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4部分:第四章


第四章

「約束したしね」
「じゃあいいわね」
「けれどさ」
 しかしここで牧男もまた言うのだった。
「すねこすりだった場合はだよ」
「ええ、わかってるわよ」
 江美は憮然として答える。
「牧男君の言うこと何でも聞いてあげるわよ」
「きっとだよ」
 牧男はこのことを強調してきた。
「きっとだよ、絶対だよ」
「わかってるわよ」
 牧男があまりにもしつこいので少し頭にきてもいた。
「わかったから何でそんなに言うのよ」
「まあちょっとね」
 牧男はここでは何か思わせぶりに笑うのだった。
「色々とね。確かめたくてね」
「何も確かめるものなんてないじゃない」
 江美は牧男が何を言いたいのかわからず苛立ちを顔に見せて述べた。
「そんなの。違うの?」
「いいから。ともかくよ」
 江美はここで話を変えてきた。というよりかは元に戻してきた。
「これからだけれど」
「うん、行こう」
 牧男の方から誘ってきた。江美の機先を制したのだった。
「それじゃあ」
「わかったわ。じゃあね」
 こうして二人で向かうのだった。二人は横に並んで夜道を進んでいく。暫くしてだった。その足元に何かまとわりついてきたのを感じたのだった。
「来たみたいだね」
「そうね」
 二人で顔を見合わせて言い合う。
「そのすねこすりがね」
「猫よ」
 二人はここでも言い合った。
「猫に決まってるじゃない、そんなの」
「だからすねこすりなんだって」
 江美も牧男も力説する。
「妖怪なんている筈がないのに」
「いるって。絶対に」
 こうした話にもなるのだった。
「賭けてもいいよ」
「だから賭けてるじゃない」 
 江美はこれまた身も蓋もない突込みで返した。
「そうでしょ?今実際に」
「それもそうか。そうだったよね」
「そうよ。とにかくよ」
「うん」
「見てみるわよ」
 話をそこに戻すのだった。
「足元。いいわね」
「うん、じゃあ」
 こうして二人で足元を見る。するとそこにいたのは。
 垂れ耳で白い毛をしていてあちこちに黒と茶のぶちがある。尻尾はあまり長くはない。そして丸い顔をしていて短い足が四つある。そういう生き物であった。
「ほら、これってあれよ」
 江美はその生き物を見てから顔をあげて牧男に言ってきたのだった。
「猫でしょ?これって」
「猫ってこれが?」
「そうよ。猫じゃない」
 江美はここぞとばかりに言う。
「これって。そうでしょ?」
「いや、違うよ」
 しかし牧男はそれは決してそうではないと主張するのだった。
「それはね。絶対に違うよ」
「何がよ」
 だが江美はそうではないと言うのだった。
「何処がよ。これって絶対に猫じゃない」
「猫って?これが?」
「ほら、垂れ耳で」
 その生き物の耳を指し示しての言葉だ。
「これが何よりの証拠よ」
「垂れ耳の猫なんているの?」
「スコティッシュフォールドよ」
「何それ」
 それは牧男が全く知らない名前の猫であった。名前を聞いても目を丸くさせている。
「聞いたことないけれど」
「あれっ、知らないの?」
「うん、何それ」
 その丸くさせた目で江美に尋ねるのだった。
「その猫って。何なの?」
「だから。垂れ耳の猫なのよ」
 江美の説明はかなりわかりにくいものである。しかしそれでもそれは子供らしいものではあった。
 
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