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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道

作者:司遼
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第三十話 真剣の意味

 
前書き
04話 邂逅 をだいぶ書き直しました。こっちの方がいいかなと思って 

 
一大戦術機整備工場である瑞穂工場を巡る一向、そして戦術機の機体整備工場から戦術機から取り外された管制ユニットの整備地区へと移動していた。
そして幾つもの厳重なセキュリティーロックの分厚い鋼鉄の扉、その最後が開かれた。

「―――タイム-4秒!新記録です!」

歓声、オペレーターが告げたその言葉に周囲の研究員や職員が一斉に喜び湧きだった。

「大尉すごいですね、まさか操縦桿を変更しただけでこれとは……!」
「ああ、結果は上々だな。」

「素晴らしいですよ。まさか操縦桿に操縦桿をつけるとは正に発想の開拓だ!」
「いや、まだ足りない。もっと機械に任せるべき部分と人間が担うべき部分を選り分けて連携させるんだ―――何でもかんでも機械に任せればいいという訳ではない。その逆もまた然り。」

シミュレーターと管制室を見渡せる指令区画、其処では青を身に纏う隻腕の男性士官が白衣の壮齢の男性と言葉を交わしていた。

戦術機の自律制御を初めとして各種兵器が自動化・高効率化されてゆく中で時代に逆境……とは往かないまでも、機械に人間の能力を引き出させるという発想はある意味斬新だった。


「なかなか白熱しているな。」
「……真壁か。―――ん?」


青を纏う隻腕の青年が振り返る―――その大きな裂傷が走る顔に清十郎は見覚えがあった。

「え……柾さん?」
「久しいな清十郎、それに甲斐。」

青き隻腕の修羅武士は悠然と答えるのだった。



10年前―――1991年。
空を切る竹刀が空中で衝突する。それに合わさる踏み込みが道場の床を打ち鳴らす
防具を付けた二人の少年が激しく攻防を入れ替えながら竹刀の鎬を削り合っていた。


「ふむ、剣道しか経験のない割に助六郎相手によく戦っている。」
「父上、それはそんなに凄いことなのですか?」

「うむ。スポーツとして定着してしまった剣道はきれいすぎる。また、昇段審査の時ぐらいしか型稽古をせぬ。そんなもの演劇と変わらぬ、茶番だ。
それと竹刀では傷にならぬからな、体当たりで当たり所を外すだけで有効打突とは成りえぬし、軽いから刀身を往なすのも楽よ。」

「なるほど……」

二人の少年の試合を見つつ父、零滋郎の言葉に得心を持つ清十郎。
竹刀の扱いに慣れていない剣術家の場合、竹刀だと間合いが狂う。しかし、剣道家相手の場合であれば必要とされる力の入れ方が根本から異なるため、重い真剣を扱うことが前提の剣術家の剣を一切の考慮なしに受け止めればそれだけで竹刀を弾き飛ばされるか、体ごと吹き飛ばされる。

―――だというのに、それを真っ向から打ち合える。それだけで凡百ではないという事だ。


「ふっ、ギラついておる、良き目じゃ。……才能があるな。」
「才能……ですか?」

「おうよ、見てみよ。彼奴め、攻防のさなか助六郎の守りの癖を監察しておるわ。」
「……よく分かりません。」

「ふむ、そうか……清十郎、覚えておくがよい。どのような形であれ戦う者にとって必要な才能とは飽くなき執念と真実を見抜く力よ。
 それは医者だろうが研究者だろうが軍人だろうが教師だろうが変わりはせん。戦いの形が違うだけよ。」
「執念と真実を見抜く力……」



清十郎が父の言葉を追い呟いく。
才能とは単純に数値化できる能力ではない、一つの情報から十を知り、難解なパズルの欠けた一欠けらを無数の擬きの中から見つけ出す観察眼と真偽眼。

そして、障害程度で挫けぬ執念。
執念と能力、その二つが揃ってこそ才能は才能たり得る。
執念なき能力はただの怠惰となり、能力なき執念はただの暗愚だ。


「見ておれ、もう間もなく決着がつくぞ。」


「はぁっ!!」

ダンっ!と地面を強打する踏み込みそれに載せて鋭い刺突が兄と対峙する少年へと向かう。
少年は竹刀の切っ先を根本で横に流しながら後退する。
しかし、道場は何処までも下がれるというものではない。

「てやぁああああああああッ!!!!」


その後退が止まる一瞬をついて、竹刀を横に流された勢いを回転力に変えて助六郎が面を放つ。
その時だった。


「――――ッ!?」

助六郎の面の一刀は殴り弾かれた、少年が竹刀から離した右腕の小手で外へと打ち払ったのだ。
その下から往なし、そのまま少年は素早い体捌きで助六郎の側面を一瞬で潜り、背後へと回る。

即座に踏み込んだ右足を軸に体を反転させる助六郎。その瞬間だった。
「―――!!」
「っ!?」

首への衝撃、まるで短槍を振るうかのように面を弾くのに使った右腕に切っ先を抑え込まれた竹刀の刃の部分が面の防具の下から潜り込み、直に肌に触れていた。

―――真剣ならば頸動脈はもとより、気管も裂かれ最悪頸椎もぶった切られていた。

「ま、参った……」




「父上あれは!本当に……剣術の素人なのですか!?」

幼いながらに武術を叩き込まれてはや数年、清十郎は戦慄を覚えていた。
門下生の同年代は清十郎に勝てない、始めた年齢があまりに違う。スタート地点から違うのだ。清十郎に彼らが勝てる通理はない。

それは兄と、そのさらに年下の少年であれば絶対の壁として立ち塞がる……筈だったのだ。


「空手の浮舟から面に見せかけ首への一撃―――助六郎の大袈裟すぎる防御の癖を見破り剣道ならばまったく意味のない急所への一撃。
 しかも見てみよ、竹刀の弦が張られている側。つまりは峯の部分を抑え込み梃子の作用と自身の体重で威力を倍加させとる。」

日本刀が片側にしか刃がないことを利用し、短槍として扱った。そういうことなのだ。
つまり、竹刀を完全に真剣と思い込んで扱っていた。……はたしてそれだけの執念と呼ぶべき真剣さを持つ剣術家は果たして何人いるだろうか。

「それにあの足位置、実戦ならばあれに大外刈りも加わっておる。………これが剣術の試合だというのに、短槍術、空手、柔道その技を剣術に最適化させる工夫を加えつつ連携させよった。」
「しかし、これは剣術の試合ですよ。」

「だからこそよ。何でもあり、それが実戦というものよ。生きるか死ぬかの瀬戸際に作法なんぞ要らぬわ、そして実戦を想定したものが稽古という物であろう。
―――清十郎、貴様もあれを見習え。何故やつが竹刀で真剣の戦法を取ったか、つまりは本当の意味で真剣である。ということよ。」

「……!!」

真剣になる。その本当の意味をあの時知らされた。
稽古だからルールがある、そんな定型通りの教本通りに演じるお遊び剣術に浸っていたのだと思い知らされた。
稽古とは実戦を想定して行うものだ。竹刀とは持っているのが真剣であるという前提でふるうのだという事を失念していた。

―――真剣さが足りなかった、まさに竹刀を振っていただけだったのだ。


「にしても、惜しいな。天武の才を持ち、それを生かす愚直さも持つ。まさに逸材―――微温湯につけて(さび)させるのは勿体ない。」


その後、その少年……柾忠亮は二年に亘り様々な流派を訪れその技をまるで砂が水を吸うように吸収し融合・醸成させ凄まじい勢いで成長していった。

そして中学卒業と同時に斯衛の門を叩くのだった。





「まさか斑鳩家への養子入りした人間が君とは思わなかったよ柾。」
「ふっ、今は斑鳩だ。……尤もそう遠くないうちにまた名が変わりそうだが。」

見知った顔と言わんばかりに言葉を交わす忠亮と甲斐中尉。

「甲斐中尉、ひょっとして知り合いなのですか?」
「ああ、そうだよ智絵。柾忠亮……訓練校時代の同期さ。彼はその中でもずば抜けていたよ。」
「首席のお前に褒められても嫌味にしか聞こえんとあれ程言っただろ。」

「という気難しい連中は閉じた環境だと存外に多いとね、こっそり忠告してくれる良いやつだよ。」
「―――相変わらず嫌味の通じん奴だ。」

白を纏う女性士官、今井少尉の問いに答える甲斐中尉の言葉に思わずため息を吐く忠亮。
この男は優しげな物言いと的確な言葉でそこそこの人気はあったのだが、それ故に誰とも深く付き合おうとはしなかった。

その中で帝国軍から斯衛に移籍するのではなく、最初から斯衛軍の訓練校であるがゆえに周囲と浮いていた忠亮とは成績が近かったこともあり話すことが多かった。
なんというか、一見素直だがそれ故に内面は360度捻じれて素直に見えるという珍妙な性格だったのが印象的でもある。


「で、揃いも揃ってどうした?」
「ああ、もうすぐ貴様も欧州に向かうからな。仮にも摂家、身一つで要人を海外には置いておけんからな、身辺警護のための独立小隊だ」

「なるほど。」

真壁助六郎の言葉に得心を覚える。摂家と言えば諸外国では準王族として扱われる、日本帝国皇族が人類最古の王族であり、それに付随する摂家もまた文化的・外交的価値は計り知れず、それを確かに一人で放置するわけがない。

また―――日本帝国は欧州と協調路線を取っているが烏合の集である欧州は一枚岩ではなく、当然現在の政策が目障りな人間もいる。
また、現在アフリカで勢力を強めつつあるテロ勢力も日本を敵視している。さらに付け加えるのなら大戦後欧州各国に根付いた移民も含めるとその政治様相は混沌と形容するに限る。

最近の国際情勢に言える事だが、BETAという共通の敵に対し表面上は上手くまとまっているように見えても実態は水面下で槍を突き刺し合っている状態。
ある意味私立病院の医師が水面下では医局どうしで牽制しあっているのに似ている。
もう一つ例えるのなら、第二次世界大戦中に日独同盟を組んでいたが、お互いがお互いの敵国に対し全く共闘していなかったのにも似ている。

そんな爆発寸前の政治的紛争地帯、どんな爆発連鎖が起きるかは分からないが良くなることはない。
欧州側もそれ相応に対策は行うだろうが、繰り返すが政治的紛争地帯だ。誰が敵で味方かすらも分からない。

―――むしろ、護衛が三人。しかも一人は新兵も同然。
かなりの不安材料ではある。
尤も、その危険を前提に行うのが外交という物でもある。


「―――斑鳩忠亮大尉だ、見ての通り武力としてはてんで役には立たん。諸君等の命に頼らせてもらう、良しなに頼む。」

自身の警護を受けた三人に向け宣言する。
まだ傷の癒えぬこの身は日常生活とて十全にはこなせない。守られるだけの非力な存在だ。
それでもなお、彼らの命を預かる立場でもあるのだ、相応の風格というものを持たねばならない。


「帝国斯衛軍 甲斐朔良中尉。その旨を承る。」
「同じく帝国斯衛、今井智絵少尉。身命賭して仕ります。」
「はっ!真壁清十郎中尉であります。斯衛の使命、見事全うして見せますっ!」

敬礼と共に三人がそれに応えた。
それを聞き届けた真壁助六郎は一歩前へと踏み出て宣告する。

「これを以て貴官ら三名の第21独立警護小隊着任を認む。存分に奉仕せよ。」

「「「了解ッ!!!」」」
 
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