エターナルトラベラー
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第二十六話
そんな事が有りながらも時間の経過は早いもので、俺は今3歳ほどになった。
二年の月日でようやくお母さんも笑うようになってきた。
しかし、一族の壊滅で激減した御神流が失伝してしまわない様に俺に御神流の稽古をつける様になった。
3歳の誕生日のプレゼントが子供の大きさに合わせた小ぶりの練習刀を渡す親が何処にいるよ?
いや、ここに居るんだけどね。
まあ、これも親孝行と考えて一生懸命習っている訳だが、この剣術、なかなかに凄い。
『徹(とおし)』は表面に衝撃を伝えずに内面破壊する技だし『貫(ぬき)』などは攻撃がすり抜けてくるような感覚におちいる。
更に飛針(ひしん)や鋼糸(こうし)などで中距離にも隙が少ない。
俺はお母さんが見せる技を写輪眼でコピー、そのイメージを実際に何度もトレースして反復練習する事により徐々に自分のものにして行く。
俺の物覚えの良さにお母さんは驚愕しつつも、その成長を喜んでドンドン練習は過激になっていく。
お母様…念が使えるおかげで身体強化や『絶』により比較的疲れが溜まりにくいからどうにかこなせているのだけれど、実際幼少時にそんな訓練つんだら間違いなく体が壊れてしまいますよ?
ゼロ魔式魔法も問題なく使える。
ただし、前世を合わせると18年以上もスクウェアになれない事からこれ以上の成長は見込めない。
俺は母親の目を盗んでソルの起動実験を行う。
「ソル、お願い」
『スタンバイレディ、セットアップ』
展開される剣十字に三角形の魔法陣。
俺は嬉しさが押さえ切れない。
ソルが輝きを増し、その本体である刀身が現れる。
そしてバリアジャケット。
とは言ってもこれはお馴染みのシルバーソル一式。
右手の甲に待機状態のソルを瞬時に収納できる形状のアクセサリを形成。
これはいつでも瞬時にソルを収納する事により両手をフリーにするためである。
忍術を使うときは如何しても両手で印を組む必要があるための処置だ。
しかも左手の甲には予め一つの機能が植えつけられている。
魔力を込める事で現れる魔力で構成された飛針と鋼糸だ。
自身の魔力が尽きなければ残弾の心配はなく、鋼糸の細さも可変可能。
これはどうやら父さんは最初から御神の剣士が使う事を想定して造ったようだ。
だが…三歳児のこの体には少々不恰好だった。
ソル本体もこの体には大きすぎる。
これを自由に振れるようになるには後数年かかるだろう。
うーん。ソルの刀身を体のサイズに合わせられないかな?
まあそれは後で考えるか。
次は実際に魔法が使えるかだが…
デバイスを起動した事により初めてリンカーコアが刺激され、辺りの魔素を吸収していく。
確か呼吸して固めるイメージだったか?
そして展開する始めての飛行魔法。
『スレイプニール』
ソルが術式を展開する。
久しぶりの空中浮遊。
今までとの勝手の違いに少々手間取りながらも問題なく空を駆けていく。
その日俺は日が沈むまで空を飛び続けていた。
さて、俺の魔法資質についてだが、ソルによる計測と、インストールされていたデータとの比較により、俺の魔力量はおよそA+。
更に炎熱と雷の変換資質を有しているらしい。
転生前もこの二属性が俺のメインだった事を考えると旨い事この世界の魔法技術に対応した物だ。
この辺はテンプレ転生の特典と言う奴だろうと考えを放棄して納得した。
魔力量のA+はまあ凄く昔に読み漁ったテンプレ系転生二次にしては低い方だが、管理局基準ではそれでも高ランク魔導師ということになるだろう。
それにこの身は未だ3歳児、このまま成長すればAAやAAAクラスにも届くかもしれない。
要修行である。
特筆すべきはやはり電気への変換資質だ。
これは本格的にサンダースマッシャー(真)も可能かもしれない。
さて剣術に魔法にと修行に明け暮れている今日この頃、俺は我が家に地下への隠し階段があることを発見した。
好奇心に負けた俺はその階段を降りてみる事にした。
薄暗い階段を下りていくとそこにはこの世界ではオーバーテクノロジーといっても過言ではない機械類と、辺りを埋め尽くす魔道書やデバイスの建造技術書などで埋め尽くされていた。
「ここは?」
『私達が開発された所です』
ソルからそんな言葉が返ってきた。
身近なカプセルに手を触れながら俺は呟く。
「ここで…」
その後俺はお母さんにこの地下の部屋の事を訊ねて見た。
そして明らかになる父親の素性。
管理世界の人間だとは思っていたが、事実はもう少し複雑なようだ。
聞いた話によると父親はモグリのデバイスマスターでオーダーメイドで魔術師へデバイスの製作をしていたらしい。
しかし父親の取引先はもっぱら犯罪組織やら素性のわからないフリーの魔導師。
そういうと父親も犯罪者の様であるが、父親はそこの所に頓着していなかったらしい。
ただデバイスの注文を請け負っていただけで実際に犯罪には手を染めていなかったらしい。
しかし、実際には彼の作ったデバイスで大量の犯罪が行われ、肩身が狭くなったため管理局の眼を縫うようにしてこの世界まで渡ってきた。
そこで偶に来る依頼をこなしながら生活していた所、何処にどう縁があったのかお母さんと結婚。
母さんに婿入りする形で式を挙げ、俺の妊娠が発覚し、お腹の子にリンカーコアの存在が確認されると今か今かと楽しみにしつつ母親の意見を取り入れ日本刀型のアームドデバイスの製作。
俺の誕生を心待ちにしていたらしい。
しかし俺の生まれる二ヶ月前に交通事故で呆気なくこの世を去ってしまったという。
その後お母さんはこの部屋には近づかないようにしていたらしい。
この部屋にある本を読んでもいいかと聞いてみると。
「読めるなら好きにしていいわよ。あの人もそのほうが喜ぶと思うしね」
と言ってあっさり許可を出してくれた。
「ただお母さんはここに有る本に書いてある文字をさっぱり読めないのだけど」
確かにここに書いてある魔導書の数々は総てミッド語だ。
教えてくれる人が居なければ自力での習得なんて不可能だろう。
しかし俺にはソル達がいる。言語はインストールされているから後は時間を掛ければ読めるようになるだろう。
先ずは影分身を駆使してミッド語の勉強からかな。
ミッド語を習得すると、俺は影分身を何体か地下室に置き魔導書やデバイス作成の技術書を読み漁りつつ本体はお母さんと御神流の修行という裏技を使って技術や知識の習得に励んでいる。
しかし以前も思ったが、影分身はチートだと思う。
習得スピードが半端無く跳ね上がり、膨大に見えた地下室の書物もこのペースなら1年もすれば読み終わるのではないか?
魔法の方も魔導書を読み解きながら初級編の魔法をソルに手伝ってもらいながら練習している。
これが中々楽しい。
そうそう、ルナはと言うと、俺の首元からソルと一緒にぶら下がっては居るが、一度も起動はしていない。
本来は父親が御神流を扱う為に二刀ワンセットで造ったデバイスで、ルナもその姿は一振りの日本刀を模しているのだが、自分はソラのデバイスだと言って譲らない。
まあ、俺もそれでいいと思う。
未だに俺はソラを発見出来ては居ないが、恐らくこの世界に居るであろうソラもリンカーコアを持って生まれてくるであろうし、そういった場合の相棒もまたルナしか居ないのだから。
しかしソラは何処に生れ落ちているのだろうか。
…まさか転生ミスとかは無いと思いたい。
俺も暇を見ては地道に捜索をしているのだが一向に見つからない。
具体的な捜索方法としてはソルの補助を得て数キロに及んだ『円』をそこかしこで展開、念を習得しているであろうソラならば俺の円に対して何らかのアクションを取るはずだと暇を見ては捜索を続けているが、いかんせん何処に生れ落ちたか解らない上に世界は広すぎる為いまだに見つけられていないのだ。
さて、そんなこんなで俺は今、母さんに連れられてどこかの山の中で御神流の修行中。
此処が何処か?
それは俺にもわからない。
なんせ夜寝ていた時に連れ出されたらしく、気が付いたら既に電車の中だった。
それから母さんに連れられて移動する事4時間。
段々とうっそうと茂っていく緑が恨めしい。
なにやら御神流恒例の山篭りでの修行らしい。
…まあ、それ自体は良いんだけど、普通3歳を過ぎたばかりの子供をこんな山奥に連れて行くかな。
そんな事もよりも気になるのが、山に入る前に立ち寄った村で聞いた噂話。
何でもこの山には昔神社仏閣を次々と襲った化け狐を封じた祠があるのだそうな。
え?なにそれ?
もしかしてとらハ3に出てきた久遠の事ではあるまいな?
そして村人からの情報なんて古典的なフラグなのか?
まあ、俺達親子が来たから封印が解かれるなんて事にはならないだろう。
そんなことはさて置きながら俺と母さんは人の入らない山奥に踏み入って一日中修行をして夜は川の近くにテントを張り野宿と言った感じの日々を数日送っている。
いやしかし、実際体験して見て思うのだけど、この修行は三歳児には早いのではなかろうか?
朝から昼間では型の稽古。
昼からは2人で日が落ちるまで実戦形式の試合。
夜は夜で暗闇の中で飛針や鋼糸を避ける訓練と、忍者時代が無ければぶっちゃけ根を上げて逃げ出していたと思う。
そんな修行の日々が数日過ぎたある日。
俺は迫り来る母さんの攻撃を時には避け、時には受け流しなどしながら訓練に耐えていたのだが、余りにも当たらない俺に業を煮やしたのか、母さんは御神流の奥義の一つである『神速』を使って俺を攻撃してきやがった。
母さんの体が一瞬で消えたかのような速度で移動したのを感じ取った俺は無意識に写輪眼を発動、その一撃をギリギリで回避して見せた。
「神速による攻撃をたった三歳児にかわされるなんて母さんちょっと凹むわ」
いえいえ、オーラやチャクラによる身体強化も無しにその速度へ到達できるあなたや御神、不破一族の方がおかしいですから!?
あ…俺も一応その血を継いでいるのか…
「それにしてもあーちゃんは天才ねぇ。このまま行けば当代最強と言われた静馬さんを越すのも時間の問題かも知れないわね」
母さんに褒められたが俺は自分が避けた後ろにあった祠が真っ二つになっているのを見つけて冷や汗を垂らしていた。
全く手加減なしで全力で当てに来ましたね?
しかも竹刀のはずなのに何故か後ろにあった祠が真っ二つに割れているのですが…
これを食らったりしたら…ぶるぶるっ。
って!問題はそこじゃない!
訓練に夢中になりすぎて、いつの間にか森の奥のほうに来ていたようだ。
そして俺が避けたために母さんに真っ二つにされている祠が一つ。
…
…
…
なにやら黒い靄が割れた祠から噴出しているのですが…
「かっ母さん!」
「なあに?あーちゃん」
「あっ…あっ…あれ!」
そう言って俺が指を指した方向を向く母さん。
「こ、これは?」
母さんも眼にした黒い靄には驚いているようだ。
その靄は見る見る集まり数秒後に一気に霧散したかと思うと、中から一匹の狐が現れた。
その狐は見るからに異様で、大型犬ほどのあろうかと言う体躯、さらにあろう事か尻の付け根から生えている尻尾は5本という、普通の狐とはかけ離れた体をしていた。
眼光は鋭く俺達を睨みつけている。
その眼は狂気に狂わされているような眼だ。
「くおぉぉぉぉぉおぉおおおおん」
狐は天に向って遠吠えをかますと、俺達目掛けて突っ込んできた。
飛び掛りつつ振り上げられる鋭い爪。
すかさず母さんが俺の前に割り込み振り下ろされた爪を二つの竹刀で受け止める。
しかし振り下ろされた爪先から放たれる雷。
バチバチッ
「きゃあっ」
結局体格の差と雷による攻撃により受け止めきる事は出来ずに弾き飛ばされてしまった。
「母さん!」
俺はすぐさま母さんに駆け寄り覚えたてのヒーリング魔法を使う。
「うっ…」
派手に吹き飛ばされたが見掛けほど傷は深くなく、軽い打撲程度だ。
直ぐに意識を持ち直した母さんが俺に上半身を抱きかかえられている事に気づき、更に俺が行使している魔法に気づいた。
「あーちゃん、それ」
「あー、説明は後。それより今はアイツを何とかしないと」
そう言って視線を狐に向けるとまたもや此方に向って突進してくる狐。
『サークルプロテクション』
ソルが術式を展開して瞬時に俺達を包み込むように半球状のバリアが展開される。
ドゴンッ
展開されたバリアにぶち当たり弾き返される狐。
しかし再度バリアに体当たりを開始。
俺はその隙にソルを起動し騎士甲冑を纏う。
「やめろ!俺達はお前と争うつもりはない!」
しかし俺の言葉を理解していない様で体当たりを止めるつもりは無いらしい。
くそ!どうしてこうなった?
恐らくアイツはとらハ3に出てきた久遠で間違いないだろう。
原作の久遠は人間を恨む余り『祟り』に取り付かれていたんだったか。
原作ではおよそ10年前に封印が解かれたとしか説明が無かったがまさかそれを母さんが祠を壊した所為で破られるとか…
どうする?
完全に此方を敵として認識していて俺一人だけならともかく、負傷した母さんを伴っては逃げ切る事は少し難しい。
ならばどうする?
スサノオで酔夢の世界に引きずり込んで封印してしまうか?
ヤタノカガミを持っているから守りは完璧だし恐らく封印する事は可能だろうが、出来ればそれは最終手段にしたい。
出来れば久遠を殺したくはないし。
そういえば写輪眼ならば妖狐である久遠を操る事も可能なのではないか?
生死の場面でぶっつけ本番で効果があるかも解らない事は出来ないので却下。
ならば後は一つ。
魔力ダメージでぶっ飛ばす!
非殺傷設定も付いているから気絶はしても命の別状はない…はず。
俺が思考している間に久遠は一度距離を取り体内の魔力をかき集めているような仕草を見せる。
「ぐるぅぅぅぅぅ。くおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおん」
力強く鳴きながら天を仰ぐとそこから極大の落雷が俺達に襲い掛かる。
「うそぉぉぉ!」
「あーちゃん」
母さんが俺を守るように覆いかぶさる。
母親として子供を守るのは嬉しいのですが、今は邪魔です。
俺は母親に押し倒されてしまっている。
マズイ想定外の攻撃にプロテクションにひびが入る。
『ロードカートリッジ』
ガシュガシュ
二発の薬きょうが排出されてプロテクションの強度が跳ね上がる。
鳴り響く豪雷。
永遠とも思える光の瞬きが収まると、丁度プロテクションが切れる位置からの地面が焼け焦げ抉れていた。
何とかプロテクションは抜かれる事は無く耐え切ったようだ。
久遠を見やると今の一撃は自身の身にも堪えたのか、少しよろめいている。
今しかない!
俺はそれを見て取ってすぐさま母親の下から抜け出した。
そしてソルを構える。
『リングバインド』
現れる銀色の輪で久遠を拘束する。
「がうっ」
何とかそのバインドから抜け出そうともがく久遠。
「少し痛いかもしれないが我慢してくれ」
『ロードカートリッジ』
排出される薬きょうは二発。
俺は左手を突き出す。
左手に集まる魔力を炎熱と雷に変換して久遠目掛けて射出する。
「ディバインバスター」
俺が魔法を勉強し始めてから作り出した中~長距離用の砲撃魔法。
名前はなのはのを丸パクリだけどね。
俺が放ったそれはバインドから抜け出せない久遠を直撃する。
瞬間なにやら断末魔の様な叫び声と共に久遠からなにやら黒い靄のような物が抜け出ていき炎に包まれ焼き尽くされた。
砲撃をやめバインドを解くとそこには一匹の子狐が横たわっていた。
どうやら上手く行ったらしい。
それにしてもキツイ。
初めてカートリッジを連続ロードした負荷が未成熟な俺の体を痛めつける。
「殺したの?」
倒れている久遠を見つけた母さんが俺に尋ねる。
「多分死んでないと思う」
一応非殺傷設定だったし。
「そう。でもまた人を襲う可能性は有るのでしょう?」
なんか黒い靄を焼き尽くしたような気がするから祟り自体は祓われたような気がするが。
「わかんない」
そう言って俺はソルを構えたまま久遠に近づく。
「どうするの?」
「え?どうするって?」
おれは母さんの声に振り返る。
「その子を殺すのかってこと」
久遠を殺す?
「何で?」
俺は母さんに聞き返した。
「その子が人間を襲う可能性が有る以上この場で止めを刺さないと。あーちゃんが出来ないって言うなら私が。祠を壊したのは母さんだしね」
「そんな!」
なんか色々既に手遅れな気もするが、久遠が神咲那美の両親を殺さなければ『神咲』那美は誕生しないわけだが…
「まあ、そんな事は考えなくても良いかもしれないわね。その子、段々息が細くなって来ているから」
「え?」
それは死の宣告。このままだと久遠は死ぬと言う事だ。
それを聞いた俺は危険をかえりみずに久遠を抱き上げた。
子狐とは言え三歳児には大きく感じられたが、抱き上げた久遠の顔に耳を近づけその呼吸音を聞き、胸に耳を当て心音を聞く。
すると母さんが言うように段々弱くなっていっているようだ。
「どっ、どうしよう!」
俺はパニックを起こして思考が上手くまとまらない。
「落ち着きなさい!」
「え?あぅ」
母さんの一喝に俺は多少冷静さを取り戻し母さんを見る。
「落ち着いた?」
「うん」
「そう。それで?あーちゃんはその子を助けたいの?」
俺は少し考えてから答える。
「うん」
「でも、回復したらまた人を襲うかも知れないのよね?」
「う…」
7割大丈夫だと思うけれど意識を取り戻していない状態では確証は持てない。
助けるだけなら神酒を使えば可能だが、それは母さんが許してくれそうも無い。
「それともその子に人を襲わせないように首輪をつける事が出来るの?」
母さんの言葉に俺は一つ久遠を助ける手段を思いつく。
「…使い魔の契約ならば」
これなら主人を敬愛するように刷り込んでしまう事も可能だ。
そうしてしまえばよほどの事が無い限り主人の言いつけは守るし使い魔への強制も可能だろう。
同時にこれならば弱っていく久遠に自分の魔力を分け与える事で延命させる事もできる。
「そう。じゃあそれで良いんじゃない?」
母さんはあっけらかんとそんな事を言い放った。
「え?でも」
「大丈夫、きっと大丈夫だよ」
そう言って俺の背中を押す言葉を掛ける母さん。
俺はその言葉を聞き、魔法陣を展開する。
魔法陣が俺の足元で展開され淡い光を放つ。
『契約術式展開、契約内容はどうしますか?』
ソルが俺に問いかけてくる。
「えっと?」
考えてなかった…どうしよう。
えーと、えーと?
そういえばフェイトとアルフの契約って何だったっけ?
うーんと、確か…
「生涯を共に過ごすこと?」
うわっ、どこのプロポーズだ!何て考えていると。
『認識しました。契約完了します』
ソルから契約完了の宣言が行われた。
「え?」
俺は呆然としていると急に俺の胸の中心から銀色に光り輝く小さな球体…リンカーコアの欠片が飛び出し、久遠に吸い込まれていく。
久遠の中にリンカーコアの欠片が納まると途端に俺の体から久遠に引っ張られる形で魔力が移譲されていく。
うっ…ちょっとしんどいです。
どんどん引っ張られていく魔力に多少めまいを起こしかけるが何とかこらえて久遠の現状を確認する。
呼吸は安定してきて、心音は力強くなってくる。
どうやら無事に契約は成功したようだ。
「あーちゃん、終わったの?」
「うん」
俺はそう答えたえるのが精一杯だった。
足がもつれ自分の体重が支えきれなくなると、俺は自然と倒れこみそうになった。
それを自分も怪我をしているのに母さんは優しく抱きしめてくれた。
俺はそれに安心すると一気に体の力が抜けてしまった。
「お疲れ様」
母さんはそれだけを言って、俺を力強く抱きしめた後俺達はベースキャンプへと久遠を抱えながら下山した。
しばらくして俺の魔力が多少なりとも回復してきた頃、ようやく久遠が俺の腕の中で眼を覚ました。
「くぅん?」
「起きた?」
くりくりした眼で俺のことを見つめる久遠に対して俺は声を掛ける。
「体の方は大丈夫?」
俺のその質問に久遠は自分の体を一通り確認してから「くぅん」と鳴いた。
「はは、そっか良かった。言語の刷り込みと同時に発声魔法の習得も完了していると思うから喋れると思うのだけど。君の名前を聞いても良いかな?俺は御神蒼って言うんだ」
俺はほぼ間違いなく久遠だと確信しながらも一応名前の確認をする。
「…く…おん」
俺のその質問に弱弱しく口を開き答える久遠。
「そっか、久遠だね。それで今自分の立場がどういう物になっているか解る?」
これも契約の時に刷り込んであるはずなのでただの確認だ。
「あ…お…の、つかい…ま」
「うん、ゴメンね。勝手に俺の使い魔になんかしてしまって、本当は久遠に了承を得るべきだったのかも知れないけれどもあの時、久遠死にそうになってて余り時間無かったから」
「い…い。くお…ん…が、あお…達を…襲った事は、ちゃん…と…覚えて…る。あの時…『祟り』…が、久遠から…出て行く時…に、久遠か…ら、いっぱい、いのち…の力を、もってっちゃってたから…久遠、死にそうに…なって…た」
恐らく俺がでぶっ飛ばした時に強制的に剥離された祟りが最大限生き残ろうと久遠から生命エネルギーを搾り取ったのだろう。
「そう。久遠は未だ人間を恨んでいる?」
この質問は俺が久遠の過去を知識として知っているからの質問。
昔、大好きだった人間を殺されたからその復讐に大量の人間を殺してしまった祟り狐であった久遠。
その恨みはどれほどの物か。
しかし今この現代に置いてそんな事は許されないし人間への復習をさせるわけにも行かない。
「……」
押し黙ってしまった久遠。
「そうだね。すぐには無理だよね。でも少しずつで良いから人間の事も好きに成って欲しい」
俺は説得なんて苦手だから、ダメならば久遠に『命令』しなければ成らないのだけれど。
「……わか…った」
しばらく言葉を発さなかった久遠が弱弱しく了承の言葉を発した。
俺はそれを受け取ってから久遠を抱き上げて立ち上がり、母さんの方へと向う。
「久遠、これから母さんの所に行くから」
ビクッっと一瞬震える久遠。怪我をさせてしまったことを後悔しているのだろう。
「大丈夫。ちゃんと謝れば許してくれるから」
「ほん…とう?」
「本当」
その後俺と久遠は母さんのところに行き久遠がこれから人を襲うことは無いように説得したと説明し、久遠は傷つけた事をあやまった。
狐が喋り出した事も母さんは特に気にした様子も無く謝罪を受け入れ、今日はもう日が暮れない内にベースキャンプをたたみ、ふもとの村で一泊して海鳴に帰る事になった。
勿論使い魔となった久遠も一緒に。
あー、那美さんの養子フラグを叩き折ってしまった俺…
だ?大丈夫だよね?
もはやどうしようも無いけれど…
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