ドリトル先生と二本尻尾の猫
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第九幕その三
「面食いっていうか」
「美形好き?」
「人間の男の人の」
「そうよね」
「嫌いじゃないわよ」
お静さんは動物の皆にもこう答えました、
「実際にね」
「ああ、そうなんだ」
「やっぱりね」
「人間の美形の人好きなんだ」
「イケメン好きっていうか」
「そうなのね」
「うん、好きだから」
またこう言うお静さんでした。
「特に醤油顔がね」
「醤油顔?」
「何、それ」
「お醤油をかけたお顔かしら」
「何かそれってね」
「あまりね」
「あっ、醤油顔というのは日本的な美男子ってことだよ」
醤油顔と聞いていぶかしんだ皆にです、先生がお話しました。
「二十五年前位に日本にあった言葉だよ」
「そんな言葉もあったの、日本に」
「へえ、面白いわね」
「というかね」
「調味料と顔立ちを合わせるって」
「日本独自っていうか」
「変わってるわね」
「うん、これはね」
また言う先生でした。
「他にもあって」
「他にも?」
「他にもっていうと」
「まだそうしたお顔があるんだ」
「そうなのね」
「そうだよ、ソース顔とかマヨネーズ顔とか結構あったんだよ」
こうもお話する先生でした。
「ケチャップ顔、タバスコ顔ってね」
「何か日本人って」
「そうした言葉まで出してたなんて」
「いや、ちょっと」
「イギリスとはまた違ってね」
「凄いね」
「あらためて驚いたよ」
こう唸って言う皆でした。
「日本語の絶妙さ?」
「調味料と顔立ちを合わせて言うそのセンス」
「いや、お見事」
「もう使ってないのが残念な位だよ」
「日本人の言葉のセンスは凄いんだよ」
先生も真剣にです、皆にお話します。
「歌舞伎なんかでもね」
「ああ、日本の演劇だね」
「あの派手な衣装とメイクで演じる」
「言い回しと動きがかなり独特な」
「あれだね」
「うん、歌舞伎の題名も凄くセンスがいいんだ」
先生はこちらのことも言うのでした。
「僕も観て驚く位にね」
「それじゃあなんだ」
「先生もなんだ」
「日本人のそうしたセンスがなんだ」
「好きになってるんだね」
「興味が尽かないよ」
学者として、といった言葉でした。
「幾ら勉強してもね」
「というか先生よく知ってるわね」
お静さんは研究室の一室に座りつつ唸る様にして先生に答えました。
「いや、凄いわ」
「凄いかな」
「外国から来た人が醤油顔とか普通に知ってるなんてね」
それこそ、というのです。
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