美しき異形達
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四十九話 一時の別れその六
「あくまでな」
「どういうことかしら」
「こうしたらどうだい?」
薊は再び炎を宿らせた、それは棒だけでなく。
全身だった、全身に紅蓮の炎を纏い。
それで己の周りの網を攻めた、すると。
それまで薊を完全に封じ込めていた網が全て燃えた、そしてバチバチと焼ける音と共に黒い消し炭のの姿を変えて薊の足元に落ちた。
そして槍はだ、薊はすっと一歩後ろに下がって。
かわした、逆さに落ちた槍は虚しく地面に刺さった。
その槍を右手で掴みそれもまた焼いてからだ、薊は怪人に告げた。
「予想通りだったな、あたしの」
「そうして焼くとはね」
「力を全部出させてもらってるよ」
怪人にこうも告げたのだった。
「今のあたしはさ」
「そしてその全力で」
「あんたの網と槍を焼かせてもらったぜ」
「そういうことね」
「あんたは確かに普通の植物より火に強いさ」
薊もこう言う。
「けれどあたしの最大の力を出した炎にはな」
「負けるというのね」
「あたしの今の炎は鉄さえも焼く」
植物はおろかだ、見れば足元の線路が赤くなり曲がりかけている。
「それならだよ」
「幾ら私でも」
「そうさ、無理だろうな」
「さて、それはどうかしら」
怪人は薊の言葉にも笑って返した。
「私もまだ切り札があるわよ」
「蔦はもう使ったからな」
薊は怪人の言葉から察して言った。
「次は、か」
「わかるみたいね」
「わかるさ、あんたは野薔薇だからな」
「そこからわかったのね」
「奇麗な薔薇には刺がある」
このことからの推察だった。
「そう、刺にな」
「その奇麗な部分がよ」
「あんたの次の、最後の切り札だよな」
「そうよ、これがね」
怪人はここでだった、その周りに。
無数の紅蓮の花びら達を出した、それが乱れる雪の様に舞ってだった。
忽ちのうちに薊の周りを覆った、その花びらのあまりもの多さにだった。
薊は視界を奪われた、勿論怪人もその中に消えている。
そのうえでだ、怪人の声が薊に問うた。
「さあ、これがね」
「あんたの最後の切り札ってことだよな」
「幾ら炎が強くとも」
「姿が見えないとな」
「どうしようもないわね」
こう薊に問うのだった。
「その通りね」
「まあな、ただこの花びらは」
「毒はないわ」
怪人はそれはないと答えた。
「花びらに触っても切られはしないわ」
「花自体は安全ってことか」
「そうよ」
その通りだというのだ。
「そのことは安心してね」
「そうか。けれどだよな」
「そう、けれどよ」
それでもという怪人だった。
「見えなくなっているわ、しかもね」
「結構音がするな」
花びら達が乱れ飛ぶその音もした、それで耳を利かそうにもだった。
「これじゃあな」
「耳でもわからないわよ」
「匂いもな」
花もだった。
ページ上へ戻る