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影絵

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1部分:第一章


第一章

                      影絵
 彼岸だった。目黒美果は寂しい顔で家にいた。
 畳の上にそのまま座りながら。そのうえで顔をあげて側にいた母の友香に尋ねるのだった。
「ねえお母さん」
「どうしたの?」
「今日が確かお盆だったのよね」
 こう母親に尋ねるのだった。確かに今はそのお盆だった。そのことを友香自身から聞いたのでそれを覚えていたのである。
「確かお盆って」
「そうよ。死んだ人が帰って来る日なのよ」
 こう美果に話す友香だった。
「それはお母さん教えたわよね」
「じゃあお婆ちゃん帰って来るの?」
 そう母親から聞いてさらに尋ねる美果だった。
「今日ここに帰って来るの?本当に」
「ええ、そうよ」
 問われるままに答える友香であった。
「その通りよ」
「じゃあお婆ちゃんに会えるの?」
 今度はこう尋ねるのだった。
「今日本当に」
「そうよ。もうお婆ちゃんが亡くなって一年近いわよね」
「お婆ちゃん。あの時言ったし」
 また言う美果だった。
「絶対に帰って来るって」
「そうでしょう?だから今晩楽しみに待っていましょう」
 娘に優しいこえで告げたのであった。
「今晩ね。いいわね」
「うん。今晩ね」
 美果はそれを聞いて顔を明るくさせたのだった。そのうえでさらに言う。
「今晩。楽しみに待ってるわ」
「それじゃあ今はね」
 友香は言いながら美果の手を取って。そっと囁いてきた。
「行きましょう」
「お昼なの?」
「ええ、お昼御飯食べましょう」
 こう娘に対して言うのであった。
「お昼御飯ね」
「今日のお昼は何なの?」
「ざる蕎麦よ」
 それだというのである。優しい笑みを浮かべて娘に言うのだった。自分と同じ大きく黒い目と丸い顔をしている彼女に対してである。
「二人で食べましょう」
「ざる蕎麦なの」
「美果ちゃんざる蕎麦好きよね」
「うん」 
 母の言葉に明るく笑って答えた。
「おそば大好き」
「だからおそばにしたの」
 だからだというのである。実のところ娘のそうした好みも知っていてそれで今日の昼は蕎麦にしたのである。娘のことを考えてなのだ。
「じゃあ二人でね」
「うん、食べよう」
 美果もここで立ち上がった。そうしてそのうえで今いる畳の部屋を出てちゃぶ台のある部屋に向かう。そこで母娘向かい合ってそのうえでそのざる蕎麦を食べるのだった。
 ざる蕎麦を食べその昼は夏休みの宿題をして過ごした。夕食の鯖と冷奴を食べ終えると父の暢彦が帰って来た。友香は夫が帰って来るとそっと耳打ちした。
「あなた、今日よ」
「ああ、そうだったな」
 眼鏡をかけて太目の身体をした彼は妻の言葉にすぐに頷いたのだった。
「今日だったよな」
「お盆だからね」
 夫に対してこうも話す友香だった。
「だから晩御飯を食べたらね」
「用意するか」
「もう準備はできてるから」
 こうも夫に話すのだった。
「美果の為にね」
「わかってるさ。けれど」
 暢彦は妻に応えながらそのうえで。少し懐かしむような顔になって述べたのだった。
「もうすぐ一年か。お袋が亡くなったのは」
「早いわよね、本当に」
「お袋、美果のこと可愛がっていたからな」
 こう言うのだった。
 
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