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憎くはないが

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第二章

「それこそ昔からあるではないか」
「寺に入れば」
「それでこの世から離れる」
「だからですか」
「忠長様も」
「どうしてもというのなら何処かの家に預けよ」
 家光はこの手段も出した。
「そして死ぬまでな」
「その家の預かりですか」
「井伊家にでも預けよ」
 家光はこう彼等に言った。
「譜代の身分の高い家にな」
「それで、ですか」
「終わりとされたいのですか」
「そうじゃ」
 まさに家光の本音だった。
「今も蟄居にしておるしな」
「ではこのままですか」
「永蟄居にされますか」
「このまま」
「それでも腹を切るよりはよかろう、それにな」
 さらに言う家光だった。
「永蟄居といっても死ぬまでではない」
「何時かはそれを許し」
「外に出されると」
「そうされるおつもりですか」
「既に改易しておる」
 家光は忠長へのこの処罰にも言及した。
「家臣達とも離し名も落ちておる、だからな」
「最早忠長様にお力はない」
「寄る者もいない」
「だからですか」
「ここはですか」
「忠長様への処罰は」
「もうよいではないか」
 何としても助命したい家光だった。
「余は国松を憎くもないしな」
「しかしです」
「それはです」
「出来ませぬ」
「それは上様とておわかりの筈です」
「忠長様は腹を切らねばならぬのです」
「絶対に」
 側近達は家光の言葉を受けてもだった、あえて言葉を返した。それは諫言だった。少なくとも彼等にとっては。
「確かに忠長様は改易されました」
「その名は落ちました」
「寄る者はもういません」
「忠長様を支えていた者達も処罰されています」
「そのうえで蟄居となっています」
「忠長様は最早お一人です」
「何の力もありません」
 このことは間違いないというだ、彼等も。
 だがそれでもだった、彼等はさらに言った。
「しかし忠長様がおられる限り」
「担がれる心配があります」
「万が一ですが」
「それでもです」
「その心配が少しでもあるので」
「お願いします」
「ご決断を」
 絶対にと言うのだ、それでだった。
 家光にあくまで強く求めるのだった、忠長の切腹を。そしてこれは彼等でなく土井利勝や林羅山、以心崇伝や南光坊天海といった者達もだった。
 家光にだ、こう言った。
「上様、お気持ちはわかります」
「しかし幕府の為です」
「ここはです」
「そうされるしかありませぬ」
 絶対にというのだ。
「忠長様のご切腹を命じて下さい」
「あの方に妖しい者達が寄って謀反でも考えられると厄介です」
「それを防ぐ為にも」
「お願いします」
「御主達まで言うのか」
 家光はその彼等にも苦い顔で返した。 
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