戦国異伝
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第二百八話 小田原開城その九
「実はな」
「どういう意味でしょうか」
「言ったままじゃ。まあとにかくな」
「とにかく今は、ですな」
「動く時ではない」
そうだというのだ。
「このまま見ておくぞ」
「ううむ、では」
「まあ案ずるな、わしも動く」
それは絶対だというのだ。
「その時を待っておるのじゃよ」
「今も織田家の家中ではです」
「殿は殆ど誰も信じておりません」
「柴田勝家をはじめとして」
「隙あらば殿をです」
「除こうとしています」
そう見ているというのだ。
「どの者も」
「織田家のことを考え」
「殿のこれまでの行いを知っているからこそ」
「だからこそです」
かつての主家三好家を衰えさせ将軍を弑逆し奈良の大仏殿を焼いただ。そうした彼のこれまでの行いを見てというのだ。
「必ず裏切るとです」
「そう思っていてです」
「そして、です」
「隙あればです」
「殿の御首を狙っています」
そうだというのだ。
「そんな中ですぞ」
「居心地がいいとは思えませぬし」
「実際我等もです」
「謀反を起こしてもです」
「別に何もないでしょう」
「そこまで警戒されていて何故謀反を起こすのじゃ」
逆説的にだ、松永は返した。
「そこで謀反を起こしてもじゃ」
「相手が待ってましたとばかりですか」
「滅ぼしてくる」
「だから、ですか」
「ここは」
「待たれている時は動かぬ」
そうだというのだ。
「それで動くのは愚かじゃ」
「だから機を見ている」
「そうなのですか?」
「殿のお話を聞いていますと」
「そう思えてきましたが」
「まあそうじゃな、今はどちらにしても動かぬからな」
それは間違いないというのだ。
「だからな」
「それでは」
「今は、ですか」
「まだ動かないと」
「様子を見ているだけですか」
「そういうことじゃ。とにかく今はここにおる」
織田家、その中にというのだ。
「青のままでおるぞ」
「その青もです」
「織田家の色も」
「我等にとってはです」
「いいものではありませぬ」
「胸が悪くなります」
そこまでの色だというのだ、彼等にとっては。それはまるで彼等の色ではないかの様なそうした言葉であった。
だからだ、また言ったのだった。
「本来に戻りたいですが」
「早いうちに」
「しかし殿がそう仰るのなら」
「そうお読みならば」
「うむ、まだ我慢してもらう」
青の服や具足を身に着けることはというのだ。
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