ハリー・ポッターと蛇の道を行く騎士
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第十一話 漏れ鍋
前書き
ここらはオリジナルなんて殆ど無いけど、原作展開には大きくメスを入れてくつもりだよ。
今回でいうならばヴォルデモート卿生存設定とかね……結局力は失っているから、ストーリーに大きな影響は無いけど。
英国の学生達も、もう既に長期休暇へと突入している8月1日の朝。
今日は入学準備をする為にダイダゴン横丁へ行くことになっていたので早起きしたエメ。
布団から出るため半身を起こすと、ドアがノックされた。返事をすると、ロタロタが紅茶を持って入って来た。
最近の朝はロタロタとたわいもない雑談をしながら、アーリーモーニングティータイムを楽しむのが日常なエメ。
いつもより二時間も早く起きたのに、既にロタロタが起きて活動している謎。……気にせず朝の食事前の運動をすることにした。
運動が終わり、1人早めの朝食を食べていると、エメにロッカーソン・ヴェガより、フクロウ便で手紙と小包が送られてきた。
手紙には急な用事が入り案内にいけなくなったことに対する謝罪と、代わりの案内人をやってくれる人を用意し、頼んでおいたというような内容が書かれていた。
どうやら小包の中身は今日の案内をする代理人に対する報酬とされる物らしい。
エメがブレックファーストティーを飲んでいると客人が家までやってきた。
玄関に向かい扉を開けたロタロタの前には、黒いローブに身を包んだ、これまた黒い髪に鉤鼻をした男の人がいた。
ロタロタの後ろをティーカップを手にしたまま歩いてきたエメが挨拶をする。
「おはようございます。貴方が今日、ヴェガ先生の代理人として学用品購入を手伝ってくださる方でしょうか?」
「さよう、ホグワーツで魔法薬学を教えているセブルス・スネイプだ。準備はできているな」
スネイプは、表情を変えずに淡々と答えた。
纏っている雰囲気や話し方から、随分と威圧的な様子が窺えたが、どちらかというと嫌悪感や忌避感によるもののように感じられた。
余り良い感じはしなかったが、回りくどく話されるのも嫌いなので、一本芯の通った様子のあるスネイプに対するエメの印象はとりあえず悪くはなかった。
「ええ、いつでも出発出来ますよ。ですが、少し待って貰えますか?」
エメは飲み終わったティーカップをロタロタに手渡すと、食堂に置き忘れてしまった小包を取って来て欲しいとお願いする。
「どうぞ、ヴェガ先生より渡すように頼まれていた品です」
スネイプに今朝届いた小包を渡す。小包の中身は貴重な薬品らしい。
「ふん、行くぞ」
スネイプは小包を懐にしまい込み、門に向かって歩き出す。
それを見てエメは門まで歩かなければならないことに気付いてウンザリする。
前回動物園に行った時のように、ロタロタに送って貰えば楽で良いのだが、この後ふみとほのかの世話をしなくてはいけないロタロタには見送りが精一杯だった。
スネイプが全身から話し掛けるなという雰囲気を滲み出しているので、黙ってついて行くエメ。
「着いたぞ。ここが入り口だ」
しばらく歩いていると、漏れ鍋というちっぽけな薄汚れたパブの前でスネイプは立ち止まった。
スネイプに連れてこられたお店は随分と年季が入っている。建物の隙間に入るように立っているせいもあってか、道を行き交う人たちもパブの隣にある本屋か、その反対側にあるレコード屋にしか目を移していなく、まるで“存在していない”かのようにパブには気付かない。
1人で来ていたら、きっと気づかないで見落としてしまっただろう。
しかし、一度気付いてしまったら、この店に対する人々の反応はいくらなんでも不自然すぎると感じられる。
遠目から見て目立つかと聞かれれば誰しもが首を横に振るだろう。左右の店に一度でも気を取られてしまえばこんな小さく薄汚いパブなんて目に入らないだろう。でも、近付いていけば無視するにはあまりにも異様な雰囲気を放っているパブだ。全員とはいわなくても、何人かは必ず気付くだろう。
不思議に思ったエメは、スネイプに質問した。
「周りの人たちが誰もこの店に目を向けないのですが何故でしょうか?」
「ふん、自分で考えることも出来んのか貴様は」
ムッとしたエメが自分の知識と周りの様子から推測し、考えられる可能性から予想を述べる。
「そうですね……何かしらの魔法が掛かっているのは確実でしょう。明らかに不自然な程、周りの人たちの視界に収まって無いようですから。例えば……そうですね、魔力を持つものにしか見えないとか?」
「半分正解、だが間違いだ。ここには認識阻害の魔法が掛けられている」
エメからしてみれば八つ当たりもいいとこなのだが、スネイプはある出来事をきっかけにエメの両親を敵対視しており、その影響が態度や意地の悪い言葉の節々から漏れ出ている。
ロンドンにあるパブ“漏れ鍋”は魔法界でも有名な所だと聞いていたのだが、その割に店内は薄暗くて外で見た通りのそんなに広くない場所だった。
しかし、それでも店の中は多くの人で満たされていて、賑やかに活気溢れている。年寄りが多いが、若い人もちらほらといる。
客達が吸っているパイプから出る煙やアルコール、かびの臭いなどが混ざり、異様な悪臭を漂わせてエメの鼻を刺激する。
思わず眉をしかめるエメを引き連れてスネイプはカウンターまで一直線に向かう。
さり気なく臭い除けの魔法を自分に使っており、エメと同じように眉をしかめてはいるものの、それは臭いの所為ではない。もちろん魔法を掛けているのは自分にだけであり、エメには掛けていない。
そのため、腐った臭いは場所の薄暗さや混雑具合と相俟って、掃き溜めの光景をエメに連想させた。
如何に天才であろうと、エメもまたそういうものに憧れを持つ年頃の男の子である。魔法使いに対して莫大な期待を抱いていたエメは現実を目の当たりにして、多大なショックを受けた。
そんなエメを余所にしてスネイプは別の人に声を掛けられていた。
「やぁスネイプ先生。先生がここにくるなんて珍しいじゃないか」
スネイプに話しかけたのは、長テーブルの奥から出てきたバーテンダーの老人だった。バーテンダーはボロボロの布でグラスを磨きながらスネイプと話をしている。
「我輩とてこのようなところには来たくなかったがな。あの人経由の依頼だ、断るわけにもいくまい」
スネイプ先生がそう言うと、バーテンダーはビクッと体を震わせ、恐る恐るエメの方を見た。
さっきまでうるさい程に騒いでいた店の客達も急に黙り込んで、店の中はまるで通夜のごとく静まり返った。
「……あ、あの人とは、例のあの人のことかい?」
「他に誰がいる?」
ウンザリした口調でスネイプが応じる。
「あ、あの人は死んだんじゃ……」
客の誰かが恐る恐るといった様子で呟く。
「都合の良い幻想は止めるべきだな。力の殆どを失い活動を控えているだけで、活動出来なくなった訳でも無いぞ? 1人2人の調子に乗った愚か者を粛清する程度であれば、今の残存勢力でも造作ないことだ」
「ほぉ、そんなあの人があんたに託したこの子はいったい誰なんだね?」
バーテンダーが興味深そうに尋ねる。
「10年前、あの人を庇って身代わりに死んだ“万能の魔女”の実子だよ。つまり、アーロン家の直系でもあるということだ」
エメの方に向き直ったバーテンダーが挨拶をする。
「初めまして、私はここでパブを営んでいるトムといいます」
「こちらこそ初めまして、トムさん。私の名はエメ・アーロンです。先程紹介に与りましたように、現アーロン家の当主をやっております」
エメが挨拶を返すと、ようやく安心したように、顔の皺を深くしながらも微笑んできた。
「……もういいかね。早く行くぞ」
「あっ、すみません。ではトムさん、失礼します」
トムに軽くお辞儀をしてその場を後にする。
いつの間にか店の奥へ移動しているスネイプのところへエメが向かうと、傍の扉を開きそのまま外へと出た。
扉を出た先には、三方をレンガの壁に囲まれた小さな空間があった。何しに来たのだろうとバケツにちりとり、箒ぐらいしかないその空間を見渡してエメが疑問に思っていると、スネイプは袖口から杖を取り出した。
「二度目は無いからよく見ていろ」
そう言うとスネイプは杖先でレンガの壁のブロックを何回か叩いた。するとレンガの一つ一つがどんどん回転しながら動いてゆき、壁が捲れる様に広がると、瞬く間に大きなアーチ型をした入口に姿を変えた。
「この先がダイアゴン横丁だ。ダイアゴン横丁には魔法使いや魔女が必要とする、ありとあらゆる魔法道具が売られている。よほどの貴重品や、闇の魔法に関わるモノでなければ大抵のものはここで揃えることができる」
つまりここに無いモノを求める奴は、大抵が訳ありだということだ。
スネイプとエメの2人が入口を潜り抜けると、レンガはまた独りでに動いて元の壁に戻った。今後、1人で横丁に来る時にはスネイプが先ほどやっていたように杖で壁の一部を叩く必要があるので、何処を叩くのか覚えておかなければならない。
通りを見渡したエメだったが、ダイアゴン横丁は初めて見るようなものばかりで、驚きや興奮でエメを退屈させない。
今まで見たこともないような色々な店が軒を連ねており、まるで異世界に足を踏み入れたかのような感覚さえ与えてくれるのだから、その光景が如何にマグルの普通の日常とはかけ離れているかが分かるだろう。
道行く人は全員が魔法使いや魔女を象徴させるローブやマント姿をしており、同じロンドンにある街並みとは微塵にも感じさせない。
アーチ型の入口から歩いてすぐ傍の店には様々な大鍋が積み上げられており、看板には鍋屋とある。
鍋専門店から始まって箒専門店や杖専門店、さらに歩くと薬問屋にふくろう百貨店、マントに望遠鏡などを売っている小さな店が石畳の通りに所狭しと並んでいる。
他にも、猫や呪文の本、羽根ペンや羊皮紙やかぶにお菓子まで実に様々な物が売っており……更には何かの生物の内蔵や目玉を瓶詰めにして飾っている不気味な店なんかもあったので、とてもすべてを確認することなんて不可能だった。
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