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第二章
西本は山田を早速先発として使いはじめた、被本塁打が多いがそれでも山田は若きエース候補として相応しい活躍をはじめた、それはシリーズでもであった。
昭和四十六年阪急はリーグ優勝を果たし巨人と四度目の決戦に挑んだ、主力が老いてきている巨人に対して。
阪急は若手、特に山田と加藤、福本が台頭しまさに日の出の勢いであった。世間の評価は阪急有利であった。
「よし、今年こそや」
「阪急が日本一や」
「西本さんの胴上げやな」
「王や長嶋がナンボのもんじゃ」
「勝てるかい、今の阪急に」
「こっちが勝つで」
阪急ファン達は西本の日本一の胴上げを楽しみにしていた、そしてシリーズを進めていき。
第三戦の時にだ、西本は山田に言った。
「今日は御前や」
「わしが先発ですか」
「そや、今日は任せたで」
西本は山田に笑みを浮かべてこうも言った。
「勝つで」
「今日勝てば」
「二勝一敗や」
「それで勢いに乗れて」
「後の二つもいける」
二勝することも夢ではないというのだ。
「ここがシリーズの分岐点や」
「その試合をわしにですか」
「任せたで」
こう言ってだ、山田をマウンドに送ったのだった。
山田は西本の言葉を受けてマウンドに登りだった、そのうえで。
好投し巨人打線を抑えた、好投する山田に対して。
巨人には弱みがあった長嶋は健在だったが。
もう一人の看板であり主砲である王貞治、その彼がシーズン終盤から絶不調でありシリーズでも全く当たっていなかったのだ。
その王を観てだ、多くの者がこう言っていた。
「王は今はな」
「ああ、このシリーズもな」
「あかんかもな」
「長嶋だけでやるしかないかもな」
「このことも阪急にええことやな」
「そや、主砲が不調やとな」100
まさにその分だけというのだ。
「ええこっちゃ」
「まして山田は絶好調や」
「このままいけるで」
「この試合もな」
「阪急がもろたわ」
「山田今日は勝つで」
「阪急勝つで」
この試合、そしてシリーズもだとだ。試合が進むにつれて多くの者が思う様になっていた、そして試合は一対零となり。
九回まで進んだ、だがその九回に。
山田は二人のランナーを背負った、ここでバッターボックスには王が立った。西本はマウンドまで来て山田に問うた。
「いけるか」
「はい」
山田は西本の問いに即座に返した。
「いけます」
「そうか、次はな」
「王さんですね」
「わかってるな」
その王を見つつだ、西本は山田に再び問うた。
「ここが正念場や」
「幾ら王さんでも抑えられます」
山田は気持ちでは負けていなかった、それでだ。
西本にもだ、はっきりとこう言えたのだ。
「絶対に」
「そうや、そやったらな」
「勝ちます」
自信に満ちた言葉だった。
「絶対に」
「よし、わかった」
西本は山田のその言葉に頷いて答えた、そしてだった。
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