンバーの五人はなのはと合流した。先程、確認した重要事項を伝え、「早速訓練に入りたい」という事を承認した。 場所は機動六課陸戦訓練場付近。フォワード陣はいったん解散し、それぞれ訓練用の物に着替えて訓練場に集合することになった。ホークも黒のタンクトップとスラックスに着替え、自作デバイス、左目に分析装置を装備し、二丁の光線銃も腰のホルスターに収めた。
「今返したデバイスにはデータ記録用のチップが入っているから、ちょっとだけ大切に扱ってね。それと、メカニックのシャーリーから一言」となのはからシャーリーと呼ばれた女性に話を振る。
「メカニックデザイナー兼機動六課通信主任の、シャリオ・フィニーノ一等陸士です。みんなは『シャーリー』って呼ぶので、よかったらそう呼んでね。みんなのデバイスを改良したり、調整したりもするので時々訓練を見せてもらったりします。相談があれば遠慮なく言ってね!」
「「はい!」」とホーク以外の四人が答える。
「それとホーク・ネヴィル三等陸士。君はデバイスを道具の様に、武器の様に扱う傾向があるみたいだけど……。そういうことは今後しないように」
「その点も気を付ける。意識して立ちまわさせてもらうぜ」とホークは苦い顔しつつも、返答した。
「……じゃあ、早速訓練に入ろうか」
 なのはがそう言う。しかし、ここには訓練できるような場所でなければ、はっきり言ってこの場所に訓練できるようなスペースは無く、目の前にはザーザーと言う波音を立てている海が広がっている。
「は、はい……」
「でも、ここで、ですか?」
「シャーリー」
 スバルとティアナの問いに、なのはさんは不敵な笑みを浮かべ、シャーリーを呼んだ。呼ばれた本人は右手を挙げて笑っている。そして右手を振り、九種類の空間モニターを開いた。
「機動六課自慢の訓練スペース。なのはさんが完全監修、陸戦用空間シミュレーター。ステージ・セット!」とシャリオ・フィニーノが叫ぶ。
 その細い指が、スイッチを押した。海の上に浮かんでいた、でかいプレートが光った途端に巨大なビル郡が姿を現した。同時に目の前の海に、ビルの山が現れる。一瞬で現れたので、フォワード陣の五名は驚嘆の感情を表に出していた。彼らも空間シミュレーターなら何度か使った経験こそあるだろう。しかし、これだけのスケールなのは初めてだ。驚く彼らに配慮しつつ、なのははフォワード陣五名に模擬戦訓練のスタートポイントを教える。教わったフォワード陣はそのポイントへと向かう。
「よし、と。みんな、聞こえる?」と訓練用の無線を通じ、なのはが問う。
「はい!」とフォワード陣の全員が覇気良く答える。
「じゃあ、早速ターゲットを出していこうか。まずは軽く八体から」
「動作レベルC、攻撃精度Dってとこですかね」というシャーリーの問いに対し、なのはが「うん」と頷く。
 地面に、複数のミッドチルダ魔法陣が現れる。輝きを増した魔法陣から、カプセルを大きくしたような機械が八機、現れた。
「自律行動型の魔導機械。これは近づくと攻撃してくるタイプね。攻撃も結構鋭いよ」と簡潔にシャーリーが軽く説明する。
「では、第一回模擬戦訓練。ミッション目的、逃走するターゲットの捕獲、又は破壊。一五分以内」なのはの言葉と同時にフォワード陣の顔つきが真剣になる。
「それじゃあ、ミッションスタート!!」

 ⅳ
「ホーク。前衛二人が対処しやすい様にバックアップをお願い」ティアナがホークに念話を送る。
「ランスター、了解した。お前の指示通りにナカジマとモンディアルを動きやすくするために真上から光線銃でサポートする。ダメージは入っても期待はするな、殺傷能力や破壊能力は皆無だ。足止めにしか使えないぜ」
 ミッションが始まると同時にホークは隣接している屋根をジャンプして回る。背後から、二つの光線銃を巧みに使い分けて攻撃する。攻撃こそ当たっているが、全く怯まない。何故なら――
「ちっ! こいつら、俺の光線銃の特性を見抜いてやがるのか。耐久こそ、少しは削れたが完全に動きを止められねえ! 前衛、何とかしろ!!」
「了解! うおぉぉぉぉぉ!」
 逃走する四機のターゲットをスバルは追跡し、跳躍すると同時に拳に纏わせた魔力を一気に放出するが、その挙動を見破っていたのかすぐにターゲットが反応してかわす。
「何これ、動き早っ!?」
 その視線の先では、エリオがターゲットの攻撃を回避しながら壁を跳躍し、接近しているところだった。槍を振り魔力を放出するも、その攻撃もまた外れる。
「駄目だ……ふわふわ避けられて、当たらない……」
「前衛二人、分散しすぎ! ちょっとは後ろのこと考えて!」
「あ、はい!」
「ごめん!」
 ティアナの声が飛ぶと同時に、地上ではターゲット八機が合流して逃走を続けていた。
「ちびっ子、威力強化お願い」
「はい。――ケリュケイオン!」
 威力強化を受けたティアナが放ったオレンジ色の弾丸は、ターゲットに届く前に、消えた。
「バリア!?」
「……違います。フィールド系!?」
「魔力が消された!?」
「それに――」となのはが続ける。
 その言葉が終わる前に、スバルがウィングロードを展開してガジェットを追いかける。
「AMFを全開にされると……」
 ガジェットのAMFが一瞬光ったかと思うと、今度はスバルのウィングロードが途中で途切れ、追跡に失敗する。結果、彼女は窓ガラスに突っ込む形となった。
「飛翔や足場作り、移動系魔法の運用も困難になる。スバル、大丈夫?」
「対抗する方法はいくつかあるよ。どうすればいいか、すばやく考えて、すばやく動いてみて」
「もう既に答えは出ているんだけどな」とホークが言う。
 彼は既に一機のガジェットを捕まえていた。そのままの状態で、回転しながらジャンプして地面に押し潰した。所謂、ローリングプレスだ。軽くガジェットがへこんだ程度なので、すかさず追い打ちをかけるためにジェットブーツモードから両手剣モードへと切り替えた。バインドで拘束しつつ、蒼く燃えた剣を振り上げる。
「超! 烈! 風!」 
 叫び声と共に、ガジェットを空中に拘束しながらメッタ切りにする。急降下して地面に叩きつける。余程本気でやったせいか、ガジェットが原型を留めていないほど、バラバラになっていた。
「め、滅茶苦茶だよ……。これはちょっと予想外かな……?」となのはが驚く。
「しょうがないだろ、暴走族時代はこいつらにも襲われ、高町一等空尉達にも追われ、陸士部隊にも追われていたのですから」と愚痴を漏らした。
「あれを見ると、物理攻撃は防げないみたいね……。エリオ、キャロ、あいつらの足止めできる?」とそれを冷静に観察していたティアナが指示を出す。
「やってみます!」
「わかりました! フリード、ブラストフレア!」
 ティアナの提案にエリオとキャロはすぐさま行動に移した。エリオは彼に与えられた槍型のデバイス『ストラーダ』を使い、ガジェットの進路上にある橋を切り裂き、進路を塞ぐ。その隙にフリードの口から炎が吐きだされ、エリオの切り落とした橋の残骸に足止めを喰らったガジェットに直撃し破壊される。
 残りの七体のうちその攻撃に巻き込まれなかった二体は進路を変更し逃走を続ける。
 炎が、止まっていたガジェット三体の付近に合った瓦礫に命中し、結果捕獲となった。
「我が求めるは戒めるモノ、捕らえるモノ。言の葉に答えよ、鋼鉄の縛鎖。錬鉄召喚“アルケミックチェーン”!!!」
「こちとら射撃型、無効化されたからって諦めるわけには……」
 ティアナは手に持ったデバイスを構えるとカートリッジを二発一気にロードする。
「いかないのよ!!」
 ティアナは銃口に生じさせた魔力弾にさらに薄い魔力によるコーティングを行う。
「固まれ! 固まれ! ヴァリアブルシュート!!」
 そして、外殻が閉じた瞬間、ティアナは引き金を引いた。放たれた弾丸はガジェットのフィールドをものともせず、二体ともその本体を突き抜ける。
 これらの訓練の結果、模擬戦は成功した。
 
 その後、訓練は一日中続き、空はすっかり暗くなっている。新人たちはすっかりグロッキーだった。それが故にスバル、ティアナ、エリオ、キャロの四人が訓練着のまま、それぞれ静かに寝息を立てていた。訓練着も随分と汚れている。
(こいつらが寝ちまった……。仕方ない……俺もさっさと寝たいのだがこいつらをここに寝させるわけにはいかないな)
 ホークは両手にエリオとキャロを持ち、かつ、両肩にスバルとティアナを担ぎながらそれぞれの部屋に運ぶ。最後に自分もシャワーを浴び、自室のベッドに倒れ込んだ。
 ――俺はまだまだ強くなる。必ず、先代の殺した奴を探し出す。という変わらぬ想いを胸に抱きながら。 
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