少年少女の戦極時代・アフター
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After14 舞の帰還
ロード・デュークにWライダーキックを入れた龍玄と月花の内、月花が戻ってきて斬月と交替する。
龍玄がブドウ龍砲を、斬月が盾のガトリング砲を向けてロード・デュークを威嚇する間に、月花がバロンを縫い止める矢を次々と抜いていった。
『どうしてここが分かった』
『貴虎お兄さんがぐーぜん見つけて、車で追っかけてる途中で乗っけてもらったの! ってそれはいいから。あたしたちが来なかったらどうする気だったの。反省しなさい反省!』
『来なくてもどうにかなった』
バロンは大真面目に答えた。どのような絶体絶命の危機であっても、彼には己でそれを覆せるだけの力があるという自信があった。
この矢の檻とて、少々のダメージを無視すれば破れないことはなかった。
『もー!』
『咲ちゃん咲ちゃん。これが戒斗さんのデフォルトでしょ。いちいち怒ってたら保たないよ』
比較的近くに下がって来た龍玄が言った。遠慮なく。
そこで月花たちの中の誰でもない笑い声がした。
『いやあ。実に面白いね、キミたち。敵を目の前にその漫才みたいなやりとり!』
月花が、バロンが自ら出られる程度に矢を抜いたので、バロンは前に出て龍玄と並んだ。
『お前……まさか、凌馬か』
『さあね。教えてあげないよ、貴虎には』
『お前が凌馬のはずがない。凌馬はあの戦いの中で死んだんだ!』
斬月は目に見えて狼狽している。これ以上の両者の会話は避けるべきだ。
『答えろ。葛葉と舞を無力化したというのはどういう意味だ』
『『え!?』』
龍玄と月花が声を揃えてバロンを向き、ロード・デュークに向き直った。
『さっきの矢で、ちょちょいとね。あの矢にはインベスの力を封じる効能があるんだ。我らが神と女神は言うなれば最強のインベス。覿面に効いたよ。別に殺したわけじゃないから安心するといい。ああ、それと、私を討ったところでこの矢の効能が消えるなんてご都合展開は起きないから』
大弓のストリングが連続して引かれ、離された。その数の分だけソニックアローが飛んでくる。
前衛にいた斬月は盾で防いだが、さすがに3人もの人間をカバーするには至らない。
斬月が防ぎきれなかったソニックアローがバロンたちへ向かってくる。
――その時。まるで、そこだけ時間の流れを切り取ったかのように。
――一人の白い少女が、両者の間にふわりと入った。
『ヘキサ!?』
現れた少女は、この中で最も弱く脆いはずの呉島碧沙だった。
ヘキサは答えず、腕を上げて手の平をロード・デュークに向けた。
ヘキサの手の平の先に不可視のバリアでもあるかのように、ソニックアローの群れは全て爆ぜた。
「去りなさい。彼らはあなたが傷つけていい人じゃない」
『女神サマ直々のお達しじゃしょうがない。――また遊ぼうね。アーマードライダー諸君』
ロード・デュークはひらひらと手を振ると、青い霧となってその場から消え去った。
誰も、戒斗自身さえ、展開に着いて行けなかった。
ヘキサはヘキサだが、大きく異なる点がある。
ヘキサの服装が、舞が“はじまりの女”になった時に着ていた白い祭服なのだ。
『碧、沙?』
深い色のまなざしが、一番に呼びかけた龍玄に向けられた。
「ミッチ……」
その愛称で光実を呼ぶのは、ビートライダーズの仲間と、そして宇宙の果てへ去ったあの二人だけと、戒斗でさえ知っていた。
『舞、さん? 舞さんなんですか!?』
光実がロックシードを外して変身を解き、ヘキサに歩み寄る。
「うん、舞だよ。ひさしぶり、ミッチ」
「舞さんっ」
光実は感極まったようにヘキサを抱き締め、はっとしたように引き剥がした。
「すみません! 見た目が碧沙だったから、つい」
「ミッチは本当にヘキサちゃん大好きだねえ」
中身のお前も光実は好きなんだぞ――と、言おうものなら笑顔の制裁が待っているので、言わないバロンであった。
バロンと月花、戻って来た斬月も錠前を閉じて変身を解き、ヘキサのもとに集まった。
「でも舞さん、どうしてヘキサに?」
「前にヘキサちゃんがあたしに血を飲ませてくれたからじゃないかな。多分、あたしのほうがヘキサちゃんに引き寄せられたんだと思う」
――舞のオーバーロード化を止めるために、ヘキサはヘルヘイム抗体を持つ自分の血を舞に飲ませた。それが運命の戦いの鏑矢となるとは、あの時は誰も思わなかった。
「ヘキサは?」
「いるよ。今のあたしたちの話もちゃんと聞こえてる。間借りしてるのはあたしのほうだから。ヘキサちゃんがその気になれば、あたしのほうが追い出されちゃうだろうね」
「ヘキサはそんなことしないよ」
「――。そうみたいね」
尋ねるような間を置いてから、ヘキサ――の体の舞は微笑んだ。
「舞さん。何があったんですか? あなたが地球に戻って来るなんて。まさかオーバーマインドのことが関係してるんですか?」
「……オーバーマインドのことは、そもそもあたしたちに原因があるの」
戒斗たちは顔を見合わせた。
「あたしが地球へ来たのは、全てをみんなに説明するため。話すよ。あたしと紘汰の新しい星であったこと全部」
「そ、それなら場所を変えましょう。僕たちだけじゃなくて、他のみんなも呼んだほうがいいだろうし。えっと……」
「私たちの家に来てもらっていいか? 体は碧沙なんだ。それに多人数のライダー関係者が集まるなら、うちがちょうどいい」
「兄さん……そうだね。咲ちゃんと戒斗さんは」
「行くっ」
「しかたない。付いて行ってやる」
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