劇場版・少年少女の戦極時代
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ドライブ&鎧武 Movie大戦フルスロットル
神と女神の旅立ちを邪魔したのは誰か?
――宇宙にまで飛び出したメガヘクスとの決戦も、仮面ライダードライブの力を借りて無事勝利を収めた。
地球に再び平和が戻ったのだ。
紘汰と舞は鎮守の森のご神木の前に並んだ。
紘汰は進ノ介と握手を交わした手を見下ろした。
ほんの一時の共闘でも、警察官で市民の味方で熱い心を持つ泊進ノ介を、紘汰は大きく信頼していた。
この街に戒斗たちがいるように、地球には進ノ介という“仮面ライダー”がいる。だから紘汰は安心して、元の惑星に帰れる。
彼らに任せておけば、この世界は大丈夫だと信じられる。
「いいの、紘汰? みんなにお別れ言わなくて」
「……いいんだよ。俺たちが地球に長居するわけにはいかないし」
会ってしまえば別れがたくなる。別れの辛さに地球に残りたくなる。紘汰はそんな自分の心を自覚していた。
紘汰は舞とご神木に向き直り、新しい惑星へのクラックを開こうとした。
「おい! また黙っていなくなる気かよ」
驚いてふり返った。
ザック、凰蓮、城乃内。それに光実に貴虎に、ヘキサまで。
「本当に水臭い子たちよね」
「こっちは散々迷惑かけられたんだ。なんかこう……言うこと、あるんじゃねえの」
せっかく格好つけたのにバレバレで、でもどこかでこんな展開を期待していた自分がいた。もう乾いた笑いしか出て来ない。
「紘汰さんと舞さんが考えることなんて最初からお見通しです。だって僕たち、チームじゃないですか」
「お前の負けだ、葛葉。付き合え。別れを惜しむくらいの時間はあるだろう?」
「ここで、それでも帰る! なんて言う人じゃないですよね? 葛葉さんも高司さんも」
ああ――と紘汰は心中で嘆息した。こんなもの、勝ち目などない。
紘汰は舞を見た。舞は満面の笑みで肯いた。舞も紘汰と同じ気持ちなのだと分かった。
紘汰は舞と手を繋いだ。光がふたりを包み、人間だった頃の姿へ変えた。
人間に戻ることはできない。外装を取り繕うことしかできない。
それでも、みんなが笑ってくれるから。
紘汰は舞と共に、笑いかける仲間たちのもとへ歩いて行った。
神木が立つ森の中央から少し離れた木々の間。
駆紋戒斗は両手を赤と黒のコートのポケットに入れ、幹の一本にもたれていた。
同じ幹の裏側で、しゃがんで嗚咽を上げ続けているのは、室井咲だ。
「行かなくていいのか」
「だって! …今出てったら泣いちゃうもん…泣いてるの、見られたくない、もん…!」
「そうか」
咲は何度も何度も手の甲で目元をこすっては、懸命に涙を止めようとしている。
泣き顔ではなく笑顔で紘汰の前に出るために。
他でもない紘汰に最高の笑顔を見せるために。
――果たして、咲にとって、泣き顔を見せたくない相手と、泣き顔を見られても平気な相手なら、どちらが真に想う相手なのだろう。
(馬鹿な考えだな)
戒斗は幹にもたれ直し、目を伏せた。
せめて咲が泣き止んで人前に出られる顔になるまでは、近くにいてやってもいい。
そう思う程度には、駆紋戒斗は室井咲に心を許している。
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