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親孝行

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第五章

「御前達に迷惑かけるなんてな」
「だからそうしたことは言わなくていいから」
 香蓮は父にこう返した。
「お互い様じゃない」
「そうなのか」
「そうよ、家族だし親だと」
「親に何かあればか」
「助けるのは当然よ」
「当然か?」
「私にとってはね」
 子供、少なくとも香蓮にとってはというのだ。
「だからね」
「いいんだな」
「そう、いいから」
 それで、というのだ。
「心配しなくていいから」
「ならいいけれどな」
「だからそのまま休んでね」
「そして元気になったら」
「また頑張ってね」
 父に笑顔でこう言ってだ、そしてだった。
 父は元気になると診療所を出てそのうえで馬丁の仕事に戻った、香蓮はあらためて商売に励んでだった。
 金を儲けていった、その彼女を見て客達は桃姫に言うのだった。
「相変わらず盛大に儲けてるけれどね」
「それでもな」
「今一つ店が大きくなってなくないかい?」
「儲けの割には」
「そう思えるんだがね」
 居酒屋で桃姫と共に飲みながら彼女に言うのだった。
「俺達の気のせいかね」
「何処かにお布施でもしてるのかい?」
「それはそれでいいことだけれどな」
「まあそんなところだよ」
 桃姫は飲みながら笑ってこう彼等に言った。
「あの娘はね」
「ふうん、だから」
「それでなのか」
「あれだけ儲けてるのにな」
「今一つ店が大きくなってないのかい」
「そうだったんだな」
「まあそれもね」
 このこともと言う桃姫だった。
「もう終わったから」
「そのお布施もかい」
「それもかい」
「そうだよ、だからね」
 それで、と言う桃姫だった。娘のことを。
「お店はこれからどんどん大きくなるよ」
「稼いだ分だけか」
「そうなるんだな」
「なるよ、稼いだ分だけね」
「それはいいことだな」
「これからが楽しみだな」
「商売の才能があってしかもあれだけのことをしたんだよ」 
 桃姫は彼の夫、そして香蓮にとって父である彼を救ったことについても言った。それであるとははっきり言わなかったが。
「そうした娘が成功しない筈がないよ」
「何か知らないけれど凄いことしたんだね」
「香蓮ちゃんは」
「そうそう出来ないことをね」
 したとだ、やはり具体的には言わないが言った。
「やれたんだから」
「そうかい、じゃあな」
「これからの香蓮ちゃんに期待だな」
「これからどれだけ店が大きくするか」
「そしてどれだけ増やせるか」
「楽しみだな」
「そうしておいてね」
 こう言ってだ、そしてだった。
 桃姫は香蓮のことを祝ってだ、そのうえで。
 酒を飲みだ、娘のこれからのことを楽しみ祝うのだった。それからも。


親孝行   完


                     2014・10・23 
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