| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

紋章

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

2部分:第二章


第二章

「!?」
「よお姉ちゃん達」
 如何にもといった感じの悪そうな男の声が頭の上から聞こえてきた。
「ここは誰の縄張りかわかってるかい?」
「狼でもいるの?」
 グルドはこう言いながら顔を上げた。するとそこには濃い髭を顔中に生やした大男が立っていた。皮の鎧にみすぼらしく汚い服を着てその手には巨大な棒を持っている。
「残念だが違うんだよ」
 男は下卑た笑いを浮かべながら言った。
「ここはな、俺達の縄張りなんだよ」
「そんなこと誰が決めたのかしら」
「俺達がさ」
 男はグルドの問いに答えた。
「自分達で決めたんだよ。それでな」
「お金ならないわよ」
 グルドはすぐにこう返した。
「生憎だけど」
「じゃあ馬でも置いていってもらうか」
「冗談でしょ。馬なしでどうやって旅を続けろっていうのよ」
「それじゃああんた等自身だ」
「生憎身体を売る商売はしてないの。おわかり?」
「じゃあその剣と服でも置いていってもらうか」
「剣は商売道具なのよ」
 やはり譲らない。そもそもグルドは交渉をする気すらないのだ。
「はいそうですかと渡すと思う?」
「そうかい、じゃあ交渉決裂だな」
「さっき俺達って言ったわよね」
「おうよ」
 男はそれに頷いた。
「俺達さ。それがどうした」
「あんただけじゃないってことは」
「こういうことさ」
 ここで男の後ろ、そして周りから一斉に得体の知れない男達が姿を現わした。見ればどの顔もお世辞にもいい顔とは言えなかった。如何にもといった感じの悪そうな顔ばかりであった。
「俺達はな、この廃墟を根城にしてる盗賊なんだ」 
 男はグルドとビルギースに対して言った。
「ここを通る旅人やキャラバンから金や食い物を貰ってな。生きているんだ」
「奪っているの間違いでしょう?」
「おいおい、人聞きの悪いことは言うな」
 男は下卑た笑みを浮かべながら言葉を返した。
「俺達は別に命まで奪おうってわけじゃねえよ」
「全然説得力がないわね」
「金や金目のものさえ渡してくれればそれでいいんだ。殺しちまったって何にもならねえしな」
「で、あたし達には剣をと」
「ついでに一晩といきてえんだがそれは駄目かい」
「お生憎様。あたしもビルギースも男は選ぶの」
「おやおや」
「さっさと帰って。一晩だけここを借りるだけだから」
「それで盗賊がはいそうですかと帰ると思うかい?」
「帰らないつもり?」
「こっちも生活がかかってるんでな」
「真面目に働いたら?」
 グルドはつっけんどんに返す。
「そうした方が気が楽よ」
「真面目に働くって?馬鹿言っちゃいけねえよ」
 男はその言葉を身体全体で笑い飛ばした。
「それじゃあ盗賊でも何でもねえじゃねえか」
「で、あたし達に通行料を納めろと」
「ごたくはもう飽きたからさっさと出しな」
「これで最後にしていいかしら」
「ああ」
「それじゃあ。嫌よ」
 グルドはきっぱりと言い切った。
「あたしもビルギースも。そんなの払うつもりはないから」
「やるつもりかい」
「ええ。ビルギース」
 そして今まで黙っていたビルギースに声をかけた。
「やる?」
「グルドがそう言うのなら」
 静かに頷いた。
「私はそれでいいわ」
「わかったわ。それじゃあ決まりね」
「どうしても払わないつもりかい」
「最初から言ってるじゃない」
「仕方ねえな。手荒なことはしたくねえんだが」
「随分優しいのね」
「これでもそれなりに人の道はわきまえてるつもりでな」
 盗賊をしていて何を、とも思うが確かにこの男は案外穏やかであった。
「まあ、こっちもこれが仕事なんでね」
「おじさんとは他のところで会いたかったわね」
「今更そんなことを言っても何にもならねえわな」
 盗賊達は二人を取り囲んだ。
「悪く思うなよ」
「ええ、こうなったらお互い様」
 グルドは剣を抜いた。ビルギースも印を結んだ。
「容赦しないわよ」
「グルド、けれどこの人達それ程悪い人達じゃないわよ」
「だけれど盗賊なんだって」
「そんなに悪い人達じゃないから。剣や魔法を使うのはよくないわ」
「それじゃああれをやるの?」
「ええ」
 ビルギースは頷いた。
「あれをやりましょう。今日は後はもう寝るだけだし」
「わかったわ。それじゃあ」
 グルドは一旦構えを解いた。そして一歩下がりビルギースの隣に来た。
「やるわよ」
「ええ」
 二人は呼吸を合わせる。そして周りを取り囲む盗賊達と対する。
「何をしようってんだ、一体」
「すぐにわかるわ」
 今度はビルギースが答えた。グルドのそれとは違って楽器の様に清らかな声であった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧