少年少女の戦極時代・アフター
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After4 土を泳ぐ殺人魚 ②
その青年は、いかにも一市民という、これといって特徴のないヒトの姿をしていた。
「あんたが……あの人にあんなこと、したの?」
だが外見がどうあれ、この凄惨な場で平然としていられる青年が「まとも」だとは、咲には思えなかった。
「あんなこと? ああ、アレ。もうちょいやり様があった気がして俺も不完全燃焼なんだよねえ。オーバーマインドってやつになってから色んなプレイできるようになったけど、最近はマンネリだわ~」
青年は茂みへ歩いて行き、三脚の上のスマートホンを取り上げ、コンビニ袋から出した電池型充電器を射した。
「そういうそっちは、ドライバー着けてるってことは、ロードが言ってたアーマードライダーってあんたたちでいいんだよね。せっかく地球に帰れた俺たちを殺そうとしてる物騒な連中」
「あんたのほうがよっぽど物騒じゃないの! オーバーマインドの力で何人殺したのよ!」
「オーバーマインドになってからはまだ10人は行ってないなあ。それより前は覚えてねえや。――で、さ」
青年からヘルヘイムの植物が吹き出し、全身を包んで葉を散らした。
サメだ。通常のサメとは異なり、二足直立歩行のサメのオーバーマインドインベス。歯だけでなく、ヒレも鋭い攻撃をくり出してきそうだ。
『あんたらは、えーと、アーマードライダーグリドンと月花でOK?』
「黒影だ!」
『黒影と月花ね。ま、どっちにせよライダーに遭ったら始末しろってロードには言われてるし~』
「ロード……?」
サメインベスの目線が咲に流れた。
『でもそっちのお嬢ちゃんは撮っときたいなあ。絶対イイ顔で泣いてくれるよなあ』
サメインベスがスマートホンを構えた。
『じゃあまずはそっちのお嬢ちゃんから~。インベスじゃ男女もオトナコドモもなくてつまんなかったんだよな~』
すると、サメインベスはずぷん、と地面に沈んで消えた。
魚介類なのに土の中が平気なのかと、咲は驚いた――が、そんな隙を見せたのが失策だった。
咲の足首を、土から生えた腕が掴んだ。
「や、なに、いやっ、このぉっ」
ざらざらした手は咲の足を離そうとしない。それどころか、サメインベスの手が咲をずるずると土に引きずり込み始めた。
『だーいじょーぶだって。痛いのは最初だけだから。てか痛くなくなってきたら、また別の痛いことしてあげるからさ』
「いや、やだぁ!」
「咲ちゃんッ!」
引きずり込まれていく咲の手を、城乃内が掴んだ。しかし掴んだだけでは止まらないと城乃内も悟ってか、咲の脇下に両腕を入れ、どうにか穴から担ぎ上げようとした。
わずかに咲の足が浮くが、そこまでだ。
「くっそー!」
「城乃内くん、はなして! ひきずりこまれちゃうっ」
「こ、んなの……! 地獄のパティシエ修業に比べたら~~!」
また咲の足が沈み始める――
その時、咲の足元に紫の光弾が着弾した。
サメインベスの手が土中に引っ込んだ。
咲は城乃内に引っ張り出され、二人して勢いのまま後ろに絡まって倒れた。
『咲ちゃん! 城乃内さん! 無事!?』
龍玄が公園に駆け込んだ。サメインベスの手だけを、龍玄が的確にブドウ龍砲で撃ったのだ。
「光実くんっ」
「ミッチ、マジGJ!」
『二人とも今の内に変身して。僕が引きつけておくから』
龍玄がブドウ龍砲を構えつつ、咲たちをガードする位置に立った。
「サンキュー。――咲ちゃん!」
「はい!」
城乃内たちは二人してドライバーを装着し、それぞれの錠前を開錠してバックルにセットした。
「「変身!!」」
《 カモン ドラゴンフルーツアームズ Bomb Voyage 》
《 ソイヤッ マツボックリアームズ 一撃・イン・ザ・シャドウ 》
炎を象った鎧と、マツボックリの意匠の甲冑が、それぞれ落ちて、二人を月花と黒影に変身させた。
『なんだよ~。変身したらつまんねえじゃん』
ずぷん。月花たちの正面にサメインベスが顔を半分だけ出した。半分だけでも不機嫌なのは伝わった。
サメインベスの全身が土中から浮き上がった。
『あんた喜ばせずにすむなら、変身してバンバンザイよっ』
『んじゃ変身解いてもらって撮影のやり直しだな。あと俺のお楽しみ邪魔したお前らは後で殺すから』
サメインベスが、くあっと大口を開けた。口から吐き出されたのは、水の塊。
放たれた水球を、月花も黒影も龍玄も避けた。
後ろでは、水球がぶつかった木が折れ、ブランコのチェーンが切れて、きぃきぃと不協和音を上げていた。
『このヤロっ!』
黒影が影松を揮ってサメインベスに斬りかかった。しかし、サメインベスはざらざらしたヒレを盾に影松の一撃をあっさりガードした。――体表が硬いのだ。
黒影も察したようで、すぐサメインベスから距離を取った。
『直接攻撃より、エネルギー波とか当てたほうがやれる可能性は高そうだな』
サメインベスの姿はない。おそらくまた土中に潜った。
月花、黒影、龍玄は互いに背中合わせになり、おのおのの得物を構え、サメインベスがどこから現れてもいいよう警戒態勢を取った。
『! そこ!』
龍玄がブドウ龍砲を撃った先では、背ビレを、ここが海であるかのように現して泳ぐサメインベス。
残念ながらサメインベスが潜ったせいで紫のエネルギー弾は当たらなかった。
(土の中を泳ぐ……土の中を……そうだ!)
『城乃内くん! 光実くん! 高い遊具の上に上がって!』
ここで意図を聞き返さず、月花のようなコドモ言う通りにしてくれる彼らは、本当に月花にはもったいないほど良き戦友だ。
月花自身も平均台の遊具に乗り、カッティングブレードを拳で叩き落とした。
《 ドラゴンフルーツオーレ 》
両手に持てる限りのDFボムを出しては投げ、出しては投げた。公園の地面を絨毯爆撃した。
『やった!?』
成果を確かめるべく、月花は遊具を下りた――それがいけなかった。
がし!
ざらざらしたサメ肌の両手が、凸凹の地面から生えて月花の両足首を掴み、一気に引きずり込んだ。
『『咲ちゃん!』』
『ざーんねんでしたー。俺ってば結構深くまで潜れちゃったりするんだよね』
月花の体が、戦極ドライバーを装着した腹部に至った時、土中に埋まるというありえない事態にドライバーが動作不良を起こしたのか、咲の変身が解けた。
後書き
サメインベスのアイデアを下さいましたハーメルンのスーパーかみ様にこの場を借りて感謝を申し上げます。本当にありがとうございます<(_ _)>
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