妖精の義兄妹の絆
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ピンチとチャンス
空には三つの月が登っている。かと言って今が夜というわけではない。
このエドラスでは昼間でも月が登っているらしい。
そして、妖精狩りから間一髪のところで逃げる事ができたエドラスの妖精の尻尾。
今はある砂漠にギルドを構えていた。
「つーと何か?
おまえらはアースランドとかいうもう一つの世界から仲間を救うためにこの世界に来たってのか?」
「そっちの世界にも妖精の尻尾があって…。」
「そっちじゃエルザは味方だって?」
「ざっくり言うとね。」
「あい。」
タクヤたちはこのままエドラスの妖精の尻尾のみんなに嘘をついたままではいかなくなり、
自分たちの正体とエドラスに来た目的を説明した。
ざわざわ
「どうにも信じがてぇ話だが…。」
「確かにこのナツはオレたちの知ってるナツじゃねぇしな。」
「この子がそっちの世界の私…!!?」
エドウェンディはアースウェンディを見て驚いていた。
「ど…ども。」
「ぷっ!!!小っちゃくなったなウェンディ。」
「バカヤロー!!これからエドウェンディにも負けないナイスなバ…、」
バチィィン
またもやタクヤは全てを言い切る前にエマに叩かれた。
「いい加減にしなさい。」
「だ、大丈夫…?」
「…そう見えるか?」
「つー訳で王都への行き方を教えてほしいんだ。」
ナツがそう言うとみんなはざわつき、やがて黙ってしまった。
「私たちの仲間はこの世界の王に吸収されちゃったんです。早く助けに行かないとみんなが“魔力”に…
形のないものになっちゃう。」
ウェンディが涙を堪えながら頼むとエドウェンディが口を挟んできた。
「小っちゃい私には悪いけどさ、やめといた方が身の為よ。エドラスの王に刃向かった者の命はないわ。
それほど強大な王国なの。」
「この世界じゃ魔力は有限。いずれ無くなるものなんだ。」
「それを危惧したエドラス王は魔法を独占しようとした。だよね、ジュビアちゃん。」
コクッ
グレイの言ったことに素直に頷いた。
「結果…全ての魔道士ギルドに解散命令が出された。」
「それでも仲間のピンチに助けに行かねぇ訳にはいかねぇんだよ!!!」
「そんなのわかってるよ。初めのうちはみんな抵抗したさ。」
「けど、王国軍魔戦部隊の前に次々潰されていって…。」
全てを言い終わる前に思わず涙を流す。
「残るギルドはここだけ。もちろんオレたちだって無キズじゃない。」
「仲間の半分を失った…。」
「マスターだって殺されちまった。」
「そんな…。」
エドラスの妖精の尻尾を初めて見た時には想像もつかないような話だった。
「逃げるのが精一杯なんだよ。」
「だから近づかん方がいい。元の世界とやらに戻りな。」
「…ダメだ。」
「「!!」」
タクヤの一言にみんなが静まり返った。
「仲間を助けられるのはオレたちしかいねぇんだ。頼む!!道を教えてくれ。
オレたちは仲間を助けるんだ!!!!絶対にな!!!!」
ポカーン
エドラスの妖精の尻尾は信じられないと言った顔でタクヤを見つめていた。
一方、ここはエドラス王都。アースランドとは異なる建築概念があり、複雑な構造をしている。
「スゲェよ!!見たかエルザ。あのでけェ魔水晶。」
一人の男が目の前に浮いている巨大魔水晶を見て歓喜を上げていた。
「来る時見たよヒューズ。キレイなモンだな。」
「あれは何万ものアースランドの人間の魔力なんだぜ。」
ヒューズと呼ばれた男はとにかく嬉しいようでテンションが最高潮に達しようとしている。
「んー正確には魔導士100人分くらいの魔力とその他大勢の生命というべきか。」
隣でシュガーボーイが正確な情報を伝えた。
「細けェ事はいいんだぜ?シュガーボーイ。オレが言いてェのはとにかくスゲェって事さ。」
このヒューズもまた王国軍第三魔戦部隊隊長を務めている強者だ。
「いいか?オレの言うスゲェはハンパなスゲーじゃねぇ!!!超スゲェって事。」
「んー超スゲェ。」
子供のようにはしゃいでいるヒューズをシュガーボーイは大人の対応で返していた。
「エルザしゃん。妖精の尻尾はまだやれんのでしゅかな?」
背後から薄気味悪い声が聞こえてきた。振り向くとそこには腰を曲げ、不気味な笑みを浮かべた老人がいた。
「バイロ。」
「ぐしゅしゅしゅ。妖精狩りの名がすたりましゅなァ。残るギルドはもはや妖精の尻尾のみ。
確かに一番逃げ足の速いギルドでしゅがね、陛下はそろそろ結果を求めておいでだ。」
この老人の名はバイロ。王国軍前幕僚長で主に兵器の開発や薬品の研究に携わっている。
さらには作戦を練ったりとかなりの手馴れだ。
「そう慌てんな。女神が妖精を狩り尽くす日は近い。」
「そうだよ。エルザの剣はスゲェっつーかスッゲェんだョ。」
「ぐしゅしゅしゅ。」
「その不気味な笑いはやめろ、バイロ。」
「!!」
バイロの後ろから巨体の男…ならぬ猫が現れた。
「パンサーリリー。」
「うるせぇのは好きじゃねぇ。ヒューズ、おまえもだ。」
パンサーリリーと呼ばれたこの猫は王国軍第一魔戦部隊隊長である。
リリーは同じくうるさかったヒューズにも忠告した。
「オレもかヨ!?てめ…自分が一番スッゲェとか思ってんべぜってー。」
「少しは口を閉じろ。」
そう言い残してリリーは先を急いだ。
「んー機嫌悪いねリリー。」
「フン。」
「最近の軍備強化が不満らしいな。」
「軍人なら喜ぶトコなのになァ。」
シュガーボーイはあごひげを扱いながらリリーを見送る。
「しかし、我が国はほぼ世界を統一した。これ以上軍備を強化する理由が見当たらないのも事実…。」
「んーまだ反抗勢力が少しは残ってるからじゃねーのか。」
「それなら私たちだけで十分だろ?」
「わかんねっ!!!スッゲェ難しい話してるだろ!?ぜんぜんわかんね!!」
ヒューズが頭を抱えている背後でバイロだけが薄気味悪い笑みを浮かべた。
そしてここは王の間。広い空間には柱のみが立っておりそれ以外は玉座しかない。
そこに慌ただしく走ってきた一人の少女がいた。
「陛下ー!!!!予定通り4日後にはあの巨大魔水晶から魔力を抽出できるとの事です。やりましたねっ!!!!」
この少女は王国軍幕僚長補佐のココ。主にバイロの補佐と王への情報伝達が仕事だ。
王は長いヒゲをさきながら何かを考える。
「足りんな。」
「!ほへ?」
ココにはその言葉を聞き取ることができなかった。
そして、突然走っていってしまったかと思いきやすぐさま戻ってきた。
「陛下…今、何と?」
「あれでは足りぬと言っておる。」
「お言葉ですが陛下ー!!!あの魔水晶はアースランドの魔法都市一つ分の魔力なのですよー。
この先10年相当の我が国の魔力として利用できるのですよー!!!」
そう言いながらその場をぐるぐる回っている。
「我が医大なるエドラス王国は有限であってはならぬのだ。」
ピタッ
王が重い腰をあげながら続ける。
「よこせ…。もっと魔力をよこせ…。
わしが求めるのは永遠!!!!永久に尽きぬ魔力!!!!」
エドラス国王ファウストは天井に手をかざした。
ウゲロ…ウゲロ…
「ヒソヒソ…よしいくぞ…。」
コクッ
タクヤとナツは目の前のカエルに警戒されないように近づき…。
「とらぁ。」
ガバ
一気に飛びついた。
ウゲロ
ピョン
「行ったぞタクヤ!!」
「おう!!」
カエルの逃げた先にはタクヤが待ち伏せていた。
「おりゃっ。」
ウゲロ
ピョン
「「待てー。」」
タクヤも軽々逃げられ、もうやけくそ気味でカエルを追い続けた。
「何やってんのよアンタたち…。」
「お兄ちゃん…。」
その様子を離れた所で見ていたウェンディたちは再度目的地を確認するためエドラスの地図を見た。
「王都まではまだまだかかるのかな。」
「さっき出発したばかりじゃない。」
「5日はかかるって言ってましたね。」
現在地から目的地の王都に付くまでにはいくつかの街を通らないといけないらしい、
「なんか翼の調子も悪いし、歩いていくしかないわね。」
「私たち魔法を使えなくなったんでしょうか?」
このエドラスでは魔力を行使するにもアースランドとは異なるためエマたちは魔力を使えないでいた。
「わからない…。先が思いやられるわ。」
「ハッピー手伝ってくれ!!見た事ねぇカエルだぞ!!!これルーシィへのおみやげにしようぜ!!」
シャルルたちが深刻な事態に陥っているのにも関わらずナツたちはカエルを捕まえようとしていた。
「はぁ!?コイツは食うに決まってんじゃねぇかよ!!」
「オイラどっちもやだな。」
「それっ。」
ボニョン
「んがっ。」
ナツがカエルに飛びかかったその時、目の前に大きな弾力のあるものにぶつかった。
「!!」
ズゥゥン
それは先ほどまでタクヤたちが追っていたカエルと同種だった。ただ、サイズはタクヤたちの数十倍である。
「でかーー。」
「「どわーーーっ!!!!」」
「「きゃああああっ!!!!」」
「ウゲローー!!!!」
巨大カエルはナツに襲いかかる。
「ナツ!!襲いかかってくるよ!!!!」
ズザァ
「よーし!!!火竜の…。」
ナツがカエルを撃退するため拳に魔力を溜める。
だが、一向に炎は表れない。腕にいくら力を入れても火の粉すら出ない。
「魔法が使えねぇーーっ!!!!」
「「えぇーーっ!!!!」」
「うわーー。」
仕方なくカエルから逃走するナツたち。カエルも当然のようにナツたちを追う。
「どうなってんだ!!?」
「わ、私も!!!」
「オレもだ!!!」
「これがエドラスの影響なの!!?」
そんな事を言っている間に徐々に距離を詰められていく。
魔法が使えればこんな状況を簡単に切り抜けられたのにと、
タクヤたちは改めて魔法のありがたみを感じていた。
不意にタクヤが後ろを振り向くとカエルの背後に人影が見えた。
「ど…りゃあ!!!!」
バチィ
「ウゲローー。」
カエルは人影が放った鞭を食らい体を帯電させた。
「おぉ!!!」
ズドォン
カエルはその場に倒れ込んだ。そして、カエルの前に立っていたのはエドルーシィだった。
「怖いルーシィ!!」
「怖いルーシィさん!!」
「いちいち怖いとかつけんなっ!!!」
「アホなルーシィ?」
「てめぇ!!喧嘩売ってんのか!!!」
お約束の漫才をやったところでシャルルが不思議そうにエドルーシィに尋ねた。
「何でアンタが?」
「まぁ…その…この辺りは危険だしな。なんつーかその…。」
エドルーシィは少し照れくさそうに言うが歯切れが悪い。
「し、心配してるわけじゃねーからなっ。」
「なんだかんだ言ってもやっぱりルーシィだな、おまえ。」
「どんなまとめ方だよ!!!」
「そーゆーツッコミとか。」
だが、タクヤたちにとってはすごく頼もしい味方が出来た。
ただでさえ魔力が使えないのに仲間を助けるなんてほぼ不可能に近かったからだ。
「ついてきな。武器“まほう”も持たずに旅すんのは自殺行為だ。」
そして、エドルーシィに案内されるがままにタクヤたちは街を目指した。
数時間歩き、ようやくルーエンという街についた。
「ちょっと前までは魔法は普通に売買されていたんだ。
けど、王国のギルド狩りがあって今は魔法の売買は禁止されている。
それどころか所持してるだけでも罪になるんだ。」
エドルーシィがエドラスの現状について説明してくれた。
時折魔法屋を通り過ぎるがそのどれもが閉店してしまっている。
「つーか所持してるだけで罪って…元から使える奴はどーすんだよ?」
タクヤの質問にエドルーシィは呆気にとられていた。
「どう…って、魔法を手放せばいいだけだろ?つーか魔法を元から使える人って何だよそれ。」
「「…!?」」
今度はタクヤたちが呆気にとられていた。
「どうやらこっちの世界じゃ“魔法”は“物”みたいな感じらしいわね。」
「「物?」」
「魔力が有限という事は私たちのように体の中に魔力を持つ人はいないって事よ。
魔力を持つのは魔水晶等の物質。それを武器や生活用品に組み合わせる事で魔法の道具を造る。
その総称を“魔法”とくくってるみたいね。」
「なるほど。」
シャルルの説明通りならばエドラスの魔法はアースランドの魔法よりやや劣っているという事になる。
「こっちの魔道士って魔法の道具使うだけなのか?」
「着いたよ。」
エドルーシィが地下へと繋がっている階段の前で歩を止めた。
「この地下に魔法の闇市がある。旅をするなら必要だからね。」
「闇市…。」
「しょうがねぇ。この世界のルールにのっとって魔法使うか。」
「あい。」
「順応…早すぎません?」
そして、タクヤたちは闇市へと赴いた。
しばらく階段を降りていくと灯りがついている看板を発見する。エドルーシィはためらわずドアを開けた。
「おぉ!これはこれはルーシィ様。よくぞおいで頂きました。」
埃っぽい店のカウンターには店主と思われる老人が立っていた。
「よぉ、元気にしてたかい?」
「えぇおかげさまで。して、今日はどのような物をお求めでしょうか?」
「こいつらに良い物を頼むよ。」
エドルーシィが話を進める前からタクヤたちは棚に陳列された魔法を見ていた。
「おぉ…なんかかっこいいなこれ。」
「気をつけなよ。たまに使いもんにならないのも置いてるから買うときは慎重にな。」
とか言ってるうちにタクヤは店主に手に取った魔法を渡した。
「って人の話聞け!!!」
「これは海銃“オーシャンバレット”と言って水の圧縮弾で敵を撃つ魔法散弾銃です。」
店主の説明を受けたタクヤは海銃を構える。水色のフレームに一筋の藍色のラインが入っている。
すると、構えた瞬間に銃口からサークルが表れた。
「なんだこれ?」
サークルは構えた先にも表れている。
「それは弾道範囲“バレットサークル”です。
そのサークルの中にランダムで当たります。初心者にはピッタリな品物となっております。」
最後に満面の笑みできっちりとセールストークで占めた。
「じゃあこれでいいや。これくれ。」
「はいはい。」
「そういえば肝心な事聞くの忘れてた。お前ら金は持っているのか?」
エドルーシィは素朴な質問を問い掛ける。
「そんなもん持ってるわけねぇだろ。」
と笑いながらどこか誇らしげにナツは言った。
「私もポケットにビスケットが入ってるだけだし。」
とスカートのポケットからビスケットを取り出す。
「というか、なんでビスケット?」
「じゃあどうやって買うんだよ!!」
「ルーシィ払っといてくれよ。」
とさも当たり前のようにタクヤはエドルーシィに頼んだ。
(「こうやって上から言われるのも悪くないかも…。」)
心の中で何かしらの扉が開きかけた所で我に返った。
「仕方ねぇな。オヤジ、勘定頼む。」
「いえいえ!ルーシィ様からお金など頂けません。
先日、空き巣に入った泥棒から助けて頂いたのでこちらはそのお礼ということでよろしいです。」
「…いいのか?」
「こっちのルーシィは顔が広いんだな。」
「ですね。」
そうしてタクヤたちは魔法を購入した。ちなみにナツは封炎剣と呼ばれるもの、
ウェンディは空裂砲と呼ばれるものを選び店を後にした。
とあるカフェ。闇市を後にしたタクヤたちはそこに立ち寄っていた。
理由はエドルーシィがアースランドの自分について聞きたいと言ってきたからだ。
「あははははっ!!!!あーはっはっは。」
エドルーシィは年頃の女の子には見えないほど口を大きく開けて笑っていた。
幸いにも周りには誰もいないので迷惑はかかっていない。
「あたしが小説書いてんの?ひーっ。そんでお嬢様で…鍵の魔法使って…。あーはっはっは。」
「やかましいトコはそっくりだな。」
「やかましい言うな!!!」
人から言われると怒るなら辞めればいいのにとエマは心の中で思いながらコーヒーを飲む。
「さっき買ったコレ…?どう使うんですか?」
「バカ!!!人前で魔法を見せるな。今現在魔法は世界中で禁止されているって言っただろ?」
「ごめんなさい。」
ウェンディは空裂砲を懐に仕舞った。
「でも、元々魔法は生活の一部だったんでしょ?」
「そうだよ…。王国の奴等あたしたちから文化を一つ奪ったんだ。自分たちだけで独占する為に。」
「じゃあ、王国の奴等やっつければまた世界に魔法が戻ってくるかもな。」
あまりにも自然に言われたのでエドルーシィは最初は耳を疑ったが、
「そうだな。王様倒せばいいんじゃねぇか。」
「な、何バカな事言ってんだよ!!!王国軍となんか戦える訳ねーだろ。」
「だったら何でついてきたんだ。」
あまりにも痛いところを突かれエドルーシィはたじろんだ。
「王都までの道を教えてやろーと…た、戦うつもりなんかなかったんだ!!」
「そっか。ありがとな。」
ナツはエドルーシィに礼を言った。あまり聞かれ慣れてないのかエドルーシィは頬を赤らめる。
その時だった。
「いたぞ!!」
「「!!」」
「街の出入り口を封鎖しろ!!」
「王国軍!!?」
「えー!?」
タクヤたちの周りは既に王国軍によって囲まれていた。これでは逃げるのは困難だ。
「妖精の尻尾の魔導士だな!?そこを動くな!!」
「もうバレたの!?」
「うあぁぁ。」
「どうしましょう!?」
次第に距離を詰めていく王国軍。テラスにいた客たちもその場を去っていく。
「よーし!!さっそくさっき手に入れた魔法で…。」
ナツはテーブルの上を滑り王国軍の前に立ちふさがる。
「よっしゃぁ!!」
タクヤもテーブルに乗り上げ銃を構えた。
「よせ!!」
「いくぞー!!」
ナツは封炎剣の柄を引きリロードする。タクヤも弾道範囲を展開させ狙いを定める。
「「ファイアー!!!!」」
ブゴオォォォ バァン バン
封炎剣と海銃が王国軍に火を吹いた。
「シャルル!!これどうやって使うんだっけ!?」
「知らないわよ。」
ウェンディは魔法の使い方が分からずカチャカチャといじっている。
「はっはーっ!!!」
「へっへーっ!!」
辺りが土煙で尾覆われていたが次第に晴れていく。
「「あ?」」
土煙が晴れるとそこには盾を装備している王国軍がいた。つまりタクヤたちの攻撃は完全に防がれたのだ。
「んにゃろォ…もう一回!!!」
ガコン
ナツはさらにリロードしようとするが、
ふしゅー
「!!!」
出てきたのは先ほどの炎ではなく空気が抜けたような音だった。
「魔力は有限って言っただろ!!?全部の魔法に使用回数が決まってるんだ。」
「1回かよコレー!!!」
何度リロードしても空気が抜けるだけだった。
「出力を考えれば100回くらい使えたんだよ!!!」
「捕えろーっ!!!」
「「オオオーッ!!!」」
バァン バン
「ぐはっ。」
迫りかかる王国軍をタクヤが何とか塞き止めるが、その勢いは衰えを見せなかった。
「このままじゃ捕まっちまうぞ!!」
「マズイよ!!!」
「えーとえーとっ!!」
ガチャガチャ
まだウェンディは空裂砲をいじっていた。
すぽぉん
すると空裂砲が二つに外れた。中から風が吹き出す。
だが、
ドゴォォォッ
空裂砲を限界まで開けてしまった事によって竜巻が発生し、タクヤたちを巻き込んだ。
「何したウェンディー!!!」
「ごめんなさ〜い。」
「「うあああ。」」
次第にタクヤたちは近くの納屋に落ちた。結果的に王国軍から逃げられたので良しとすることにした。
「あの先だ!!何としても捕えろ!!!」
「「はっ。」」
しばらくしてエドルーシィは納屋の穴から外の様子を伺う。
街のあちこちに王国軍が血眼になってタクヤたちを探していた。これでは迂闊に外に出られない。
「何とかまけたけどこのままじゃ街に出れないよ。」
「不便だなァ、こっちの魔法。」
「ですね。」
エドラス魔法を使いこなせなかった二人ははっきりと言って戦力になっていなかった。
(「これ使えるな。帰ってからも使お。」)
タクヤは海銃を気に入りホルスターにしまった。
「どうしよう。」
「別の出入り口ない?」
「難しいな。」
「いたぞ!!妖精の尻尾だ!!」
ギクッ
納屋に隠れているのがバレたと思いタクヤたちは息を呑んだ。だが、扉からは誰も攻めてこなかった。
「「あれ?」」
不思議に思い扉を少し開けて外を見た。
「こっちに来い!!」
「放してよォ。」
そこにはタクヤたちの知っているアースランドのルーシィがいた。
「おまえはルーシィだな。」
「確かにルーシィだけど何なの一体!?」
「「ルーシィ!!?」」
「あたし!!?」
タクヤたちはこの場にいるハズのないルーシィの登場に驚いた。
「痛いってばー。」
「何でルーシィがここに…。」
「ど、どういう事!?」
「助けねーと!!!」
バッ
ナツは納屋を飛び出しルーシィの所へ翔けた。
「オイ!!」
「もぉ。開け…天蝎宮の扉、」
ルーシィはホルダーから鍵を取り出し魔法を使おうとする。
「ルーシィさん!!こっちの世界じゃ魔法は使えないんです!!」
ウェンディがそう呼びかけるのが遅かった。ルーシィはそのまま叫ぶ。
「スコーピオン!!!!」
普通なら叫んでも鍵は魔力を放つ事などない。だが、ルーシィの鍵は神々しく光り出す。そして…
「ウィーアー。」
「「!!」」
そこに天蝎宮の星霊スコーピオンが現れた。
「サンドバスター!!!!」
ズザザザン
「おおおおお。」
「うあああ。」
「ぎゃあああ。」
スコーピオンから放たれた砂嵐により王国軍が次々に吹き飛ばされていった。
「魔法!!?」
「ウソだろっ!!?」
「何で!!?」
「こ、これは…。」
アースルーシィがここにいるのにも驚いたが魔法まで使えるのにも驚きを隠せなかった。
「ルーシィ!!!!」
「!!みんな!!!会いたかった〜〜っ!!!」
アースルーシィがタクヤたちに気づき駆け寄ってきた。
「何がどうなってんだ…。」
するとやはり気づいたかアースルーシィがエドルーシィを見つめる。
「あたしーーーっ!!!!」
「ま、まさかこいつがアースランドの。」
ドドドドド
そう話している内に王国軍が立て直し、タクヤたちを追ってきた。
「話は後回しみたいだね。」
「ナツ!!早くやっつけて!!」
アースルーシィはいつもののりでナツに指示を出す。
「オレたち魔法使えねーんだ。」
「えーーっ!!?」
「おまえはなんで使えんだよ!!!!」
「知らないわよ!!!!」
もめている間に王国軍は迫ってきている。
「ルーシィ!!お願い!!!」
「あいつらをやっつけて!!!」
「お願いします!!!」
「ルーシィさんしか魔法使えないんです!!」
みんなから頼まれるのがそんなに嬉しかったのか頬を染め自分の立ち位置を再確認する。
あたし以外魔法使えない→…
「もしかして今のあたしって最強?」
「「いいから早くやれ!!!」」
ルーシィが明後日の方向を見ていたが緊急事態のためすぐに戻らせる。
「開け…白羊宮の扉…アリエス!!!!」
ボォォン
「あ、あの…がんばります…。」
アースルーシィはアリエスを召喚する。それを見てエドルーシィと王国軍が驚く。
「アリエス!!あいつら倒せる!?」
「は、はい!!やってみます!!」
そう言ってアリエスは王国軍の前に出た。
「ウールボム!!!!」
もこぉん
アリエスは巨大な羊毛を出し王国軍を飲み込んでいった。
「あ〜ん♡」
「やさしい〜。」
「気持ちいい〜。」
「あふ〜ん。」
心なしか王国軍は苦しんでいる顔ではなくどこか嬉しそうな顔をしていた。
「あれ?」
予想していた倒し方とまったく違う結果になった。
「みんな今のうちよ!!」
ウールボムに閉じ込められたらしばらくは身動きはとれない。
「アリエス!!サンキューな!!」
「いえいえ…。じゃあ、私はこれで失礼します…。すみません。」
ボォォン
そう言い残してアリエスは星霊界に還った。
「ナイスルーシィ!!」
「ああ♡あたしも気持ちいいかも〜。」
「これがアースランドの魔法…。」
タクヤたちはルーエンの街を出て近くの森の中に身を隠した。ここまでくれば追っ手の心配もないだろう。
落ち着いた所でアースルーシィはなぜエドラスにいるのか、
どうやってここまで来たのかタクヤたちに説明する。
「…という訳でアニマが街をのみ込む瞬間ホロロギウムが助けてくれたの。
空間の歪みを感じたとか言ってね。一時的に別空間にかくまってくれたみたい。
それで何もない広野に一人取り残された訳だけど、そこにミストガンがやってきた。」
「ミストガン!?」
「で、事情を聞かされ一方的にこっちの世界に飛ばされたの。」
アースルーシィは概ね説明を終えると一息つく。
「あいつは何者なんだ。」
「何も言ってなかったわ。」
「なんでルーシィだけこっちの世界で魔法が使えるんですか?」
エマが素朴な質問をアースルーシィに投げかける。
「うーん…。もしかしてあたし…伝説の勇者的な、」
「無いな。」
「いじけるわよ。正直わかんないわよ。ナツとタクヤが魔法使えないんじゃ不利な戦いになるわね。」
確かに今の戦力を考えても仲間を助け出すのはかなり厳しい。
そんなやりとりをエドルーシィは黙って聞いていたがしばらくして口を開いた。
「てめーら、本気で王国とやり合うつもりなのか?」
「とーぜん。」
「仲間の為だからな。」
「本当にコレあたし?」
エドルーシィは腕を組み厳しい顔になる。
「魔法もまともに使えねーのに…王国と…。」
「ちょっと!!あたしは使えるっての!!!
ここは妖精の尻尾(現)最強魔導士のあたしに任せなさい!!!!燃えてきたわよ!!!!」
アースルーシィは立ち上がりガッツポーズで答えた。
妙に張り切っているアースルーシィに若干引き気味だが。
「情けねぇが…。」
「頼るしかないみたいだな。」
「そうね。」
「あい。」
「がんばれルーシィさん!!」
その様子を見ていたエドルーシィは驚いていた。
(「不思議な奴らだ…。こいつらならもしかして…本当に世界を変えちまいそうな…
そんな気がするなんて…。」)
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