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紋章

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4部分:第四章


第四章

「で、何時解けるんだ?」
「あっ、もう朝か」
「もうかじゃないよ。あの時翌朝解けるって言ってたよな」
「うん」
「解けてないじゃないか。どうしてくれるんだ」
「何か相変わらず煩いわね」
「こっちはおかげであんまり寝られなかったんだ、当然だろうが」
「そのわりに血色いいわね」
「ふん、俺達は何時でも何処でも寝られるのが強みでな」
「さっきと言ってることが矛盾してるわね」
 ビルギースはまだ眠そうな目のままそれを聞いて突っ込みを入れた。
「女は小さなことにこだわるな」
「それを言うなら男なんじゃないかしら」
「無口だが口の減らない娘だな」
「まあね。意外でしょ」
「うむ。で、何時解けるんだ?」
「うっさいわね。解ける解けるって氷じゃあるまいし」
 都では氷はよく売られている。砂漠の中にあるこの国の都では氷は非常に人気があるのである。
「すぐに解いてあげるわよ」
「そうか。早くしろよ」
「解けた途端に襲われそうだけれど」
「安心しろ、それはない」
 だが男はそう言ってグルド達を安心させた。
「言っただろ、俺達はこれでも人を殺めるのは好みじゃないと」
「ええ、確か」
「だからだ。今更御前さん達にどうこうするつもりはない。それに襲い掛かって来たらまた動けなくするつもりだろう」
「今度は動けなくするだけで済むかどうかはわからないけれどね」
 グルドは笑ってそう応えた。
「何なら。試してみるかしら」
「いや、いい」
 だが男は当然のようにそれを断った。
「今度は洒落になりそうもないからな」
「よくわかったわね」
「わかったから早くどうにかしてくれ」
「わかったわ。ビルギース」
「ええ」
 ビルギースはグルドの言葉に頷いた。
「それじゃあ魔法を解きましょう」
「いくわよ」
 二人は今度は向かい合った。そして両手の平をそれぞれ重ね合わせる。そしてその手の平から今度は淡い金色の光が溢れ出た。それはゆっくりと周りを覆った。まるで月の光の様に。
「おお・・・・・・」
 男達の身体がゆっくりと動きはじめた。それまで石像の様であったのが嘘の様であった。
「やっと。動けるようになったな」
「どうかしら、私達の魔法は」
「凄いものだ。何処で覚えたのか」
「それは風の噂に聞いてみて」
 グルドはくすりと笑ってこう言った。
「きっと面白い話が聞けるから」
「とんでもない話みたいだな」
「さて。愛と希望のメルヘンかも知れないわよ」
「少なくとも御前さんにはそんな話はないだろうな」
「わかってるのね」
「わかるさ、すぐに」
 男は髭だらけの顔をかなり崩していた。
「そっちのお嬢さんも多分ねえだろうな」
「そうかしら」
「まっ、そのうち物好きが現われるかも知れねえから楽しみに待っとくんだな」
「期待しないで待ってるわ」
「そうかい、で、これから都に行くのかい?」
「そうだけど」
「そうか」
 男はそれを聞いて髭をしごきながら考える顔をした。
「ギルドに行くのよ。それで仕事をもらうつもりよ」
「キャラバンの護衛でも何でも」
「なあ皆」
 男は仲間達に声をかけた。
「俺達も。ギルドに入ってみねえか?」
「えっ!?」
 グルドはその言葉を聞き思わず声をあげた。
「いやな、御前さん達と話してて思ったんだけどな、どうも俺もこいつ等も悪党には向かねえようだからな」
「顔だけなら合格なんだけどね」
「口が減らねえな。まあいい、とにかくそうなると何がいいか」
「ギルドで職を探すってこと?」
「俺達は戦士にレンジャー、盗賊だ。まあ何か雇ってもらえるだろうしな」
「じゃあ行ってみれば?」
「おう。皆、それでいいな」
「御前がそう言うのならな」
「どうもここは今一つ稼ぎが悪いしな」
 仲間達もそれに賛成した。
「そういうことだ。これで決まりだ」
「じゃあ途中まで一緒に行く?」
「悪くねえな。何なら都でも一緒に仕事するかい?」
「それは簡便願いたいわ。むさ苦しい男とずっと一緒にいたくはないから」
「麗しい王子様ならともかく」
「へっ、夢見てるみたいだな」
「夢は幾らでも見られるわ」
 ビルギースは表情を変えずに返す。その間にグルドは馬を引っ張って来た。
「じゃあ先に行ってるよ」
「おう、じゃあ追っかけるぜ」
「都でまたね」
「今度は飲みながら楽しくやろうぜ」
「いいね。けどあんたのおごりだよ」
「ちゃっかりしてやがるな、おい」
「あんた達が更生した祝いだよ。それだったらいいだろ?」
「じゃあそう考えるか」
 男達はそれで納得することにした。言われてみれば悪い気はしなかった。
「御前さん達とはこれからいい付き合いをしていきてえな」
「それはあんた達次第だね」
「期待してるわ」
「期待されてやるぜ」
 これが一時の別れの言葉であった。グルドとビルギースは馬に乗り先に都に向かう。男達は一旦廃墟の奥に戻ってそこから支度をはじめる。紋章がもたらした出会いと運命。後にその名を知られることになる双子の女冒険者のまだ駆け出しの時の話であった。

紋章   完


                 2006・4・26
 
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