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予想は予想

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第一章

                       予想は予想
 根室千佳も彼女の兄の寿も荒んでいた、それは何故かというと。
 学校でも憮然としている彼女にだ、クラスメイトが声をかけた時に誰でもわかることだった。
「ええと、昨日も」
「何しとるんじゃろのう、うちの打線は」
 怨念に満ちた声でだ、千佳は広島弁で応えた。
「また完封って。気合入れんとあかんじゃろ」
「二点に抑えたのよね」
「三点取ればええんじゃ」
 それで勝てるというのだ。
「それが何で一点も取れんのじゃ」
「まあそういうこともね」
「今年ずっとじゃ」
 完全に広島弁だった。
「あかんのお。こりゃいけんわ」
「言葉広島弁ね」
 尋ねるクラスメイトも引いている。
「機嫌悪いのね、つまりは」
「見ての通りじゃ」
 声の調子からしてそうだった。表情も髪の具合も死霊の様になっている。
「今年カープは優勝すると思っておったんじゃがのう」
「そうだったのね」
「最下位じゃ、今。しかもじゃ」
 自分からも言う千佳だった。
「苦手の交流戦はじまってもうたわ」
「けれど今年は違うんじゃ」
「あかんわ、こんな調子じゃ」 
 完全にネガティブになっていた。
「今年も負けまくって交流戦大きく負け越してまた落ちるんじゃ」
「やってみないとわからないんじゃ」
「あかんわ。これはあかんのう」
 ぶつぶつとだ、本当に死霊の如きだった。
「神様にお願いするか。カープの勝利祈願にのう」
「昨日お寺に行ったのよね」
「仏様にお願いしたんじゃ、けれどあかんかったわ」 
 それで今日はというのだ。
「学校終わったら神社じゃ、厳島明神様だけで足りんかったら八百万の神様全部にお願いするわ」
「深刻ね」
「何でこうなるんじゃ」
 目は生気がないままだ、しかしそれでいて赤く血走っている。
「カープ。優勝ちゃんか」
「まあね、それはね」
「カープが一位、阪神が二位」
 ここで阪神の名前も出た。
「それでクライマックスで勝ってじゃ」
「カープ優勝ね」
「そうなる筈やったんじゃ」 
 こう苦々しげに言うのだった。
「それが何じゃ、今は」
「去年は打線絶好調でね」
「しかも黒田さんが戻って来てくれたわ」
 このことにもだ、千佳は言及した。
「まさに隙なし、遂に二十四年振り優勝の時じゃった」
「優勝候補って言う人多かったしね」
「そうやった、わしも思うとったわ」
「わし?」
 その一人称にだ、クラスメイトは千佳の現状がわかった。千佳は不機嫌というかカープの負けが込むと広島弁になるが。
 その一人称がだ、広島調に『わし』となるとなのだ。
「あんた今マックスで不機嫌よね」
「当たり前じゃ、何で最下位なんじゃ」
「あんたもオフの時ずっと優勝って言ってたしね」
「それが何じゃ、最下位って」
「その打線が打たないから」
「二軍にばっかりおるわ」 
 打線の主力がというのだ。
「怪我とかしてな」
「難儀な話よね」
「打てんわ」
 千佳は溜息と共に言った。
「それで負ける、何で今年はこうなんじゃ」
「まあね、勝負は時の運っていうし」
「ベイスターズ強いのう」
 千佳はまた溜息を出してだ、このチームにも言及した。
「清さん若手育てるしな」
「責任はあの人が全部持つしね」
「溌溂とした野球しとるわ」
「そうよね、だから強いのよね」
「ほんまのう、カープは暗黒でじゃ」
「暗黒って」
「暗黒も暗黒、どんよりしとるわ」
 まさにというのだ。 
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