エターナルトラベラー
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第二十五話 【リリカル編】
前書き
今回からリリカルなのは編です。
どちらが上か下かも解らない真っ暗な空間を俺とソラは何かに吸い寄せられるように落ちている。
時間の感覚は酷く曖昧で、俺は何時間も落ち続けているのか、それとも数秒なのかすらもわからない。
更に落ち続けるにつれて段々思考が鈍くなってきたように感じる。
ピシッ
そんな何かが割れる音がしたと思ったら急に眠気に襲われた。
ダメだ…酷く眠い……
俺は眠気に耐え切れなくなってついに意識を手放した。
◇
眼を開けると俺はまた幼児になっていました…
またか!とも思ったけれどもこんな状況も既に3回目、ある意味ベテラン?だ。
俺は落ち着いて自分の体の状態と辺りの状況を確認する。
先ずこの体はおおよそ八ヶ月ほどの幼児。
ようやくはいはいが出来るようになったばかりといった頃のようだ。
周りを見渡す。
どうやら俺はベビーベッドに寝かされていたようで、俺を取り囲むように柵に囲まれている。
内装は少しばかり日向の屋敷の部屋よりも時代が進んだ感じの子供部屋といったところだ。
遠い記憶にある俺がまだ地球に居た頃の文化レベルに似ている。
ソラが見当たらないが、ソラもこの世界に転生したのだろうか。
それとも俺とは違いそのままこの世界に…
あるいはバラバラに離されてしまったなんてことは…
ソラを探すにしても今のこの体の現状では動き回る事すら不可能。
体が成長するまでソラの捜索は諦めるしかないのかもしれない。
ガチャリ
そんな事を考えていると部屋の扉が空き一人の女性が部屋の中に入ってきた。
「目覚めちゃったの?」
そう言って俺を抱き上げる女性。
どうやらこの人が今生の母親のようだ。
「蒼ちゃん、早くおっきくなってね」
そう言った母親の言葉を聞くに、今回も俺の名前はアオというらしい。
それからしばらくは情報の収集と現状の確認に勤めた。
そしてそれらをまとめてみると驚愕の事実が浮かび上がる。
まず俺の名前は御神蒼と言うらしい。
母親の名前は御神紫(みかみゆかり)。
父親は居ない。
俺が生まれる二ヶ月前に死亡したらしい。
母親いわく「お父さんは魔法使いだったのよ。あなたにも魔法使いの才能が有るらしいわ」なんて、俺を寝付かせながら子守唄の代わりに語っていた。
どうやらこの世界にも魔法という存在はあるらしい。
更にテンプレ転生ものの様にその才能は俺にも遺伝されているとか。
「これはお父さんが私のお腹にいるあなたが魔法の才能が有ると知ると親ばかにも程があるくらいに大金をかけて造った魔法の杖らしいわ。私には使えないからお守り代わりに」
そう言って俺の首掛けられる宝石。
銀の宝石はどう見てもソルのようだったが未だに歯や頬の筋肉が未発達な俺ではまともに喋る事も出来ないので確認のしようが無い。
この宝石が喋ってくれれば確認のしようもあるのだが…この問題は俺がオーラを操れることを感じ取った宝石が俺に話しかけてきたことにより解決した。
どうやらこの宝石はソルだったらしい。
更には気が付いたらこの宝石に組み込まれて新しく生まれ変わっていたとの事。
俺はオーラを操り念で文字を空中に描き出しながらソル達との意思の疎通をはかる。
俺が再構成されて生まれ変わったのと同様に、2人も前の機能を今生の杖の内側に隠しながら融合したのだろう。
どうやら今の形は待機状態で、本来の形は日本刀を模した形らしい。
試しにソルに元に戻ってもらうと、鞘に入った日本刀、鞘から抜けば、銀色に輝く刀身につばの上にカバーがあり覆われるようにして内側にある小型のリボルバー型のカートリッジシステム、装填数は6発と意外にも多い。
……もしかしてもしかするのだろうか。
聞いてみたところ、製作者によって植え付けられた情報によると幾つか基礎となる魔法プログラムなるものがインストールされているらしく、術式の総称を近代ベルカ式と言うらしい。
これは術者の体内にあるリンカーコアに生成される魔力を元に外界に働きかけるものらしい。
マジか!?
どういう訳かこの家にはなにやら日本刀やら竹刀やらがそこかしこで見受けられる。
どうやら母親が御神流という二刀流の剣術流派である御神家の分家筋に当たるらしく、本人も免許皆伝の腕前らしい。
そしてどういう経緯で母親がこの地に移り住んだのかわからないがここは海鳴という町らしい。
……そう、どうやら俺はとらハ、もしくはリリカルなのはの世界に転生したらしい。
ゼロ魔式の魔法はルーンが唱えられないことから実証を断念。
それから肉体面。
精孔は既に開かれているらしく纏も問題なく行えるし、念能力についても問題ない。
変身能力についてもどうやら引き継いでしまっているようだ。
猫に変身したら子猫になってしまっていたが、問題なく変身できた。
…この能力、此処まで来たらもはや呪だよね?
元は魔法薬だったはずなのに転生しても負荷されているなんて…
後は写輪眼だが、これも問題なく使えるようだ。
万華鏡まで自由自在。使ったオーラの消費量も転生前と同等だったことから恐らくこの体は以前の体を生まれ変わる時に最適化して再構成して生まれ直したのだろう。
視力の低下も恐らく無いだろうし。
取り合えずゆっくり成長しながら恐らくこの世界に転生しているであろうソラを探すか。
ついに転生してこれたリリカルなのはの世界!
その世界の魔法を習得するのも楽しそうだ。
前も言ったかもしれないけれど俺は『リリカルなのは』が大好きだったのだ。
なのはつながりで原作の『とらハ3』にも詳しくなってたりするけれど…
それ故にサンダースマッシャー(偽)の開発をしていた位に!
しかも今回は本家本元の魔法が習得できるかもしれないのだ。
ならば是非とも収束魔法を!
夢のスターライトブレイカーを!
期待に胸が膨らむ。
しかし、下手に主人公サイドにくっ付いて回って取り返しの付かない事になった前例がある。
あの後どうなったのか確かめようも無いけれど、この世界が『リリカルなのは』であるならば地球を震撼させる危機が2回あるのか…
この二つの事件をどうしようか。
原作がベターな終わり方で、ベストな回答があるかも知れないけれど、もしその他の要因…この場合俺とかだが…それが原因で地球滅亡なんて事になっては眼も当てられない。
俺にだって原作介入したいと言う気持ちは大いにあるが、ここはぐっとこらえて傍観の姿勢かな?
この世界は俺の最初の人生と文化レベルや常識が一致する。
此処で少しの非日常と平穏無事な人生を送るのが良いだろう。
あれ?そう言えば御神家って不破家と一緒に滅亡してなかったっけ?
転生してから二ヶ月ほどたったころ、俺は母親である御神紫(みかみゆかり)に連れられて、御神の本家に連れられて来ている。
どうやら今日、御神本家で御神琴絵さんという方の結婚式が開かれ、一族全員が集まるらしい。
ヤバイ。
あれから何度も記憶をあさってようやく思い出した御神家の滅亡理由。
確か高町美由希の実の父親である御神静馬の姉の結婚式の日に爆弾テロによって一族郎党死に絶えたはず。
生き残りは放浪の旅に出てたかなんかしてこなかった不破士郎と不破恭也、熱を出して病院に行っていた御神美由希とその母である御神美沙斗の4人だけである。
って事はこのままじゃ俺はこのままテロに巻き込まれて死亡!何てことに!?
最悪オーラで身を守れば死ぬことは無いだろうけれど…流石にどのタイミングで爆破されるかも解らない上に四六時中「堅」で身を守るわけにも行くまい。
しかもそうした場合助かるのは俺だけ。
俺を抱っこしているならば母親位は「周」を使えば守れるか?
これも無理だ。
母親が何かの隙に俺から離れた時に爆破テロが起こったら?
俺はこの世界での庇護を失ってしまう。
更にここ二度の転生で生みの親に孝行する間も無く先立たれてしまっている。
今回もそうなるというのだろうか…
今の俺にここに居る全員を救うことは出来ない。
まあ、もしかしたら爆破テロなんて起きないかもしれないし、取り越し苦労なのかもしれないけれど。
そんな事を考えていると御神美由希が熱を出し、母親である美沙斗も付き添いで病院に赴いて出席できないと言う話が聞こえてきた。
ヤバイ!いよいよ史実に忠実な展開になってきてしまっている。
どうすれば…そうだ!此処で俺もぐずり出し病気のフリをすれば?
お母さんだけは俺を病院へと連れて行くために此処から離れられるかも知れない。
利己的だが今の俺ではこれが精一杯だ。どうか許して欲しい。
そう心の中で謝って俺は盛大に咳きをする。
「ケホッケホッ」
俺のセキに気づいたお母さんが俺を心配そうに抱き上げる。
「蒼ちゃんどうしたの?」
「ケホッケホッ」
なおも咳きをし続ける俺。
「ケホッゴホッうぁぁぁぁああああああんゴホッ」
ついに泣き出す演技まで。
「大丈夫蒼ちゃん!?風邪引いたのかしら。どうしましょう。医者に見せた方が良いのかしら…」
「どうしました?」
そう言って一人の男性がお母さんに話しかけてくる。
「大地(だいち)さん…この子…蒼が行き成り咳き込み出しまして。医者に連れて行きたいのですが…父も未だ来ていませんし…」
「ああ、なるほど紫さんは今日は車で?」
「いいえタクシーです」
赤子の世話でどうしても両手が塞がる。
そういった理由で運転できずに此処までは電車とタクシーでの移動だった。
「ならば私が車を出しましょう」
「え?でも」
「どうやら皆タクシーや送迎のバスなどで来たらしく直ぐに車を出せる人間が少ないのですよ」
「…えっと」
「それに俺は小さい頃本当に体が弱くて、剣術の稽古ができなくてね。この歳になっても竹刀すら握った事の無い俺はこの家ではあまり立場がないんで、いたたまれないんです。だから俺を助けると思って」
お母さんは少し考えた後、
「そういう事ならすみませんがよろしくお願いします」
そう言って頭を下げるお母さん。
俺は咳き込みつつもこの場から離れられたことに安堵した。
病院に搬送され、小児科の先生に診てもらう俺。
実際は仮病な訳だが此処で本家に戻されるわけには行かない。
俺は必死に演技して盛大に不健康を装う。
まあ、咽の炎症を確かめた医者は頭を捻ってしまっただろうがそれでも咳きを止めない俺を一応念のため一日入院と言うことで話がついた。
母さんは俺を一人にする事も出来ずに会場へはもどらず俺に付き添ってこのまま泊り込みするようだ。
買い物をするついでに美沙斗さんの所に挨拶に行ってくるらしい。
良かった、これで俺とお母さんの死亡フラグは叩き折れたはず。
本来なら一度家に戻って用意するのだろうが、ここは出先であったために必要品をコンビにに揃え一晩明かすらしい。
その後、こちらを訊ねてきた大地さんに戻らないことへの断りを入れると、大地さんは本家へと戻っていった。
しばらくすると病院が慌しくなって来た。
ついに爆弾テロが起きてしまったらしい。
噂話を聞いたお母さんが真っ青な顔をしてすぐさま美沙斗さんの所へと走っていった。
結局この日助かったのは史実にある4人と本来生き残るはずの無いイレギュラーである俺とお母さん、それと俺達を送り届けた事で難を逃れた不破大地(ふわ だいち)さんの7人だった。
大地さんが本家へと帰りつく前、宴もたけなわと言った頃合で爆弾テロが行われたようだ。
それにより御神、不破の一族はその殆どを死滅してしまった。
結局テロの後、高町美由希の母親である御神美沙斗はこのテロで一族と一緒に愛する夫を亡くしたことで美由希を士郎さんに預けて復讐の旅に出て行ってしまった。
不破大地さんのその後は俺の耳には入ってきていないから分からずじまい。
俺は後悔の念に苛まれながらも、どうしようもなかったと自分自身に言い訳をする。
だって俺は死にたくなかっただけだ。
誰だって死にたくは無い。
それに俺は赤の他人よりも自分の母親の心配をするべきだ。
お母さんや俺自身も両親(俺にとっては祖父母だが)を無くしているのだ。
お母さんだって相当の心の傷を負っているのだ。
これは時間に解決してもらうしかない問題だが、一日も早く元気に笑って欲しいと切実に思う。
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