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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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GGO
~銃声と硝煙の輪舞~
  案内人とのひと時

「いや~、まいったまいった。まさかホントにあれが正式なクリア方法だったなんて」

軽い声とともにリラが笑う。彼女は後ろ手で、しかも前にいるくせにこちらに身体を向けているからいつ転ぶかハラハラするものがあったが、なかなかどうして転ばないような安心感を放っている。

あの後、港に小型艇を乗りつけたレン達一行を待っていたのは、高級そうな黒ケープに身を包んだNPCの集団だった。

色々とガサツなリラに反比例するようにしっかり者なミナによると、件の人質にされていたNPCの大本。つまり、彼らが人質だったら《脅される側》だった者達ということだ。いや、わざわざそういう者達がこんな港に降りてくる訳もないから、この黒ケープ達すらも下っ端も下っ端なのかもしれないが。

小型艇から大荷物ともども降り立ったレン達に彼らが言うことには、あの鉄製卵……もとい対消滅爆弾はもともとSBCグロッケン中枢が地上にあふれかえるクリーチャーへの切り札として持っていたモノで、ただちに返還してほしい。もちろん恩赦は弾むのでうんぬんかんぬん。

その後もかなり長時間にわたり、かなり婉曲的かつ丁寧に口上を並べられたが、要は『それはテメェらが持ってるようなモノじゃねえんだからさっさと返せクソヤロー』とのことである。

はっきり言って、胡散臭いにも程がある内容だった。

そもそも大前提である対クリーチャー用の兵器というところからして怪しいものだ。得てして強力すぎる兵器は単純な脅威ではなく、脅迫として使える点がある。この度のクエスト内でレン達が勘違いしたように。

兵器の対象は何もモンスター限定でなくともいい。対プレイヤー、いや人民という可能性も決して少なくはないということだ。

思わず舌打ちをしそうになるほど感情を削ぎ取った彼らに渋々卵を引き渡すと、やっと豪華客船一隻を巡る大イベントはあっけなく終わった。オンラインでのイベントものにありがちな、初期突破者限定の豪華報酬がどっぷり入るのを尻目に、黒ケープ集団は音もなく去っていった。

同時に、ブン盗ってきた多数の銃器類の所有権が全て持って来たレン達一行に移り、アイテムストレージに可能な限り詰め込んだ。多少溢れたものは文字通り手持ちになってしまったが、筋力(STR)値が高めにとっているリラと、全てのパラメーターを完璧に等分しているユウキのおかげで大多数は納められた。しかしその反面、荷重量が相当ギリギリ(レッドゾーン)になってしまい、移動速度がかなり減じている。

必然的に、パーティーの行群はかなりのんびりゆったりペースとなっている。

「まぁ、あそこで終われて良かったよ。まだ(あそこ)で戦うとかになればキツかったしねー」

「……どこがよ。どーせ余裕しゃくしゃくで切り抜けるクセに」

「なんか言ったー?」

別に、と返すリラを流し目で眺めながらレンは隣を歩く、自分と同じく敏捷(AGI)値優先能力構成(ビルド)のくせにかなりの量をストレージに入れてふぅふぅ言っているミナを見た。

「とりあえず、これからどうするの?」

「はぁ……ふぅ、ゲットしたアイテムとかを売り払うのが先決かな。必要なものとかとっておきたいものとかは引き抜いちゃってるから」

頷くレンとユウキの装いは、初期アバターに与えられるミリタリー・ファティーグでも、クエスト中に強引に変えさせられていたドレスコードでもない。

レンは全体的に黒っぽいファティーグとカーゴパンツで全身を覆い、足には多少大きめのタクティカルブーツが履かれている。

特筆すべきところは、首元にゴツい軍事ゴーグルを引っかけ、背に筒状の小さなバックパックを背負っているところだろうか。そこには現在、クエスト内でリーダーからブン獲った散弾銃(ショットガン)がすっぽり収まり、銃床(ストック)だけがまるで鞘から突き出る柄のように屹立している。

一方ユウキは、デジタル迷彩パターンがペイントされた迷彩服(BDU)に身を包み、さらにその上から分厚いサバイバルベストを着用している。腰にはベルトで吊るした二丁の銃――――MP7とクリス・ヴェクターを下げていた。

小型艇の船倉に詰め込んだ多数のレアな装備品の数々の中から、運転していたミナと違って手持無沙汰なリラに見繕ってもらったものだ。さすがに得物くらいは自分で選んだが、しかしユウキはその二丁を早々に売り払うつもりらしい。どうしても肌に合わないのだとか。

「じゃあえーと、オークション?だっけ?そこで売るの?」

オークションというのは、その名の通りプレイヤー間での競売所のようなものだ。もともと法律の網の目を潜り抜けているようなGGOのことだ。それこそサーバー内に数丁しかないような激レア品は、現金交換(リアルマネートレーディング)によって数十万とかの破格の値で取引されたことがあるらしい。

かなり自信のある答えだったのだが、しかし喘息を吐き出すミナは首を振った。

「お、オークションは時間かかりすぎるかもしれないから、多少金額は少なくなるけどNPC買い取りに任せることになったの」

「ま、何事も堅実が一番ってことねー」

「リラちゃんがそれを言うのッ!?」

喧々諤々の口喧嘩を繰り出す二人の少女は、しかし次の瞬間には何かに気が付いたように目を細めた。

気になってユウキともどもレンはその目線を追うと、その先には確かに目を引く容姿を持つアバターが歩いていた。

額の両側で結わえた細い房がアクセントになっている無造作なショートヘアを形作っているのは、さらさらと細く艶やかペールブルーの髪だ。

くっきりとした眉の下に、ある種の哺乳類を喚起させられる雰囲気を漂わせる藍色の大きな瞳が輝き、小ぶりな鼻と色の薄い唇がそれに続く。しかしそれらはサンドカラーのマフラーに少し隠れてしまっている。

猫、というよりは野山に放たれた山猫のようだ。

街道を交わし歩くのが、軒並み筋骨隆々の戦士(グラディエーター)みたいなアバターばかりなので、GGOのサイバーパンクな雰囲気のなか一人だけどこか神秘的な香りを漂わせる少女は人込みからかなり浮いている。

と、自分達のことは惑星重力圏外までほっぽり出すレンとユウキに、突如もろもろの荷物が押し付けられた。

驚く二人が振り返る頃には、リラとミナはすでに駆け出していた。

「え?な、なにっ!?」

「ぅおーい……って聞いてないかあの様子じゃ」

あっちが山猫なら、こっちはウサギのように、瞬く間に人と人の間に飛び込んでいく後姿を見送りながら、レンとユウキは小さくため息をついた。

「ユウキねーちゃんが行ってきて、僕はここで荷物番してるから」

「う、うん。わかった」

ごめんね、と謝りながら行きかうマッチョマンの群れの中に消えていく従姉の姿をゆっくり見送った後、レンは大荷物を苦労して引きずりながら街路の壁面に引きずって行った。敏捷値に極振りしているレンに、弾薬やら銃器やら防弾アーマーやらを山ほど詰め込んでいる荷物を軽々と扱えるほどの筋力値は皆無である。

苦心しながら運び、額にうっすらと浮かんだ汗を拭っていると、街道の側面を囲む家と家の間、等間隔で立つナトリウム灯の光も届かず得体のしれない闇がわだかまっている隘路。その奥底から突然、抑揚のない声が届けられた。

「遅かったな《冥王》」

「………………」

声がかかるまで、気が付かなかった。

比喩抜きで、レンはその路地に誰もいないと一瞬前まで確信していたのだ。確かに、クエストが終了した直後で油断をしていなかったと断言はできない。しかし、この近距離で存在の有無が確かめられない人材に着席を赦すほど《六王》は甘くはないのだ。

思わず息を詰める少年に対し、路地裏からの声はその沈黙を肯定ととったのか、さして気にした様子もなく言葉を続けた。

「余計なお荷物も増えているが、まぁいい。急げ、BoBの選手登録の締め切りはもうすぐだ」

声自体の声量が小さく、ところどころ掠れて聞こえにくいが、かろうじて渋い男の声だということが分かった。

さらにこの極端な影の薄さ。あの酒場で突然現れ、チケットを置いてすぐに消えたあの灰色のフーデッドコートの男に間違いはないだろう。

声だけの相手にムッとした表情を隠すこともなくレンは路地の奥に顔を向ける。

「……おじさんも急がなくていいのぉ?出るんでしょ、BoB」

「………………」

押し黙った声に、少年は胸中で喝采を上げる。

()()()だ。

「あの用心深いシゲさんのことだ。きっと二の矢三の矢を僕達みたいに寄越してるとは薄々予想してたけど」

見事当たったねー、と。

不敵な笑みすら浮かべる少年は、もはや完全に会話の主導権を握っていた。

もともとシゲクニは《六王》の中で参謀(ブレイン)のようなものだった。戦いの士気を挙げ、立てた作戦自体を遂行するだけの意思を攻略組全体に与えるヴォルティス卿と対を成し、あくまで冷静で冷淡で、時として冷酷に勝つためだけの戦略を導き出す謀略者。

眼前のことしか処理できないほど常に追い込まれているプレイヤー達の中でも、ことさら先を見据えていた者。

それが《老僧の千手》シゲクニ。

「お前ごときがあのお方の御心など――――」

「黙れよ狂信者」

耐え難いものを孕んだ声が返ってきたが、それにレンはそれ以上の言葉ではねのける。

「別に僕だってそんなに気にすることでもないと思うけどあえて言わせてもらうよ、おじさん」

調()()()()()()、と少年は続けた。

確かに、シゲクニとは過去何度か、殺人者(レッド)法治者(ろくおう)という形で相まみえたことがあった。殺し合いにすら発展しかけたこともある。

別にそのことに対して不満とか恨みとかを意地汚く掲げるつもりはない。逆の立場ならば、自分だって躊躇なくそうするだろうし。

だがそれはそれ、これはこれだ。

自分達は今、そちらの無茶苦茶な要求を呑んで"やっている"側だ。相手がする理由こそあれ、レンまでへり下る義務はない。

再び黙ってしまった声に、レンは声をかける。

「……まー何にせよ、シゲさんからのチケット(おくりもの)はきちんと有効活用させてもらいましたーとでも報告しといてよ。助かったのはホントだからさ」

あ、でもそっちからの依頼がなけりゃGGO(ここ)に来る必要もなかったってことだけは覚えといてね、と。

しっかり釘を刺してから少年はよりかかっていた壁から背を引き剥がす。

会話を切り上げようとするレンの行動に、しかし路地の声はまだ言葉を紡いだ。

「……冥王」

「まだなにか?」

「ネズミを追いかけるのはいい。それがお館様の望みなのだから。……だが、下手にモタついていると、空からタカが降ってくるぞ」

突然出た謎の言葉に眉根を寄せるレンに対し、声は苦笑した気配があった。

「いや……今のは失言だ。気にしなくて……いい。ただの経験則や勘のような曖昧なものだから」

「…………一応忠告として受け取っとこうかな」

その言葉を皮切りに。

会話は終わり、両者は別々の方向に身を投じる。

遠くに、なぜかお怒りモードなリラを引っ張ってくるユウキとミナの姿が見えた。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「ずいぶんゴチャゴチャしたクエストの締め方だな」
なべさん「これを本編中にさらに絡ませろと?」
レン「……うん、ごめん」
なべさん「わかればよろし。さてさて、よーやくクエストも終了したので、次回からお買い物を挟んでよーやくBoBに入っていきたいと思います」
レン「gdgdにならなきゃいいけど」
なべさん「それはお楽しみ」
レン「楽しみでたまるか」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださーい」
――To be continued―― 
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