戦国異伝
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第二百十話 夜の戦その九
「よいな」
「畏まりました」
「ではこのまま」
「攻めてそうして」
「この者達を」
「退けるぞ」
こうも言うのだった。
「よいな」
「それではですな」
ここでだ、真っ先に突っ込んでいた慶次が言った。彼もまた柴田に従いこの騎馬隊に加わっていたのだ。
「それがしもまた」
「慶次、こういう時こそじゃ」
「傾く時ですか」
「傾くか慶次!」
「喜んで!」
これが慶次の返事だった。
「この前田慶次喜んで傾きましょうぞ」
「言うたなそれではな」
「はい、さあ伊達の強者達よよいか!」
慶次は朱槍を手に伊達の兵達にも叫んだ。
「この前田慶次と舞わん者は出て来るのじゃ!」
「わしもおるぞ!」
可児もいて言う。
「笹の味、楽しんでみせよ!」
「前田慶次か!」
「可児才蔵もおるのか!」
伊達の者達は二人の名乗りを受けてそれぞれ言った。
「そうか、天下の傾奇者とか」
「笹の才蔵もか」
「これは面白い!」
「今こそその首挙げん時!」
「さあ、行くぞ!」
「ここはわしの出番じゃ!」
「いや、わしじゃ!」
政宗の下で武辺を誇る者達が名乗りを挙げる、だがここは。
一人の老武者、水色の具足と陣羽織、烏帽子の男が出て来て言って来た。
「ここはじゃ」
「おお、茂庭殿」
「茂庭左月殿」
伊達家に知られた老将だ、その彼を見てだ。
伊達の若武者達は驚きだ、こう彼に言った。
「では貴殿がですか」
「どちらかの相手をされますか」
「前田慶次か可児才蔵か」
「どちらかの」
「両方でもよい」
鬼小島は笑ってこう言った。
「ここはな」
「何と、二人共ですか」
「前田慶次も可児才蔵も」
「二人一度にですか」
「そうしてもよい」
こう言うのだった。
「ではそうしてみるか」
「いや、それは幾ら何でも」
「あの二人は織田家きっての武勇の持ち主」
「その腕っ節の強さは天下に知られております」
「その二人を一度に相手にとは」
「幾ら茂庭殿でも」
「ましてや」
ここで一人の若武者が言った。
「茂庭殿も」
「そこで歳というでないぞ」
「うっ、それは」
「ははは、歳なのは確かじゃ」
自分から笑って言うのだった。
「しかしじゃ」
「それでもですか」
「まだまだじゃ」
その力は、というのだ。
「衰えておらんわ」
「では本当にですか」
「あの二人を一度に相手にされる」
「そうされるおつもりですか」
「駄目か」
「流石にです」
「それは無理です」
誰もがこう言って止めるのだった。
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