魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~
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空白期 中学編 22 「賑やかな八神家」
「……今から……八神家恒例の闇鍋パーティー、背後からあの子の胸を掴め! を開催……あぁ何でそこで電気つけるん!?」
いや……付けるだろ。
俺は今日久々にはやてに夕食に招待されたのだが、これといって何も聞かされていなかった。これまでの付き合いから訳の分からないことをやろうとしているのだろうと思ったのは言うまでもない。
とはいえ、俺も伊達にはやてと長いこと友人をやっていない。多少のことなら目を瞑ってやろうと思ったさ。だがな……タイトルのあとのやつはなんだ。完全にセクハラだろ。やるのははやてだけだろうけど。
「ショウくん! ショウくんは……シグナムの胸を揉みたいと思わんのか!」
こいつは何を言っているのだろうか……俺がやると犯罪なのだが。
というか、なぜシグナム限定なのだろう。ヴィータはまあともかく、この場にはシャマルだっているというのに。ザフィーラは男性なので省かれたのは分かるというか当然なので触れないでおく。
ザフィーラは寡黙だからあまり会話に入ってこないけどいるからな。そもそも、地球では基本犬扱いだから会話に入りにくいだろう。
かれこれ知り合ってからそれなりに経つわけだが……何でザフィーラは犬扱いされるのだろう。どこからどう見ても狼だよな。まあ当人達が良いのならそれでいいんだが。
「主はやて、どうしてそこで私の名前が出るのですか!?」
「そりゃ1番胸がでかいからだろ。それにショウだって男だし」
「ヴィータ、これ以上はやめろ」
お前はシグナムが胸にコンプレックス持ってるの知ってるだろう。そこを弄るようなことは言ってやるな。
「そうよヴィータちゃん、シグナムは胸が大きいこと気にしてるんだから言ったら可哀想よ」
「シャマル……それはあたしより傷つけてる気がするぞ」
「お前ら、そのへんでやめろ」
シグナムの言うとおりである。
親しい仲にも礼儀ありだ。いくら俺が家族のような付き合いがあるとはいえ、性別は男なのだ。胸の話をされても反応に困る。
下手に反応すればシグナムに気があるといったように取られ、そうなれば彼女がさらに追い込まれる流れになる。
シグナムは親しい間柄ならたまに弄ったりする奴だし、普段は性格的に弄られるタイプではない。なのできちんと限度を見極めないと取り返しのつかないことになる。
「男だっているのだぞ。それに……」
「おやおや~シグナム、今の発言からしてショウくんのことを男して見とるんか?」
「見てるんですか?」
にやけたはやてに続いてリインも真似してシグナムに近づく。必然的にシグナムは顔を赤らめ言葉を詰まらせる。
シグナムにとってはやては主であり、リインは誰もが可愛がっている末っ子だ。それだけに本気で反論がしづらい。
「いい加減にしろ」
「――っ!? ……今のは割りと痛かったんやけど」
はやては両手で頭を押さえながら振り返る。客観的に見れば可愛く見えるのだろうが、俺からすれば見慣れた光景だ。故にここで終わるような真似はしない。
「痛くしたんだよ」
「……暴力反対や」
「ショウさん、リインにはないんですか?」
……はやて、お前がバカなことばかりするからリインがおかしなほうに進んでるじゃないか。
真似をしたりするのは人間らしくなっていると言えるので喜ぶべきことでもあるが、このまま成長されるのは困る。はやてがふたりになってしまったら堪ったものではないし、何よりファラとセイがどう反応するか……姉代わりとして可愛がっているだけに、はやてのようになってしまったらきっと絶望してしまうだろう。
「あのなリイン……別にお前のことを仲間外れにしたわけじゃない。けどお前にも怒ってはいるんだからな。人の真似をするなとは言わないが、本当に嫌がっている相手にはああいうことはするな」
「……分かりました。ちゃんと判断できるように努力します」
感情を素直に表に出すリインは、落ち込むと実にしょんぼりという表現が合う言動を取るので反省しているのが分かりやすい。なので今後は気を付けろと言いながら頭で撫でてやりたくもなる。
……しかし、リインの主様は本当に反省しない奴だな。次は自分の番かな、と言いたげな顔でこっちを見てきているし。
「はやて、言っておくがお前にはしないぞ」
「何でや、昔は頭撫でたり手を繋いだりしてくれてたんに。最近のショウくんはケチやな」
誰がケチだ。中学生にもなって頭を撫でたり手を繋いでるほうがおかしいだろ。お前だってそう思ってるから前ほど必要以上に近づいてこないんだろうが。
「人にセクハラする奴が何様だ。大体自分がされたら嫌なことをするなよな。お前だって……」
はやてが他人から……、ということを考えてしまったせいか、不意に夏の出来事がフラッシュバックする。事故というかはやてのせいではあるのだが、あの日俺は彼女の胸を何もない状態で見そうになってしまった。互いの反応が早かったので見てはいないのだが、それでもあれは刺激の強い出来事だった。
顔が赤くなってしまっていたのか、はたまた付き合いが長いだけに俺の考えていることを直感的に理解したのか、はやての顔に赤みが差す。彼女は俺の襟元を掴むと揺さぶりながら口を開いた。
「ちょっショウくん、何を思い出しとるんや!」
「べ、別に思い出してない!」
「慌てとるってことは思い出しとるってことやないか!」
実際に思い出してしまっただけに言い返しにくい。
だがここで引くわけにはいかない。はやてに何かしたとあっては、はやて大好きのヴォルケンリッターがどう動くか分かったものではない。
「おやおや~はやてちゃん達、何のお話をされてるんですか?」
「シャマル……お前はまったく」
「数少ないシャマルの楽しみなんだろ。まあ聞いたところでいつもどおりイチャついてたってだけだろうけどな」
別にイチャついているつもりはないのだが……何ていうか、ヴィータの奴えらくドライというか反応が薄いな。昔は子供らしいところもあったのに、やはり時間というものは人を成長させるということか。見た目は全く成長していないし、のろいうさぎが好きなところは変わっていないが。
「ヴィータちゃん、そんなの聞いてみないと分からないじゃないですか。おふたりだってもう中学生なんです。私達の知らないところであ、あんなこととか……こここんなこととか」
「シャマル! 貴様、時と場所を考えろ!」
「だって最近の子供は早いって話を聞いたんだもの! ふたりは同年代よりも精神年齢高いから私達の予想以上なことしちゃうかもしれないじゃない!」
するか!
そういう知識は保健の授業やらもあって知ってはいるが、付き合ってもないのにそんなことをするわけがない。大体その手の話は俺達よりも先にクロノ達が話に出るべきだろう。年齢とか関係性的な意味で。
「シャマルにシグナム、年長者のお前らが本人達よりも取り乱してどうすんだよ。なあザフィーラ」
「ここで我に振るのか……まあ別に構いはしないが。しかし、実際にシャマルの言ったようなことになっていれば問題はある。一概に責めることはできまい」
「それはそうだけどよ……別にそんときはショウが責任取ってはやてをもらうだけだろ」
すき焼きを食べながらいつもと変わらない口調で言われたため聞き流しそうになったが、今ヴィータはとんでもないことを言わなかっただろうか。俺が何かすればはやてを嫁にもらう的なことを……
「ちょっヴィータ、何を言うとるんや!?」
「ん? あたし、そんなにおかしなこと言った?」
「自覚がないんか!?」
「自覚がないっていうか……あたしがはやてをやってもいいって思ってる相手はショウだけだかんな。まああたしだけじゃなくシグナム達も同じだとは思うけど」
な、何だこの外堀から埋められていく感じは……。
ヴィータはさぞ当たり前のように言っているが、いつから俺はそこまで信頼されていたのだろうか。いや、信頼されている感覚はあったが……これほど言われるまでとは思っていなかった。事故でもはやてに不埒なことをすれば総出でボコられそうと思っていたし。
「今日のヴィータはいけずさんや。そういうんは昔からやめてって言うとるやないか。わたしとショウくんはそういうんやないんや。そもそも、わたしもショウくんもまだ結婚できる年やないから!」
「まだってことは……つまりは将来的には考えているんですね!」
「シャマルもいけずさんやな! しばらくシャマルの分だけご飯作ってあげんで!」
何だと……はやて、気持ちは分からなくもないがお前はシャマルに自分で作って食べろと言っているのか。あんな味の表現が難しいものばかり食べていたら一般人は味覚が死ぬぞ。
しかし、シャマルの料理の性質の悪いところはそのような感想を抱くものの決して吐いたりするレベルではないということだ。はやてが指導しているらしいのでまともになってきていると聞いたことがあるが、今であれだとすると初期はどのようなものだったのだろうか。
気になりはするが食べてみたいとは思わない。だが……体調が悪いときにシャマルの料理は役に立つのだ。栄養面はパーフェクトなのか風邪ならば大体次の日には治っている。また味覚が正常ではなくなっているので普段ほど刺激はない……それでも不味いのだが。
「はやてちゃん、それはあんまりです。というか、何で私だけなんですか。ヴィータちゃんだって同じようなこと言ったのに!?」
「おいシャマル、人のこと巻き込もうとするんじゃねぇよ。お前の料理なんか絶対あたしは食わねぇかんな。お前の食うならインスタント食べる!」
「インスタントははやてちゃんが許しませんよ!」
「だ、だったら……」
ヴィータの視線が宙をさまよった後、この中ではやての次に家事ができる俺で止まった。次に紡がれる言葉は容易に予想できる。
「ショウに作ってもらう。それなら文句ねぇだろ!」
「ありますよ。それじゃあショウくんに迷惑を掛けちゃうだけじゃないですか!」
「別に迷惑とは思わないけど……前より下手になってるかもしれないぞ。最近はディアーチェに任せてるから」
言い終った瞬間に気が付いたが、俺は余計なことを口に出してしまった。あのシャマルのことだ。ディアーチェの名前を出せば……
「ショウくん……つかぬ事をお聞きしますが」
「あ、あぁ……シャマル、顔が近いんだけど」
「気にしないでください。私とショウくんの仲ではないですか」
どういう仲なんですかね。というか、それははやてとかの専売特許じゃなかったんですか。
「ディアーチェちゃんとはどこまで進んでいるのですか?」
「ど、どこまでって……友人のままだと思うけど」
「一つ屋根の下に住んでいるのにですか?」
「シャマルが考えてるようなことがないように気を付けているというか、普通に暮らしてたら起こらないわけで……」
お互い生活習慣は決まっているほうだし、ノックといったことも忘れない。まあ少し気を張っているというか、変に頑張りすぎているように思うときもあるが……最近ははやてとかと出かけることも多くなっているし、気分転換は出来ているはず。俺が気を遣いすぎるのはかえって気を遣わせるだけだろう。
「そうですか……では」
「まだあるのか?」
「あります、ありますよ。ズバリ、はやてちゃんとディアーチェちゃんの料理はどちらが美味しいですか?」
なかなかにぶっこんでくる奴だな。今日のシャマルは何だか少しおかしいというか、テンションがハイになっているような……。
「えっと……両方美味しいと思うけど」
「そんな逃げはいりません。男らしくはっきり応えましょう、さあ、さあ!」
だから顔が近いって……そもそも、お前らのせいで俺まだろくにすき焼き食べられてないんだけど。それなのに応えろってのは酷な話じゃないのかな。
はやての料理は昔から食べているから美味いのは知っている。ディアーチェのも前から度々食べていたし、今年の3月の終わりからは毎日のように食べている。彼女の料理の腕前は、おそらく地球にいる人間では俺が最も知っているだろう。
「……まあほんの少しの差ではあるけど、しいて言えば」
「しいて言えば?」
「……ディアーチェかな」
最初の頃ははやてのほうに軍配が上がっていた気がするが、ディアーチェはホームステイが始まってからしばらくの間は味付けについてよく質問してきた。最近ではなくなったが、多分食べている様子を観察して判断しているのだろう。そうでなければ、俺好みの味付けを常に出せるわけがない。
「はやてちゃん聞きましたか! このままではディアーチェちゃんに負けてしまいます、というか負けちゃってます!」
「別に王さまと張り合ってへんし、一緒に暮らして毎日のように作っとるんならショウくん好みの味付けも熟知しとるやろ」
「そんな冷静に分析していたらショウくん取られちゃいますよ!」
シャマル……もしかして酒でも飲んでるのか。いつものお姉さん的余裕はどこにいったんだ。ドジな一面があるから余裕があると言っていいものか自信もなくなりはするが、あえて今回は気にしない。
「シャマル、そのへんにしておけ。お前のせいでろくに食事が進められん。作ってくださった主はやてに対して失礼だ。ショウ、お前も気にしてばかりいないで食べろ」
「そうさせてもらおう。夕食はここで食うって言ってあるから家に帰っても何もないだろうし」
「彼女ならば言えば作ってくれるんじゃないのか?」
「それはそうだろうが……言いにくいだろ。というか、言うくらいなら自分で作る」
「……ショウさんとディアーチェさんって何だか夫婦みたいですね」
「リイン……それをあいつの前では言うなよ。はやてやシュテルみたいなタイプならまだしも、お前みたいなのに言われたら外に発散できなくて困るだろうから」
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