| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

山本太郎左衛門の話

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

4部分:第四章


第四章

 その日はそれで終わりであった。特に何も出ることはなかった。
 翌日は子の時であろうか。行灯が急にその姿を変えた。
「また行灯か」
 平太郎は行灯に目を向けた。見れば木から見る見るうちに石になっていく。
「妙なこともあるものじゃ」
 三日目なのでいささか落ち着きを持っていた。そしてその行灯が石になっていくのを見守った。
 やがて行灯は石塔になった。そしてその場に立っていた。
「ふむ」
 蝋燭はその中にある。先程と変わらず部屋を照らしている。
 すると今度はその火が激しく燃えだした。昨日と同じか、と思ったが違った。
 石塔は火に包まれた。そしてその全てが包まれると今度はまた行灯になった。
「これはまた面白い余興じゃ」
 自分に危害が及ばないせいもあり笑って見ていた。寝転がり酒をちびちびと舐めている。暫くすると天井がピクリ、と動いた。
「今度は天井か」
 ふと上を見ると青く丸いものがあった。大したことはないと思いその時はそのまま眠りに入った。
「やれやれ」
 蚊帳の中に入る。そしてそのまま床についた。
 暫く眠った。だが何やら声がする。それで目が醒めた。
「さては」
 出たな、と思い刀を手に蚊帳を出る。障子の向こうから女の声がする。
「女怪か」
 一昨日は大入道であった。ならば今日は何か。
「鬼婆でも出て来るかの」
 冗談混じりにそう言った。だが声が若いのでそれはないと思い直した。
 障子が一人でにあいた。そしてそれが中に入って来た。
「!」
 それを見て流石の平太郎も思わず息を飲んだ。それはまた何とも異様な化け物であった。
「けけけけけ」 
 それは女の首であった。逆さになっており首の切り口から血とはらわたを少し出している。
 そしてその長く黒い髪を使い歩いている。おそらくそれで障子を開けたのであろう。
「また奇怪なものが出て来たものじゃ」
 首はよく見れば整った顔をしている。だがその顔は青白く目はこちらを奇妙な形で見下ろしている。それがやけに癪に触った。
「むん」
 平太郎はそれを感じすぐに刀を一閃させた。それでこの面妖な物の怪を成敗するつもりであった。
 だがそれは適わなかった。首は髪を使い後ろに跳び退いたからであった。
「甘い甘い」
 首は平太郎を笑いながらそう言った。そしてその髪に力を込めた。
「来るか」
 今にも跳びかかって来そうであった。彼はもう一度刀に手をかけた。
 だが首は平太郎に隙がないのを見て迂闊に動きはしなかった。しかし隙を窺い続けている。
 そうしている間に時間だけが過ぎていく。やがて夜が明けてきた。
 鶏の声が聞こえてきた。すると首は音もなくすう、とまるで煙の様に消えていった。
「終わったか」
 平太郎は鶏の声とその首が消えたのを見てようやく一息ついた。見れば障子の向こうがもう白くなっている。
 とりあえず寝ることにした。そしてとりあえずは疲れを癒すことにした。
「疲れていては何もできぬ。まずは休むとしよう」
 そのまま寝転がると暫し眠った。
 日が高くなる頃に目が醒めると何やら騒がしい。表を見てみると何やら人が大勢集まっている。
「どうしたのじゃ」
 平太郎は早速彼等に声をかけた。
「おお稲生様」
 彼等は平太郎の顔を見ると興味ふかげに彼の顔を見た。
「ご気分は如何ですか」
 そして彼に問うてきた。
「気分とな」
 彼はそれを聞き少し面妖そうな顔をした。
「よくはないが」
 やはり化け物や怪異に三日続けて遭うと落ち着いてはいられなかった。だがそれはできるだけ顔には出さなかった。
「何やら色々とおありのようで」
 彼等はどうやらこの屋敷の噂を聞いて来たようだ。興味本位であるのが一目でわかった。
「まあのう」
 彼もそれを否定するつもりはなかった。あっさりとそれを肯定した。
 そして彼等を家の中に入れた。外で話をするのも気が引けたからであった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧