精霊使いの剣舞~憑依聖剣を振るうもの~
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四話、出会います
前書き
其ではどうぞ!!
勇人がグレイワースと出会い五年後の朝……
といっても日が顔を少し覗かせたばかりの為に明るさも控えめで、薄暗い
ともなれば、日差しが入りにくい森の中は朝といっても真夜中同然
その闇を切り裂く一筋の光があった
その光を放つ――微かな日の光を反射しているだけだが――剣は使い手によって何度も繰り返し、上下に振られる
やがて、千回に達したところでようやく地に置かれた
「ふぅ……とりあえず、こんなものか……」
千回素振りを行っていた人物、長野 勇人改めユウト・シェルマイスは額の汗を手で拭う
彼は五年前にこの世界に転生され、森の中で樹木精霊(ドリアード)に遭遇し撃退するが六式に体がついていけず気絶
そんな彼を救ったのが、現在、彼の後ろでずっと観察していた精霊使い、グレイワース・シュルマイズである
嘗て帝国の十二騎士に名を連ねていた歴戦の精霊騎士らしく、勇人を養子にした際には精霊使いの素質がある事がばれてしまい、貴族達が大騒ぎしたらしい
「……我が息子ながら中々いい体をしているじゃないか。触ってもいいか?」
「身に危険を感じるのは気のせいかな、母さん?」
互いに冗談を交わして、笑いあう
五年前までは赤の他人だった二人だが、今となっては本物のような関係を築いている
「だけど、珍しいね。いつもは何もない日はお昼まで部屋から出てこない母さんが今日は朝からずっと見てるなんて……槍でも降るの?」
「私は引きこもりか?……お前の連れていた精霊を調べているだけだ」
実はユウトが連れていた精霊……五大精霊がこの世界の精霊王レベルの力を持つものであることが精霊機関の調べで判明してしまい、精霊機関の馬鹿共が連れていこうとして返り討ちにあってしまったので、グレイワースが代わりに調べることになったのである
「(……いや、鼾が聞こえていたぞ?……目が覚めたら急に格好よくなるんだが……)」
一緒に過ごしてみればグレイワースの生活はひどいの一言に尽きた……
家事は絶望的、髪はボサボサ(しかし、何かしらの予定があると綺麗なまま)、夜遅くまで起きているせいで朝は起きてこない
寝起きと目覚めた時のギャップがかなり激しい……どうなっている……?
「えっと確認するけど剣の鍛練は午後からだよね?」
「剣の鍛練でとやかく言いにきた訳じゃない。実は昨日、寝る前に重大なことに気づいてな」
「重大なこと?」
「ああ」
グレイワースの表情がいつになく真剣になる
「(な、何だ!? いったい何を……)」
勇人は緊張した
グレイワースが真剣な顔になるのだ、何か重要なことなのだろう……
そう思ったが……
「私のことを『ママ』と呼んでほしい」
「ズこーー!!?」(ズザァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!)
それは勇人の思い違いで、彼女の重大な用件はとてつもなく下らないことだった
●○●○
勇人の中ではグレイワースはクールビューティーのイメージがある
普段の言動も一つ一つが洗礼されていて、喋り方も少し強めの口調
その容姿も雰囲気も大人のものだ
転生された時には原作知識を消してもらっている事もありその考えが根付いている
そんな勇人とグレイワースは屋敷の一部屋で二人は向かい合っていた
「では、本題を話そうか」
「……本題って言っても、母さんの呼び方でしょ?」
「『ママ』な」
「嫌だ」
「何故だ!?」
「当たり前だ!?」
向かい合い、真面目に話し合う二人だが、議題はかなりふざけている
これには五大精霊も呆れてなにも言えない
「そもそも、何故ママって呼ばれたいんだよ?」
「ママの方が何か母性本能をくすぐるじゃないか。 それに私の家でもママだった、だから私もママと呼ばれてみたい」
「下らない理由だな!? てか最後のはどう考えても本音だよな!?」
グレイワースの発言に思わず勇人は突っ込んだ
「では、反対に問うが、ユウトが私をママと呼びたくない理由を聞かせてくれないか?」
「恥ずかしいからだよ!10歳にもなって『ママ』はキツいんだよ!!」
「そうなのか?」
「そうなんです」
「だが、"私には関係ない"」
「なら、俺も呼ばなくて良いよね?」
「それは別だ」
…………。
『………………!』
にらみあう二人。仁義なき戦い
こうして二人が家族になって初めての親子喧嘩の幕が開けたのであった
ーーーーーーー
ーーーーーー
ーーーーー
喧嘩の結果、ユウトが料理を作らないという切り札を出し、胃を手懐けられていたグレイワースがしぶしぶ諦めることによって終了した
●○●○
下らない喧嘩から数日後……
ユウトはグレイワースと共にエルステイン領に訪れていた
近々国内で催される予定の精霊に捧げる儀式について、代々[火の精霊姫]を輩出してきたエルステイン公爵家の当主と相談をしに来たのである
グレイワースがユウトをつれてきたのは、公爵家の当主に男の精霊使いである義理の息子を会わせるためである
「エルステイン家は帝国内でも有数の名門だ。無礼が無いようにするんだぞ」
「平気だよ、母さん(前世でマナーの勉強してるしな)」
そう答える十歳の息子をグレイワースは微笑ましく見ていた
そんな二人を、エルステイン家当主、ヴォルフラム・エルステイン公爵は自ら出迎えてくれた
●○●○
~ユウト視点~
「よくぞいらしてくださいました」
「(この人がエルステイン公爵家当主……)」
とても貫禄のある人だな……
確か、ご夫人は娘さんと出掛けている筈だな……夕方には帰るらしいし……のんびりするか……
「シェルマイス家の長男、ユウト・シェルマイスと言います。この度はお世話になります」
俺はそう言ってお辞儀をした
「おお、この子が噂の"男の精霊使い"ですか。とてもしっかりしておりますな。私の娘と同じ年だというのに……」
エルステイン公爵……誉めてるんですよね?
なんか「貴様に娘はやらんぞ!!」みたいな目付きしながら笑顔で言わないでください……怖いです!!
「クレア、ご挨拶を」
エルステイン公爵が自分の後ろにいた俺と同じくらいの女の子を前に出した
「……~っ、お、お父様!?」
女の子は目を見開いて、慌てている
「え、えっと、わ、私……」
「クレア、落ち着きなさい」
「は、はい……」
クレアと呼ばれた女の子は息を吸い込むと、
「エ、エルステイン家の次女、クレア・エルステインです」
そう言いながらスカートの裾を摘まんで頭を小さく下げた
「ふふ、可愛らしいですね」
「申し訳ない、人見知りの激しい娘で、お恥ずかしい……」
苦笑しながら首を振る公爵……
俺はその間に少しクレア・エルステインを観察した
……うん、失礼だと思うが一言言うと……
……可愛いです、とても////
なんか、守りたくなりますね、うん……
「では、グレイワース卿、今度の儀式の件は、上の客間でお話ししよう」
「良いですよ、ユウト、お前はクレア嬢といなさい」
「「え?」」
母さんの言葉に俺とクレア嬢は呆然とした
「クレア、貴族たるもの、何事も経験だぞ。さ、グレイワース卿」
「うむ、いこうか、ユウト、男としてしっかりな」
「え、いや、一寸……」
俺の発言も無視されて、扉が閉められた
~ユウト視点終わり~
後書き
感想待ってます!
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