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戦国異伝

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第二百九話 もう一人の龍その九

「都の内外の寺社はな」
「比叡山や高野山」
「そういった場をですか」
「兵と荘園はなくした、正しい意味で信仰が戻ればじゃ」
 それでというのだ。
「国を守る結界になるな」
「そういえば殿は」
 柴田が問うて来た。
「都への道を守る為にも」
「そうじゃ、東からの道をな」
 まさにそうだとだ、信長も柴田に答えた。
「守る為にもじゃ」
「安土城を築かれましたな」
「結界としてもな」
「だからああして誰も使わなくなった墓石や地蔵を集め」
「城の石垣にもしておるのじゃ」
 これこそが信長の考えであった。
「そしてな」
「そのうえで」
「城そのものを結界としておるのじゃ」
「都をよからぬ者から護る為の」
「北ノ庄城もな、そして大坂城もじゃ」
 これから築くこの城もというのだ。
「護る為じゃ」
「都を」
「その意味もあってじゃ」
「築かれるのですか」
「何かそうせねばならぬと思う」
 直感的にだ、信長は感じ取っているのだ。
 それが為にとだ、彼は言うのだ。
「天下を護る為にな、そして関東にも」
「関東もですか」
 今度は滝川が信長に問うた。
「この地にも」
「江戸の北東に何か置きたい」
「江戸城のですか」
「そうじゃ、江戸の町が出来たら多くの寺社を置きたい」
 関東にもというのだ。
「そして特にじゃ」
「北東にですか」
「置く、場所は日光か」
 この場だというのだ。
「寺社を置きたい」
「そしてそこから」
「そうじゃ、護る」
 江戸もというのだ。そしてここで信長はこうも言った。
「しかし江戸は難しいことがある」
「風が強いですな」
 丹羽が言って来た。
「ここは山がないので」
「うむ、しかも空気が乾きやすい」
「それで風が強ければ」
「冬は特にな」
「火事が起こりますな」
「そうじゃ、火事が起これば厄介じゃ」
 このことがわかっているが故にだった。
「その備えをしておくか」
「江戸城を築くにあたり」
「天下を護るものが火にやられては元も子もない」
 こう考えているが故にだった。
「だからな」
「ここは、ですか」
「火から城とその周りを護ることも考えておこう」
「城を築く前から」
「そうしておこう」
 こうした政の話もしつつだ、信長は軍勢を率いて佐竹の領地の中を進みその境まで来ていた、このことは政宗の耳にも入っていた。
 政宗はその報を聞いてだ、こう言った。
「そうか、数は十万か」
「はい、率いている将はです」
 報をする旗本が政宗の前で述べる。
「織田信長、そして織田家の主な将が揃っております」
「それでか」
「そうです、その軍勢がもう伊達と佐竹の境まで来ております」
 こう言うのだった。 
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