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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【東方Project】編
  080 お話、時々〝OHANASHI〟


SIDE 升田 真人

「うへぇ、気が重い」

俺は幽香の畑に向かいながら独りごちる。気が重い理由──それは昨日紫に言われた一言だった。

―貴方、私だけじゃなくて顔を出すべき〝女性(ひと)〟が何人か居るでしょう? ……ちなみに幽香とシホ──後、ミナだったかしら? 彼女達なら〝山〟の反対方向にある花畑に居る事が多いわ。〝彼女〟も待っているから。……これ以上は言わなくても判るわよね?―

紫の言う〝何人かの人〟──主にシホとミナだろう。不可抗力とは云え1350年以上も、何も告げずに離れてしまう事になったのだ。……気の1つ2つは重くなるのが人情と云うもの。

……ちなみに、現人神(あらひとがみ)は〝人間であり神でもある〟ので、俺は自分の事を〝人間〟であり──そして、〝神〟でもあるとカテゴライズしている。

閑話休題。

「……行くか」

次々と湧いてくる愚痴──もとい、自責の言葉を良いところで切り上げ、花畑へと歩を進める。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……【太陽の畑】とは名前変わってても、見てくれはそんなに変わってないな」

眼前にはまるで絨毯の様に拡がっている向日葵畑。……紫情報で、〝幻想郷での〟この畑は【太陽の畑】と呼ばれているらしい。……俺の主観では幽香と別れて数える程の日数しか経過していないので、俗に云う〝感慨深さ〟とかはほとんど無い。

……よくよく──群生している向日葵へと目を凝らすと、向日葵の向きをせっせと変えている──精霊やら妖精やらかは判らないが、そんなのが居るのが見える。……重かった気分が多少軽くなった気がする。

「……この家か?」

花畑の間の道をいくらか歩いていると、一軒家が建っているのが見える。……今は昼間なので大した威容を感じないが、夜に見ればまた違った(おもむき)が有りそうな──そんな家だった。

――「あら、こんな所に人間が何か用かしら?」

扉に備え付けられている向日葵の意匠があるドアノッカーを、いざ鳴らそうと云う時──背後に大して懐かしくもない気配を感じた。……堪らず後ろを振り返ればそこには──やはりと云うべきなのだろう。……風見 幽香がそこに居た。

SIDE END

SIDE 風見 幽香

(……あり得ない)

家の前で佇んでいる〝そいつ〟を見た時、一番最初に脳内を駆け巡った言葉は〝否定〟だった。……茶褐色の髪、背丈、肩幅──そのどれもこれもが、私に初めて泥を塗った〝あいつ〟と、どうにも〝似すぎて〟いる。

……良くも悪くも、妖怪の私から見れば人間の生は短い。〝あの時〟──時間が経ちすぎて最早記憶は風化しかけてい
るが、もう1000年以上は経過している。……それなのに、〝そいつ〟〝あの時〟から変わっていない──それこそ、〝2~3日空けただけ〟とか言われても信じてしまいそうになる程に変化を見せていない。……だから私は一番最初に〝否定〟した。

「あら、こんな所に人間が何か用かしら?」

やっと捻り出せた言葉は、何の捻りも無かった。……すると〝そいつ〟は私の方に振り向き、意を決した様に口を開いた。

「……久しぶり──約1300年振りでいいかな」

「……貴方の名前が升田 真人と云うのなら、〝久しぶり〟で間違いないわね。……〝ここ〟じゃあ家とかに被害が出るわね。一寸(ちょっと)ついて来なさい」

色々と物申したい事もあり、〝そいつ〟を向日葵が生えてない箇所に連れ立つことにした。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

太陽の畑から〝ひとっ飛び〟した広めの草原。私は真人をそこへ連れ出していて、私と真人は対峙していた。……これは──所謂〝あの時〟の雪辱戦である。

……よもや妖怪である私ですら〝永い〟と感じる1000年もの時を超えて雪辱を果たせるとは思わなかったので、気分も(いささ)か高揚しているのが判る。……年甲斐も無く、だ。

(……逢瀬(おうせ)に行く生娘(きむすめ)でもないのに、私は何をやっているのかしら…)

そう内心で呟きながら、高揚していた気分を落ち着ける。

「……準備は良いかしら? 今回は初手を譲るわけにはいかないけど、準備するくらいの間を待つのは(やぶさ)かでは無いわよ?」

「……それじゃあ、お言葉に甘えて。……〝禁手化(バランス・ブレイク)〟」

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

日傘の(きっさき)に居る真人は、左手の〝紅蓮の籠手〟右手に〝白銀の籠手〟を装着して、今となっては懐かしくもある姿に──ならなかった。以前は〝外套〟だった。……なのに、それが今度の姿ではまるで…

(〝鎧〟…?)

そう、赤い体躯に相反するかの様な白銀の籠手──暴虐の限りを尽くさんとする様な龍を模した恰好は、私の所感ではどこからどう見ても──〝鎧〟にしか思えなかった。

「私がこの小石を上に弾くから。……その小石が地面に着いた時が合図で良いかしら?」

「了解した」

取り敢えず威容に気圧されつつも、近くに落ちていた小石を拾う。その小石を真人に見せながら〝合図〟の事を説明すると、悩む素振りも見せず了承。……私はその小石を、力の(あま)り割ってしまわない様に注意しながら指で空へと弾いた

SIDE END

SIDE OTHER

幽香が弾いた小石は3メートル程の上昇を見せたが、やがて運動エネルギーを消失したそれは、今度は重力に引かれて落下する。……そんな真人と幽香の間には途轍も無い緊張感が迸っている。……もしここに〝武〟やら何やらに精通していない第三者が居ても、その第三者の目から見てもその緊張感を感じ取れるほどだっただろう。

「疾っ!」

以前──幽香からしての1350年前とは違い、今回の初手を取ったのは幽香だった。……一見日傘を振り下ろしただけの様に見えるが、そこは曲がりにも〝大妖怪〟。その威力は計り知れない。

『BoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

「ぐっ!」

回避するタイミングを失した真人は、幽香から振り下ろされた凶撃を両腕をクロスさせて防ぐ。……それだけで無く、振り下ろされる日傘の威力を感覚的に予知したのか、とっさに防御を上げる為にも〝倍加〟させる。……だが、それでも多少はダメージが通ってしまったのか〝鎧〟のマスクの奥で呻き声を上げる。

「まだまだよ!」

「なんの…っ!」

幽香は真人に連撃を与える為に、真人がら空きの胴体へと蹴りを入れようとする。……真人は、今となっては──比喩表現ではない、文字通りの[超人的]な危険察知能力で幽香の蹴りを察知し、バックステップで距離をとる。

「今度はこっちの番だ、な!」

『JET!』

先ほどの日傘によるダメージがある程度は抜けたらしい真人は、そう──仕切り直しとばかりに、まるで〝(ドラゴン)〟を想起させる様な翼をはためかせ、幽香へと肉薄する。

「がふ…ぅっ!」

「……さすがに同じ(てつ)は踏まないわよ」

その一瞬の攻防は、最終的に幽香に軍配が上がった。……幽香の鳩尾(みぞおち)を狙った真人の左手の拳撃は幽香に掴まれ、優雅に捌かれた。そして幽香は真人の左腕をそのまま一本背負いの様に投げ──物凄い勢いのまま真人を地面へと叩き付ける。

「……まだ、だぁっ! 100万V(ボルト)…“放電(ヴァーリー)”!」

「っ?! があぁぁぁぁっ?!」

一瞬だけ意識をトばしてしまっていた真人だが──回復した後幽香に負けじと、直ぐ様100万Vもの雷電を浴びせる。それには幽香もよろける事になり、真人の手を離してしまった。……当然、真人はその隙を見逃さずに幽香から距離を取る。

……云うまでも無く、辺りは滅茶苦茶になっている。ここまでくると、最早〝環境破壊〟の類いに近くなっている。……それに(いち)早く気付いた真人は、幽香へと〝ある提案〟をする事にした。

「……周りが滅茶苦茶だ。……そこで提案だ。そろそろ──次の一手で終わりにしよう」

――バチチチチチ!

「そうね。そろそろ終わりにしましょう。 ……さて、どこぞの魔法使いに盗まれた技を使うのは癪だけど…」

――コォォォォォ…

真人は〝雷〟の力で〝投擲槍(ジャベリン)〟を精製する。幽香は日傘の先を真人に向ける。日傘の先端に莫大な妖気が集束していく。

「2000万V…貫け! “ゲイボルグ”!」

「これが本家よ! “マスタースパーク”!」

放たれた二人の攻撃は幽香寄りの場所にて衝突する。そして〝轟っ!!〟──敢えて音にするなら、そんな音が鳴り響く。……その音が鳴り響いたかと思えば、今度は眩いほどの閃光が発生し──その発生した閃光は升田 真人、風見 幽香、両者の視界を──そして意識を、瞬くよりも早く灼いた。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE 升田 真人

「……知らない天井だ…」

目を覚ます。……ぱちぱち、と瞬きをして視界をはっきりとさせると知らない天井が在ったので、使って見たかった科白(せりふ)を呟いてみる。……大体〝この手〟の科白(せりふ)は邪魔されるのが常道らしいので──きまればきまったで、そこはかと無く嬉しいものがある。

(……そろそろ、誰かが来そうなんだが)

――コンコンコン

見知らぬ部屋、見知らぬ天井。〝お約束(テンプレ)〟なら幽香辺りが来そうなものである。……そんな有り得そうで──まず有り得ないだろう事を考えていると、不意にノックが鳴る。

「……どうぞ」

ノックの主に俺の返事は届いていたらしく、恐る恐ると云った風にドアが開かれる。

「……シホ?」

「真人…?」

ドアの向こうには、ある意味一番会いたく無かった少女──シホが居た。

「……まぁ、いろいろ言いたい事は有るだろうが、取り敢えずは、だな。……ただいま」

「っ…!? ……やっぱり、本当に真人は〝女たらし〟だったんだね。言いたい事は沢山有ったのにどうでもよくなっちゃったよ。……おかえりなさい」

涙を流しながらシホの笑顔は、他の何かとも比べるべくも無いほどに美しく思えた。

SIDE END 
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