| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

鉄人マークⅢ 1-出撃!鉄人マークⅢ

作者:仙田毘一
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 次ページ > 目次
 

第一部
一章
  鉄人マークⅢ 1-出撃!鉄人マークⅢ

 
前書き
すべてのヒーロー達に愛を込めて 

 
 今日も暑い。

 だけどそんなことは関係ない。エアコンの効いたこの部屋から出る必要は無いんだから。

 昨日からの夏休み、時間はたっぷりある。

 来年、高校三年の夏は受験の準備で時間は無いだろう。

 高校二年の、この夏しかない。

 楽しみにしていたオンラインゲーム「ジ・ハード・オブ・ザ・ワールド」のダウンロードも終わっている。

 僕のPCスペックでもスムーズに動いてくれるはずだ。

 まさかとは思うけど知らない人のためにゲーム内容を説明しておくと

 世界中で起きるテロ攻撃を、オンライン上で組んだチームで迎撃、防衛するんだ。

 前作の「ブレーク・ジ・ハード」ではやり込んだ末に「リーダー」の上の「タイチョー」まで上り詰めた。「タイチョー」は全プレイヤー180万人の中の1万人しかいないんだ。

 今作では、さらに上の「ダイタイショー」を目指す。

 宿題は同じクラスの里谷(さとや)に1万円で委託してある。塾は「自学に集中したいから。」と言って、夏休みの間は休みにしてもらった。

 もうすぐ昼だ。

 ママが昼食を運んでくるだろうが、PCに向かっていれば勉強していると思っているから、気にする必要はない。

 さあ昼食前にチュートリアルは終わらせておこう。

 (ズッドーーーーン!!)

 な、なんだ目の前が真っ白だ!耳も聞こえない!臭い!焦げ臭い!

 「ママー!ママー!」

 叫びながら椅子から立ち上がろうとしたけど、バランスを崩して後ろに倒れてしまった!

 痛い!腰を打ったよ。

 「ママー!何があったのー!」

 ふいに肩をつかまれた。

 「コータ、雷よ。家の前の電柱に雷が落ちたみたい。大丈夫?」

 ママの声だ。

 いつの間にか、視力・聴力が回復していた。

 でも暗い。外からカーテン越しに差し込む日差しだけだ。

 「停電してるみたいね。コータなんともない?」

 「うん。大丈夫。停電か・・・。」

 え!停電!PCは?

 あわてて立ち上がった僕の目の前には、うっすら白煙を上げるPCがあった。

 うそだろ?

 マウスを動かす。クリックを繰り返す。

 当たり前だがモニターは真っ暗、反応は無い。

 「ダメよ。リビングのテレビもつかないし、冷蔵庫も動いてない。」

 後ろからママが言った。

 「そ、そんな!無理無理!PCが壊れるなんて!」

 「それどころじゃないわ。料理も出来ないし、食料品も痛んじゃう。」

 ママは言いながら部屋を出た。

 マズい!マズいぞ!ゲームは?いやメモリーが跳んだって事は、アレやコレやアノ画像も!

 いや、とにかくオンラインゲームが出来ないのは、この夏が終わっちまう、て事だ!

 部屋を飛び出して1Fに駆け降りる。

 ママはリビングで電話しようとしていた。

 「ママ!パソコン買ってよ!すぐに!」

 ママは怪我んな顔をしながら手で「あっちに行け。」と言った。

 クソ!確かに「はいどうぞ。」て買い物じゃないし、PCを買ったところでネットに繋がるかは怪しい状況だ。

 どうする?里谷のウチでやるか?

 いや、今日だけ出来ても意味ねえし!

 頭を抱える僕にママが

 「コータ、家電屋さんに付き合って。せめてテレビと冷蔵庫は買わないと。」

 ふう、そんな気分じゃないけど、万が一PCを、てのもあり得るか。

 部屋に戻って着替える。選ぶほど服はない。いつも着ている「アディダス」のジャージ上下。

 目立つことを嫌う僕らしく、ネイビーに白い三本線だ。

 スニーカーも白い「アディダス」のテニスシューズ。それを履いて玄関を出る。

 ママが「ベンツ」のエンジンを駆けて待っている。

 右から助手席に乗り込んだ。

 「パパがカード使っていい、て言うからテレビと冷蔵庫を買っちゃうわ。」

 「!」パパのカードは上限なしだ!上手く言ってハイスペックなPCをゲットだ。

 ついでに無線LANも契約出来れば、尚いい。

 「ママ、PCが無いと夏休みの宿題も、研究レポートも出来ないんだよ。買っていいでしょ?」

 思い切りの猫なで声だ。

 「そうなの?でも高いんでしょ?」

 前を向いたまま、ママが言う。

 「一番安いやつで我慢するから。」

 もちろん嘘だ。でもママはPCの相場を知らない。

 家から15分ほどの家電量販店に着いた。

 昔から何の家電を買うのもここだ。どこに何が売ってるか頭に入っている。

 車が停まるなり飛び出して走り出した。

 「ママは冷蔵庫見てるからね!」

 後ろからママが声をかけてきたが、無視だ!

 PC売り場に直行した。

 実はもう買う機種は決めている「GALLERIA」だ。

 オンラインゲームに最適だ。

 前回も欲しかったけど、その時はパパが一緒で、PCにも詳しいパパに

 「ゲームをするためにPCを買うわけじゃないぞ。」

 て言われて叶わなかったんだ。

 今日はパパは居ない。既成事実、事後報告ってやつさ。

 さて問題はXFかXG、いやこの際ZGにしてやろうか。

 「ひひひ」自然と顔がほころぶ。

 えっと、確かこの辺に展示してあったはず。

 無いな。場所が変わったのか。

 店員さんに聞こう。

 見回すとバックヤードに行こうとドアを開けている店員がいる。

 「あ、すみませーん。」

 あら無視かよ。ちぇっ、体育の授業で体力測定があっても走らない僕が、しかたなく走って

 今、店員さんが入っていったドアまで行った。

 ドアは向こうへ押して開くようだ。

 そっと開けて、覗き込む。

 薄暗い。

 「すみませーん。」

 静寂。

 しかたなく中に足を踏み入れた。

 そう、この時僕は、この後起きるすべての奇想天外な出来事に足を踏み入れたんだ。 
< 前ページ 次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧