魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epico20笑顔~Reinforce Eins~
†††Sideリイン†††
「やっほぉ~~~い、ですぅーーー!」
「お、思ったより速いのだな・・・!」
リインとアインスは、前にリインを、後ろからリインを抱っこするような体勢のアインスと一緒にくねくねのウォータースライダーを一気に流れ落ちるです。すずかさんのお家の別荘に小旅行をしてから約2週間の今日、以前からのお約束でしたレジャープール施設・ワクドキ☆ざぶ~んにやって来ましたですぅ。メンバーはいつも通りのチーム海鳴ですね。
「楽しかったですねぇ、アインス」
スライダーの出口に到着してすぐに「ああ。とりあえず離れよう。あの子がすぐにやって来る」アインスに手を引っ張ってられて出口から離れるです。その直後、後続の「ヒーハー!」フェンリルと、「苦しいって言っているだろうが!」さっきのリインみたいに後ろから抱っこされたルシル君が派手に飛び出してきたです。
「ルシル君、大丈夫です?」
「あ、ああ、リインか、大丈夫だよ。ありがとう、心配してくれて」
「マスター! もう1回、もう1回♪」
フェンリルがルシル君の手を取ってもう1度スライダーへ向かおうとしたですけど、「ひとりで行って来い。俺はのんびりと流れるプールで漂う」ルシル君はそう言って、はやてちゃんとシャマルが居るプールに向かって歩き出し始めたです。この2週間の間、はやてちゃん達と別れて別の部署に泊まり込みで働いてましたから、やっぱりお疲れの様子です。
「むぅ。つまんない。・・・リイン、アインス。一緒にどう?あといくつか種類あるし、この際だから制覇してみない?」
フェンリルからのお誘いです。ここのウォータースライダーの種類は9つもありますから、制覇するのも悪くないですね。ですからリインは「一緒に行きます!」お誘いを受けました。そしてアインスも「リインが行くのであれば、私も行こう」微笑んで受けました。
「じゃあ早速行こう♪ アインスとリインは本当に優しいな~❤」
かなりの速度を出してるルンルンスキップのフェンリル。アインスが「待ってくれ。はぐれるから手を繋ごう」と提案。フェンリルは「オーケー。じゃあ――・・・」リインの左手と手を繋いで、アインスにリインの右手と手を繋ぐように言いました。リインを真ん中にして、プールサイドを往くです。
とそこに「ねぇねぇ、俺たちと一緒に遊ばない?」背後から声を掛けられたです。ここに遊びに来て早3時間。アインスヤフェンリルと一緒に居ると男の人たちに声を掛けられてばかりなのです。ナンパ、というやつですね。学習したですよ。
「あ、あそこが空いてる! ほら、アインス、リイン、行こうよ!」
「あ、ああ・・・」
「ふえっ?」
これまでは正対して断ってたフェンリルでしたけど、今回は振り向くこともしないで先へ行こうとします。完全無視ですね。けど、「シカトなんてしないでさ~」男の人がリイン達の前に回り込んで来たです。
「申し訳ないが他を当たってくれないか。家族水入らずで楽しんでいるのだ」
「そう言わずにさ。その小さい子は他の人に預けて~」
「君と彼女が俺たちと遊んでよ」
「お誘いありがと。でもお受けしませ~ん。そういうわけでじゃ~ね~」
「いいじゃん、いいじゃん。そんなこと寂しいこと言わないでさ」
「俺たちと夏の思い出を作ろうよ」
男の人2人がアインスとフェンリルの空いてる手を取ろうと手を伸ばしてきたですよ。ここでフェンリルの放つ空気がガラリと変わった気がしたです。
「くどいぞ、人間。我らは家族で遊びたいと言っているのだ。己が欲でその大切な時間を潰そうと言うのか? 極戯けめが。今すぐ我が目の前より去ね。でなければ二度とナンパという斯様な真似が出来ぬようにその身から大事な○×△□を食い千切るぞ」
リインとアインスを庇うように前に躍り出たフェンリルがそう言い放ったです。アインス達よりずっと長い年月――数千年と生きたフェンリルが出すソレはとても怖いものらしく、
男の人たちは蛇に睨まれた蛙のように(実際に見たことないですけど)縮こまってしまい、一歩二歩とフェンリルが歩み寄ると、「うわぁぁぁぁぁ!」絶叫しながら去って行きました。
「フェンリル。殺気まで叩きつけることはなかったのでは・・・」
「いいよ、あんな奴ら。アインスだって気付いてたでしょ。奴ら、私とアインスの胸ばっか見てた。下心丸見え。そんなに好きならお互いの胸でも揉んでろって話」
大きな胸を張るフェンリル。同じ女の子でも目が行っちゃうですよ。嘆息したフェンリルはもう1度リインの左手を取って、「さーて。エロガキ共も追い払ったし、早く行こう♪」促したです。だから「アインス、行きましょう」リインはアインスに右手を差し出すです。
「ああ、行こう」
また3人並んで歩くです。目指すはまだ順番待ちの人数が少ないウォータースライダー。列に並んで数分。いよいよというところで、「あ」リイン達3人の口からそう漏れたです。階段横にはキャラクターの立て札があって「130cm以上から利用可能、ですぅ・・・」そう書かれてました。リインのアウトフレームの身長は120cmちょっとですので、あと数cm足りないです。
「身長制限があるやつもあるんだ~。さっきのには無かったのに」
「・・・後ろもつかえていることだし、とりあえず離れよう」
「ま、待ってください。リインは待ってますから、アインスとフェンリルはどうぞ行って来てください!」
リインひとりの所為で、スライダーで遊べないなんて嫌ですからそう言ったんですけど、「ううん。離れよう」一番乗り気だったフェンリルがリインとアインスの手を取って、「お先にどうぞ♪」すぐ後ろに並んでた恋人さん達に先を促してから列から出たです。
「あの、フェンリル・・・?」
「良かったのか? リインなら私が見ていたし、お前だけでもやって来れば良かったのに」
「いいの、いいの。ひとりでやるなんてつまらないし。アインスだけじゃなくてリインと一緒に楽しみたいもの。2人の内どっちが欠けてもアウト。そういうわけで、スライダーはもうやめて、各種プール巡りにしよう」
フェンリルは本当にそう思ってくれてるって判るです。ですから変にリイン自身を卑下すると、フェンリルの思いを汚しちゃうですから、「はいですっ!」フェンリルの提案に賛成します。アインスも「私もそれで構わない。プール巡りをしながらみんなの様子を見よう」賛成です。
「一番近いのは第3流水プールね。誰か居るかなぁ~」
そういうわけでやって来ました流れるプール。星型をしていて、中央には噴水があるです。プールの形も理由なのか利用者の大半が幼い子供です。フェンリルが「ここには誰も居ないみたいだし、次に行こう」そう言って歩き出しました。そして次に向かうのは、温泉プール、という水ではなく本当の温泉を溜めたプールです。
「あ、シグナムが居るです!」
子供より大人の人数が多い温泉プールに、見慣れたポニーテールがあったです。壁に背を預けて、上げた両腕はプールサイドに乗っけてるです。完全にお風呂に浸かってリラックスしてる感ですね。そんなシグナムに「湯加減はどうです?」声を掛けます。
「お前たちか。いや、少し温いなやはり。天然の温泉だということだが、さほど熱くはない。プールが近いこともあるからだろうが」
そう言ったシグナムが温水を両手で掬ってリインの手に掛けたです。確かに「熱くもなく冷たくもないです」お風呂大好きなシグナムが好む水温ではなかったです。
「お前たちもどうだ。水で冷えた体を温めるのにはちょうどいいぞ」
そう誘ってくれたですが、「それほど冷えてないですので・・・」お断りしました。これからまた別のプールに入りますし、どうせ入るなら最後の方が良いです。アインスとフェンリルも同意見でしたので・・・
「リイン達は次のプールに行くです」
「そうか。では私もそろそろ行こう。確か競泳用プールがあったな。そこでひと泳ぎして来よう。また後でな、リイン、アインス、フェンリル」
「はいです」
「後でね~」
「シグナム。ビキニタイプの水着のお前だ。無茶な泳ぎをして、猥褻物陳列の罪で捕まるような真似は――」
「せんっ! が、気を付けよう」
アインスにそう言われて少し顔を赤らめたシグナムと別れて、次はサーフィンプールという波を作りだす装置のあるプールへ向かいます。到着しますと、確かにそこのプールには波が生まれていて、浮輪に乗って揺られてる人、波打ち際で座ったり寝転がって波を受けてる人、普通に泳いでる人、様々な形で楽しんでました。
「ヴィータとシャルとアリシアだな」
浮輪に座って波に揺られてるヴィータちゃん達を発見です。声を掛けるためにプールに入ると、「わわっ」押し波からの引き波に足を取られてしまい転びそうになったですけど、「ほら、しっかりね」フェンリルに支えてもらって助けてもらいました。
「お前は小さいから歩いて行くより泳いだ方が安定しそうだ。リイン、行けるか?」
「もちろんですよ、アインス。ルシル君に泳ぎを教えてもらったですから余裕なのですよ♪」
スラリとした長い足でしっかりと歩くアインスとフェンリルの間をひとり泳ぐリイン。向かってる最中に、「お、リイン、アインス、フェンリル。お前らも来たのか」ヴィータちゃんが気付いて、リイン達に手を振ったです。
「ここまでリイン泳いで来たの? えらい、えらい」
「えへへ、ありがとですぅ~♪」
アリシアさん(小さいけどフェイトさんのお姉さんなのですよ)がリインの頭を撫でてくれました。どんなことでも褒めてもらえるととっても嬉しいのです。
「リインも浮輪に座って揺られてみる? 流水プールにはない波があるから楽しいよ」
シャルさんがそう言って浮輪から降りて、リインに浮輪を差し出してくれたです。お言葉に甘えて「お借りするです」浮輪に座って漂うです。押し波が来ると浮輪が大きく揺られました。プールサイド側へ一度押されて、引き波で戻されるです。ヴィータちゃんとアリシアちゃんも同じように戻されて、3人で笑い合うです。
「ありがとうです、楽しかったです、シャルさん♪」
浮輪から降りて、シャルさんに浮輪を返します。シャルさんは「もういいの? アインスもフェンリルもやってかない?」受け取りながらも小首を傾げました。ヴィータちゃんも「あたしのも貸すぜ、浮輪」そう言って浮輪から降りようとしたですけど、「私たちは次のプールへ行くのだ」アインスがそう言って制したです。
「そうなんか?」
「はいです。いろんなプールを巡りながら皆さんの様子を見るんですよ」
「へぇ~。これまではどこ行って来たの?」
「最初は私とアインスとリインの3人でスライダー巡り。で、さっき温泉プールでシグナムと会ったね」
「温泉って。プールに来てまで風呂に入る奴があるか。アイツ、本当に風呂好きだなぁ」
そう言って笑うヴィータちゃん。シグナムは八神家で一番のお風呂好きですからね。それからリイン達は、まだここに居るって言うヴィータちゃん達と別れて、次のプールへ向かうです。次は、「第2流水プールだ」とアインスが行き先を決めたところで、「あ、アインスさん達だ」そう声を掛けられました。振り向いてみると、「なのはさん、フェイトさん」のお2人でした。
「なのはとフェイトの2人だけ?」
「うん、そうだよ」
「私となのはも別々だったけど、さっき合流したんだ」
「お2人はこれからどこへ行くです?」
「アスレチックプールエリアに行こうって思って」
「いろんな浮輪を足場にした障害物コースっていうし、ちょっと制覇してみようかって。あとでみんなも来る予定だよ」
「アインスさん達も来ます?」
なのはさんからのお誘いです。リインはアインスとフェンリルを交互に見ます。2人は「どうしたい?」って、リインの答えを訊いてきたです。なのはさんとフェイトさんも「どうしようっか?」リインの目線に合うように屈んで訊いてくれました。
「えっと・・・、はい、ご一緒しますです♪」
お受けしました。すると、「決まりだね!」フェンリルとなのはさんとフェイトさんは笑顔を浮かべて、「では行こう」アインスも微笑んで、リインの背中をそっと押してくれたです。そして向かうはアスレチックプールエリア。プールには棒状・丸太状・円状・球状・四角状・三角状、いろんな浮輪が道を作ってます。
「あ、アリサ達もう来てる」
アリサさんとすずかさん、それにフェイトさんの使い魔のアルフさんが居て、すでにアスレチックプールに挑んでる最中でした。
「もう始めちゃってる」
「私たちも始めちゃおうっか」
「じゃ、初級コースからクリアして行こう」
フェンリルさんの号令にリイン達もそれぞれ応じて、いざ出陣です。アスレチックプールエリアは全長80m・前幅10mのコースが4種あるです。まずは初級コース。浮輪の種類は平たくて大きいものが多いですね。リインやヴィータちゃん程の背くらいの子供がたくさんチャレンジしてるです。ちなみにアリサさん達は中級ですね。
スタート地点に着くまでに順番を決めて、1番・なのはさん、2番・リイン、3番・フェイトさん、4番・アインス、5番・フェンリルになったです。
「1番・高町なのは、行ってきます!」
なのはさんがスタート。なのはさんが余裕で中間付近まで進んだのを確認して、「八神リインフォース・ツヴァイ、行くです!」リインのスタートなのです。最初は、表面が平たい棒状の浮輪がジグザグに並べられた道です。
「わっ、わわっ、ゆ、揺れるです・・・!」
想像以上にムズいです。面積が広いからと言って油断しました。別のコースの人が浮輪から落ちたことで生まれる波や、リイン自身が歩くたびに浮輪が揺れて生まれる波、前や後から来る人が起こす波で水面が常に揺れて、初級コースでもかなり大変です。でも負けません。これくらいクリアしますです。
「――もうちょっと、です・・・!」
落ちること数回。ようやく最後の円状の浮輪を進んで、プールサイドへ「ゴール、ですぅ!」ピョンっと小さく跳んでゴールです。すると「やったじゃない、リイン」アリサさんや「すごい、すごい!」すずかさん、それに「見てたよ、リイン。よう頑張ったな」はやてちゃん、「ナイスファイト」ルシル君が褒めてくれて、アインス達も拍手でリインのゴールを迎えてくれたです。
「何度落ちようと諦めずに挑戦するお前は、本当に格好良かったぞ」
「アインス・・・。ありがとうです!」
アインスに頭を撫でてもらったです。それがとても嬉しかったですよ。
「みんな揃ったことだし。全コース制覇と行こうか!」
シャルさんが拳を振り上げると、アリシアさんを筆頭に「おおーーー!」他の皆さんも倣って拳を振り上げました。リインは初級でも大変でしたけど、皆さんがやるなら「お、おおーー、です」リインもやる気を見せるために拳を振り上げたです。
(やってやるです!)
†††Sideリイン⇒アインス†††
「――楽しかったなぁ」
レジャープール施設・ワクドキ☆ざぶ~んで1日と遊び倒し、陽が傾き始めた今は家路に着いている最中。途中でなのは達と別れ、私たち八神家は家族だけで帰路を歩く。主はやての乗る車椅子を押し、「そうですね。楽しかったです」私は同意する。水泳とは全身の筋肉を使うために少々疲労が。その所為か酷く体が重く、そして眠い。
「リインも疲れて、お出かけバッグでぐっすりや。ふわぁ。・・・わたしもちょう眠くなってきてしもうたわ」
「はやてちゃん、眠ってもいいですよ。お夕飯は私たちが作りますから。ね、ルシル君、アインス」
「ああ、俺はそれでいいよ。というか、シャマルもアインスも休んでていいぞ。特にアインス。顔色が悪すぎだ」
私のすぐ隣を歩くルシルが私を見上げてそう言った。するとみんなが私へと振り向き、「ホンマや。調子悪いんやったら言わなアカンよ」主はやては心配そうなお顔で注意をし、「どんだけ遊んだんだよ、お前」ヴィータはからかうような口調だが表情はちゃんと、心配だ、と物語っている。
「アインス、車椅子は私が押そう。お前はザフィーラかフェンリルの背に乗せてもらえ」
「変身すればよいのか?」「変身しようか?」
人の姿を取っているザフィーラとフェンリルが私に振り向いてそう言ってくれたが、「いや、結構だ。ありがとう、シグナム。このまま私に任せてくれ」断り、私を案じてくれたシグナムには礼を言う。この程度の疲労で車椅子を押す役を降りるなど出来はしない。
「アインス。帰ったらシャマルに診てもらってな。シャマル、お願いな」
「はい、お任せを」
「世話になる」
「気にしないで。家族、でしょ♪」
ああ、私は本当に幸せ者だ。主はやてが居て、ルシルが居て、シグナムが居て、ヴィータが居て、シャマルが居て、ザフィーラが居て、リインが居る。それにフェンリルもだな。家族としてお互いを想い合って過ごせることが出来た1年と少し。とても温かく、充実した時間だった。
――ごめんなさい。・・・貴女の時間は少ししか伸ばせない。・・・それが、運命だから――
「っ・・・!」
急に眩暈に襲われてクラっと来てしまった。みんなは前を向いていたために気付かれることはなかったが、「アインス・・・?」倒れないように踏ん張った際に車椅子がガタッと揺れてしまったことで主はやてには勘づかれてしまった。
「アインス・・・? アインス・・・!? アインス!!」
視界が傾き始める。あの日――6月4日に起こった事が瞬時に脳裏に過った。眩暈、倦怠感。私の体を構築している魔力の霧散によって起こる体の消滅、構築限界、という結末へと至る初期症状だ。あの日から早2ヵ月。もしかすると消滅から免れたのかもしれない、そう思えてもいたのだが・・・
(それほど甘くも優しい世界でもなかったということか・・・)
いや、優しい世界ではあった。本来ならば“闇の書の闇”――ナハトヴァールの消滅と共に私も居なくなる予定だったのだから。それなのに8ヵ月近くも生き長らえることが出来た。十分夢も見させてもらった。これ以上を願い求めるのは傲慢なのかもしれない。
「アインス! アインス!!」
「どうした!?」
「おい、アインス!」
道路に倒れ伏してしまった私を見、主はやては不安に涙を流し、顔を青褪めさせるルシルやヴィータ、シグナム達。フェンリルに上半身を抱き起こされた私は、あの時と同じように力は入らずとも声は出せるようで、「申し訳ありません。どうやら、私はここまでのようです」と、今の私に起きている状況――構築限界の事を伝える。
「――そういうわけなのです。おそらく私はもう・・・このまま消え――」
力を込めて上げることの出来た右手、その五指の先が僅かばかり霧散している様を見せると、「っ!」みんなは一様に息を呑んだ。主はやてが弱々しく私の手に触れようとした時、
――封時結界――
「とにかく今は家に戻ろう! フェンリル、はやてを抱えて来い! シグナム達も行くぞ!」
ルシルは大人姿へと変身した上でミッド式結界魔法を発動。さらに私を横に抱え上げ、フェンリル達に指示を飛ばす。そして大きく跳び上がって、住宅街の屋根を伝って私たちの家へとショートカット。後ろを見てみれば、フェンリルも主はやてを横に抱え上げ、屋根の上を飛び跳ねてついて来ていて、シグナム達は飛行魔法で追って来ている。
「ルシル・・・?」
「君は消えるのが運命なのだと、どこか諦めていた! どうしようもないことなんだって! だが、ここまで生き長らえて来たんだ! 覚悟は決まった! なんとしてでも君の運命を捻じ曲げる!」
「・・・ありがとう。しかしおそらく無理だ。これは不変の運命なんだ」
『ルシル! 結界を張ったのは君か!? なにか緊急か!?』
クロノ執務官からの通信が入り、ルシルが事情を伝えた。すると『何か手伝えることはないか?』と、クロノ執務官はそう言ってくれた。私の消滅を食い止める手伝いは出来ないか、と。主はやて達だけではない。私を慕ってくれている者は。それがとても嬉しい。
「クロノ執務官、ありがとう。だがルシルにもすでに伝えたが・・・もう手遅れなのだ」
「諦めたらアカン!!」
「そうですよ、アインス!」
すぐ側から聞こえた主はやてと、眠っているはずのリインの声。ルシルの隣へ追いついたフェンリルに抱えられた主はやてと、主はやての腕に抱かれたリインがボロボロと涙を流して私を見ていた。
「クロノ。なのは達に連絡を。はやての家に寄越してくれ!」
『判った! 僕たちも急いでそちらへ向かう!』
通信が切れ、そして私たちは家へと帰り着いた。向かう先は「はやて。ベッドを借りるぞ!」主はやての私室。主はやてを抱えたフェンリルが先行し、「ええよ! アインスを寝かせて!」許可が下りたことでルシルも部屋へと入り、私を主はやてのベッドへと横たえさせた。
「アインス! 居なくなっちゃ嫌ですぅ!」
「ルシル君! アインスを助けてあげられへんか!? わたし、なんだってするから!」
「お願いするです、ルシル君!」
ルシルに懇願する主はやてとリイン。しかしルシルは無言。必死に私の消滅の回避策を考え込んでいる。少し遅れて帰って来たシグナム達も「どうにかならないか・・・?」ルシルへと懇願する。私は自身から質量が消え失せて行っているのが自覚できていた。外見は保っているが、中身が薄くなっていっている感覚だ。
「もう良いのです、主はやて。リイン、シグナム達も。私自身の事だ、よく解るんだ。この運命は変えられない」
「そんな簡単に諦めたらアカンって言うてるやんか!」
ザフィーラが抱えて持って来た車椅子に座りなおした主はやてが私の手を取り、「っ!?」すぐに離した。何故なら手首より先が大きく揺らぎ、霧散しかけたからだ。しかし手を離されると霧散しかけた手が元に戻った。今はまだこの体を保とうと実体化プログラムが頑張ってくれているようだ。
「くそっ! どうにもなんねぇのかよ! ルシル、何か手はねぇのかよ!」
「わ、私の治癒魔法で少しでもアインスの体を維持できれば・・・!」
シャマルが騎士服へと変身し、私に治癒魔法・静かなる癒しを掛けた。負傷治療や体力魔力回復、それに防護服修復の効果がある。しかし効果はおそらく望めないだろう。怪我も負っていないし、体力もあるのだ。ただ純粋にプログラムが破綻し続けて行っているだけ。
「はやてちゃん! アインスさん!」
「来たわよ!」
「ルシル君、私たちに何か手伝える事はない!?」
「何でも言って! 魔力だって何だって貸すから!」
「わ、わたしも魔力少ししか無いけど、どんどん使って!」
「遠慮なんかするんじゃないよ。あたしら仲間だからね」
そこに防護服を私服姿へと戻しながらのなのは達が私の側に集まった。さらに「様子はどうだ?」クロノ執務官や、「アインスさん」リンディ提督、「アインス、しっかり」エイミィまでも私の為に来てくれた。果報者だ、私は本当に。たくさんの人が、私のことを思ってくれている。
「ルシル。膨大な魔力持ちがここまで揃っている。君の好きなように使え」
みんなの視線がルシルへと向く。そのプレッシャーは一体どれほどのものなのだろう。だから「ルシル・・・」名前を呼ぶ。気負わなくてもいいのだと。ルシルは「みんなの魔力、貰い受ける」足元にミッドでもベルカでもない魔法陣を展開。オーディンも使っていた、セインテストの魔法陣だ。
――女神の救済――
リインを除く主はやて達の足元に同様の魔法陣が描かれ、「っ!?」少しばかり苦しそうな表情を浮かべた。魔力吸収の魔法だ。みんなの魔力がルシルへと流れ込むのを感じる。
「アインス。胸元に少し触れるぞ」
今のルシルは大人の姿であるから少しばかり羞恥心が煽られるが、「構わない」気にしないように努めて了承する。人差し指と中指が心臓付近にそっと触れた。
「おいで、アメナディエル、ソレウイエル、マカリエル、メナディエル、ライシエル」
――秘密を暴き伝える者達――
『はい』『ウィ』『ヤー』『シン』『イエス』
私の胸の上にモニターが展開され、背中に1対の翼を持った3頭身の少女が5人と現れた。と、一瞬だが視界が暗転して「ここは、書庫・・・!?」気が付けばそこはどこかの書庫のような場所だった。目の前には宝石のエメラルドのような色彩の円卓があり、私が座っているのはロッキングチェア。
「私は先程まで主はやてのベッドの上に居たはず・・・、夢、なのか・・・?」
体が自由に動く。自らの足で椅子から立ち上がることも出来る。現実ではないことは確かだ。ここがどこなのかを知るために周囲を探索しようと考え、キョロキョロと辺りを見回す。
「四方八方に書棚がある所為でよく判らないな・・・」
空を飛べれば、とそう思ったら「っ?」体が浮いた。試しに、飛べ、と念じてみると思い浮かべた通りに空を飛ぶことが出来た。そして知る。ここが「とんでもなく広い書庫だな」ということを。私が目を覚ました円形空間を中心に、どれだけの高さか正確には判らないが少なくとも100m近く、さらに数km単位の長さを誇る書棚が何十台と銀河のように渦巻いていた。
「おーい、アインスー! どこだー!?」
「この声・・・、ルシルか!」
足元から聞こえて来たのはルシルの声。降下しながら「ルシル、私はここだ!」そう応える。ルシルの側へ降り立ち、「ここはどこなのだ? 私はどうなった?」疑問をぶつける。ルシルに椅子に座るよう促され、私は先ほど座っていた椅子へ座り、ルシルは対面の椅子に座った。
「ここは俺の精神世界に形作られている創世結界の1つ、英知の書庫アルヴィト。俺もアインスも精神体だから、君の体が自由に動いているし、魔法が無くても空が飛べるわけだ」
「これが創世結界、なのだな。書庫ということは、複製された魔法などが収められているのだな・・・?」
何万では足りないであろう数の書物が書棚に収められている。ルシルは「そうだよ」とある書棚に手を翳すと、1冊の本がスッと音もなく飛来して来てルシルの手に収まった。その本を円卓に置き、「こういうような物だよ」私の元へ滑らせた。私はその本を手に取り、開いて見てみる。
「夜天の書と同じように記されているのだな」
術式がズラリと記されていた。どうやらこれはなのはの術式が記されているようだ。ディバインシューター、アクセルシューター、ディバインバスター、エクセリオンバスター、などといった術式だ。
「アインス。本題に入ろう」
重々しい口調で話を切り出したルシルに、「やはり私は助からないのだな」と返すと、「すまない。ステガノグラフィアの調査の結果、やはりアインスを救う方法が見つけられなかった」彼は深々と頭を下げて謝った。判っていたんだ、初めから。だから「気にしないでくれ」と微笑み返す。
「・・・違う。そうじゃない。本当は初めから君のことを助けられないと判っていた。家に戻る途中、あそこまで啖呵を切ったのは、はやて達に何をしても君を救えなかったという現実を見てもらうためだ。何もせずにアインスが消えれば、見殺しにしたという罪悪感を抱かせると思った。だからそれらしく振る舞った。俺たちは頑張ったんだって、思わせるために」
懺悔するように俯き、肩や握り拳にした両手を震わせるルシル。私は「ああ」と静かに頷く。責めはしない。その理由が無い。むしろルシルには感謝しかないのだから。私は椅子より立ち上がり、ルシルの元へと向かう。
「なのは達を呼んだのは、アインスと別れの挨拶をさせるためだ。知らぬ間にアインスが消えたとなれば、それは辛いだろうって思ったから」
「ああ」
「魔力は・・・貰った魔力は、俺自身の目的に利用する為だけに吸収したんだ・・・! アインスを救うためじゃない・・・! 俺の勝手な理由の為、なんだ・・・!」
「ああ。きっと、エグリゴリとの戦いで使うつもりなんだろう? 私が許すよ。主はやて達に代わり、私がお前を許すよ」
残る“エグリゴリ”は私たちが苦戦したバンへルドより上の実力者。魔力は余り余るほどでなければおそらくルシルに勝ち目はない。
「ルシル、ありがとう。この創世結界に来たことで消滅までの余裕を得られた」
ルシルを抱きしめる。消滅まで時間が無いと解り少しばかり焦っていた。しかしここに来られたことで主はやて達に伝えたい想いを整理することが出来たのだ。そのお礼と、優しさゆえに苦しんでいるルシルを慰めるための抱擁だ。
「さぁ、戻してくれ。主はやて達に別れをしないといけない」
「・・・ああ」
視界が再び暗転する。視界が開けると、創世結界へ精神が取り込まれる時と同じ状況のままだった。大人の姿をしたルシルが私の胸元に指先を当てている状態。ルシルは「・・・ごめん」そう小さく謝罪の言葉を発し、私の胸元から指を離した。その謝罪の意味を理解したみんなの表情がみるみるうちに青褪めた。
「ルシルを責めないでやってくれ」
「「アインス・・・!」」
別れが確定したことで主はやてとリインの涙がさらに溢れてきていた。今こそ伝えよう。私がこの8ヵ月、いや、主はやての元へ転生したこの10年を含めての思いを。
「主はやて。私はとても幸せでした。始まりすらも思い出せない程に永い刻を生きてきました。その中で多くの悲劇や絶望を受けてきましたが、最期はとても幸せな時間を得ることが出来たのです」
主はやてを、リインを、ルシルを、シグナム達を見る。シグナム達にも辛い運命を背負わせて来てしまった。しかしもうその憂いもなくなった。私たちは最後の最後で、この命――魂を懸けるに値する主と出逢えた。これほどの幸福はない。
「ですから泣かないでください」
「アインス・・・! そやけど、そやけど・・・!」
「無理ですよぉ!」
主はやてやリイン、なのはら子供たちの目からは大粒の涙が零れ続けている。
「お願いします。笑顔で私を送り出してください。なのは達もお願いするよ。お前たちの優しい笑顔を見ながら、私は逝きたい」
「「アインスさん・・・」」「「「「アインス・・・」」」」
なのは達は袖で涙を拭い、懸命に笑顔を作ろうと努めてくれたから、「あぁ、心優しいお前たちが私の家族の側に居れば、私は安心して逝けるよ」そう言って笑顔を作ると、なのは達はまた涙を溢れさせたがそれでも笑顔を崩すことはなかった。
「リンディ提督、クロノ執務官、エイミィ。長くお世話になりました。ありがとうございます」
「はい。はやてさん達の事は、私たちが責任を以ってこれからも見守って行きます」
「だから安心して旅立ってくれ」
「うん。安心してね、アインス」
リンディ提督たちにも本当にお世話になった。そのお礼を改めて出来たことが嬉しい。
「シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ」
「「ああ」」「おう」「ええ」
「お前たちには本当に苦労をかけてきた。すまなかったな」
「んなことで謝んなよ・・・! お前だって、あたしらと同じくらい、それ以上に苦しんできたろうが・・・!」
「ああ、その通りだ。お前が気に病むことではない。故に謝らないでいい」
「そうよ、アインス。一緒に苦楽を共にしてきた仲じゃない。今さらそれを謝るのは野暮よ」
「うむ。謝罪は無用だ」
涙を流すヴィータとシャマル、涙を流さないよう努めているシグナムとザフィーラが笑顔を浮かべてそう言ってくれた。ああ、その通りだ。騎士たちに掛ける言葉は謝罪ではなく、「ありがとう」だ。
「・・・ルシル。お前は聡い子だから、なんでも独りで考え、抱え込む癖がある。お前には家族も友人も居る。そう肩肘を張らなくてもいい。みんなで悩み、考え、答えを見つける事も良いものだと私は思う」
子供らしからぬ思考や行動力は、クローンとしての生まれが原因だと知ってはいるが、もう少し子供の部分を出しても良いと思う。欲を言えば、主はやてとも結ばれてほしいが、それは私がいま言うべき言葉でも、言う必要もない言葉。これからの主はやてに任せよう。ルシルは「努力するよ」そう返した。確約はしてくれないか。まぁ、お前らしくはある気もする。
「フェンリル・・・」
「何も心配しないで。私も居るし、はやて達も居るから」
「・・・ああ、任せたよ」
フェンリルも涙で滲む決意の目をしっかりと見、そしてリインへと移す。
「・・・リイン」
「はいです・・・ぐす」
次々と溢れ出る涙を袖で何度も拭うリイン。感情のコントロールがまだ拙いリインには、泣くな、というのも酷か。それでも笑顔を浮かべようと頑張る姿は本当に愛おしく思う。
「リイン。リインフォース・ツヴァイ。名と祝福の風を受け継いだお前に伝えたいことがある。お前はお前だ、リイン。私の代わりなどではく、リインフォース・ツヴァイとしての個人だ。だから気負うことなく胸を張って、強く生きてほしい。・・・主はやてを・・・お支えしてくれ」
「ひっく、ぅく・・・はい・・です・・・はいです!」
涙を拭うことをとうとう諦め、ぎこちなく笑顔を作るリイン。さぁ、最後は私の、私たちの愛する主への挨拶だ・・・。
「・・・主はやて」
「うん。アインス」
「どれだけ言っても足りない程に私は幸せでした。私ほど幸福な魔導書など、後にも先にも存在しえないでしょう。強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール、リインフォース。新たに頂けたこの美しい名と、夜天の魔導書という真の名を取り戻すことが出来た最後の転生。その主があなたで本当に良かった」
「っ、・・・うん、・・・うん・・・!」
「私はここまでですが、あなたの側には温かな家族も、優しき友人も、頼りある仲間もいらっしゃいます」
「そうやね・・・、わたしも幸せ者や・・・!」
「それに、私は生き続けます。目には見えないでしょうが私の魂と、みんなを守りたいという意志は主はやて達の魂と共に居て、あなた達を見守り続けます」
「うん。そやから・・・わたしは、大丈夫やよ・・・! アインスが見守ってくれてるからな・・・!」
「はい。・・・いつもお側に居ますよ。私の大切な・・・はやて」
「っ! ぅく・・・う、ぅ・・・ひっく、リイン・・・フォースぅ・・・、リインフォース・・・!」
いつか主も敬語も無用と言っておられたのを思い出し、はやて、と呼んだ。先ほどまで懸命に作っていた笑顔をとうとう崩し、主はやては大泣きしてしまった。抱きしめたい。抱きしめて安心させてあげたい。その意思だけで私は上半身を起こす。しかしそこまでだ。もう足も動かないし、上半身のバランスを取り、腰を捻るだけで精いっぱい。届かない、主はやてを抱きしめるには。
「ぅく・・・!」
「はやて!?」「はやてちゃん!?」
主はやてが車椅子より自力で立ち上がった。震える脚で懸命に立ち、「リインフォース・・・!」誰の支えも必要とせずに一歩、二歩とベッドへと歩いたのだ。ここで私もとうとう涙を流してしまった。泣かないと決めていたのに、主はやての自分の力だけで歩くその姿に、私は涙を流すのを我慢できなくなってしまった。
「はやて!」
「リインフォース!」
私に向かって倒れ込む主はやてを抱き止める。肉体を実体化して初めてあなたを抱き上げた頃よりいつの間にか背も伸び、体重も増え、大きく成長していたのですね。それを最後にこうして確かめる事が出来、本当に良かった。
「おおきにな! リインフォース! わたし・・・わたしは! リインフォースに逢えて幸せやった!」
「私もです、私もですよ、はやて! 幸せでした、とても幸せでした!」
私ももう涙が止まらない。強く私を抱きしめてくれる主はやてに応えるべく、私も精いっぱいの力を両腕に込めて抱きしめ返す。もうこれ以上望むべくもない。主はやてが自力で歩くその姿を見られたことで私は安心した。視界が涙だけでなく、私を構築していた魔力が粒子化したことで視界が眩しく滲む。
「ありがとうございました、主はやて。ありがとう、ルシル、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リイン、フェンリル。ありがとう、なのは、アリサ、すずか、フェイト、アリシア、シャル、アルフ。ありがとうございました、リンディ提督、クロノ執務官、エイミィ・・・」
私は最期に見た。涙を流しながらも笑顔を作って私の旅路を見送ってくれる主はやて達を。だから最期にもう1度、「ありがとう」と私は笑顔を作り、この出逢いに、共に過ごした時間に、そして笑顔で別れをしてくれたみんなに感謝した。
こうして私、“夜天の魔導書リインフォース”の永き旅路は終わった。とても、とても幸せに・・・終わった。
後書き
ブーナ・ディミニャーツァ。ブナ・ズィウア。ブーナ・セアラ。
さようなら、ありがとう、リインフォース・アインス。というわけで、今話でついにアインスが天へと旅立ちました。はやて視点にするかアインス視点にするか迷いましたけど、やっぱりアインス視点の方が良いかなぁ、と思い、今話の主役であるアインスの視点にしました。
次回から事件編。アインスを喪いながらも懸命に頑張るチーム海鳴。そんな彼女たちに、久々に登場するアイツが絶望を運んで来る、です。
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